カテゴリー「ブラジル」の106件の記事

2023/04/26

さわやかな風のように 〜 ナラ・ピニェイロ

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(2 min read)

 

Nara Pinheiro / Tempo de Vendaval
https://open.spotify.com/album/5khFt0geM4dWER1PYQC4Wk?si=SfrAzZdCSDmYo9b4Ifv5nA

 

ブラジルはミナスの新人、ナラ・ピニェイロのデビュー・アルバム『Tempo de Vendaval』(2023)。話題になっていますよね。アントニオ・ロウレイロの全面支援を受けできあがった作品で、ロウレイロは正直いってあまりピンとこない音楽家なんですが、ぼくは、でもナラの本作はかなりいいです。

 

ヴォーカル&フルートのナラはまずフルート奏者として世に出たらしく、本作でも歌が突出しているという印象はありません。楽器と歌が並列しているというか峻別せず対等な立場で並びあう溶けあうというのは、ミナスやブラジルだけでなく近年のポップ音楽における一つの特徴。

 

ロウレイロのプロデュースがそうした側面をいっそう強調させているように思えますね。ナラとロウレイロのほかには七弦ギターとコントラバス奏者という四人編成での演奏で、ロウレイロはもちろんドラムス、パーカッション、ピアノなど鍵盤楽器といった複数を担当しています。

 

情熱というよりまるでさわかやな風がすっと吹き抜けるようなクールな感触がアルバム全体にただよっているのが心地よく、曲はいずれもナラの自作ですが、ていねいに練り込まれアレンジされたサウンドがそれでも聴いた感じスポンティニスに響くのは音楽としてすぐれている証拠。

 

傑作だとか今年のブラジル音楽を代表するだとかはよくわからないんですが、たいへん気持ちのいい音楽であることはたしかです。ブラジル新世代、ミナス新世代がさほどでもないぼくだって、これはなんどもくりかえし楽しんでいます。

 

(written 2023.4.7)

2023/04/19

たぶん一生聴ける 〜 ニーナ・べケール『ミーニャ・ドローレス』

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Nina Becker / Minha Dolores: Nina Becker Canta Dolores Duran
https://open.spotify.com/album/4KKDLia9xJT8NM98jPfRvM?si=d0YJN4nbQNeo2OquSEuaFQ

 

都会の音楽が好きという記事を書こうとしてプレイリストをつくったとき、ふと思いついてニーナ・べケール(ブラジル)の2014年作『Minha Dolores: Nina Becker Canta Dolores Duran』も入れておいたんですが、流し聴きしていると最高に快適なのを、いまさらですが、またまた再確認しちゃいました。

 

Spotifyにあるニーナは全作聴いてみたものの、こんなアルバムほかにないですもんね。傾向がだいぶ違うっていうかMPB路線で、なかには前衛的でシャープなものもあったりして。決してよくないとは思いませんし、一つは記事にしました。

 

ですけれど『ミーニャ・ドローレス』は別格の、スペシャルな、心地よさ。保守的っていうか従来路線っていうか要するにぼく好みの古典派コンサバ音楽なのがいい。基本七弦ギターとバンドリンの二人だけ伴奏だっていうショーロな落ち着いたシンプルさもまたみごと。

 

ボサ・ノーヴァ勃興直前サンバ・カンソーン時代の人物ドローレス・ドゥランの曲をつづるヴォーカルもまろやかなおだやかさ。適切なぬくもりと湿り気を感じるちょうどよき声で、ニーナはふだんの姿から衣替えしてレトロにシフトし成りきっています。

 

いやレトロっていうかこうした静かで淡々と落ち着いた歌謡音楽は不変の魅力をいつの時代でも放っていて決して色あせないものなんじゃないかと思います。社会や人間がどう変わろうともチャームを失わない音楽で、さわやかなクールネスとほどよい官能が同居するこのアルバム、たぶん一生聴けるはず。

 

(written 2023.4.2)

2023/04/03

人生そのものが持つ美しさ 〜『João Gilberto Eterno』

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(3 min read)

 

v.a. / João Gilberto Eterno
https://open.spotify.com/album/4Pi56SuDVvDZPb6cwYrJUf?si=2wKc515PStSCnBF723XEsw

 

この『João Gilberto Eterno』(2021)ってなんだっけ?ジャケットだけ妙に見憶えがあって、ぼくたぶんCDも持っているはずと思うんですけど、ほとんど聴いた記憶がないっていう。ジャケットとアルバム題は初見じゃないけど、中身の音楽は未聴といっていいくらい。

 

Spotifyをぶらぶらしていて再見しふと思い立って、どんな音楽だったかちょっとかけてみよう、なんでも聴いてみなくちゃわからんとクリックしてみたら、これが!完璧にいまのぼく好みの丸くおだやかな現代ブラジリアン・ポップスで、こ〜りゃいいね!聴いてよかった。

 

タイトルどおりジョアン・ジルベルトにささげた内容で、ジョアンのレパートリーを中心に、その90回目の誕生日にあわせて日本で企画・リリースされたもの。Spotifyで見ると演者名がぜんぶカタカナなのはそのためですね。

 

演者は一見しておわかりのとおりジョアンの音楽を敬愛しているブラジルのミュージシャンたち。ジョアン・ドナート、ギンガ、モニカ・サルマーゾ、モレーノ・ヴェローゾ、ローザ・パッソスなど有名人もいて、さらに日本企画ということで伊藤ゴローや小野リサといった日本人ボサ・ノーヴァ・ミュージシャンも参加しています。

 

歌もの楽器演奏もの、いずれも美しく、しかも淡々としていておだやかで、こういう音楽は心に波風が立ったりしませんが、日々の癒しとして常にそばにおいて聴いていたいっていう、そういうなごめるものですよ。結局のところそうした音楽こそ人生で残るようになってきました。

 

ことさらに異様な美しさをたたえているものが多少あって、強く心を動かされた演奏もあります。フェビアン・レザ・パネのピアノ独奏による12「Valse」とジョイス・モレーノの13「Estate」。前者はクラシカルでエレガントな雅を放っていますが、後者はボレーロ的な微熱をも帯びた官能。

 

特に13「Estate」冒頭でジョイスのナイロン弦ギター弾き語りがあって、そこに一瞬のピアノぽろりん刹那ストリングスが流れ込んでくるあたりには、涙がこぼれそうに。なんて美しいのでしょう。人生そのものが本来持っている美しさじゃないかと思えます。

 

(written 2023.3.15)

2023/03/09

アンナ・セットンが聴かせる新境地 〜『O Futuro é Mais Bonito』

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Anna Setton / O Futuro é Mais Bonito
https://open.spotify.com/album/37jrPNa128mZXr7XpnY7Lo?si=W5WYVJUbSZaryf_s3trmhg

 

2018年のデビュー・アルバム『アンナ・セットン』がさっぱりさわやかで心地いい新世代ジャズ・ヴォーカル作品でしたから、それですっかりお気に入りになったブラジルの歌手アンナ・セットン。しかし21年の二作目は個人的にあんまりちょっと…っていう印象でした。

 

今年最新作『O Futuro é Mais Bonito』(2023)が出たもんで、どんなかな〜と思って、前作みたいだったらちょっとあれだな〜ってちょぴり警戒もしつつ期待を持って聴いてみたら、今度はわりといいんじゃないかなという気がします。

 

一作目の路線に戻ったのではなく、冒険っていうか実験的にチャレンジしている内容で、いままでの二作にないひろがりを感じます。それでいながら根底にサンバなど伝統的ブラジル音楽要素やジャジーなシンガー・ソングライターっぽい従来のたたずまいが感じられてグッド。

 

レシーフェでの録音ということで、同地の音楽家であるジュリアーノ・オランダやイゴール・ジ・カルヴァーリョもソング・ライティングに参加。アンナと前からコラボしているジョアン・カマレーロ、ロドリゴ・カンペーロ、エドゥ・サンジラルディもいます。

 

プロデューサーのバロ、ギエルミ・アシスの二人は知らない名前ですが、先進的なサウンド・メイクの鍵を握っているのかも。ブラジル音楽とジャズをベースとしながらも、レゲエやエレクトロニカ/アンビエントなど大胆にとりいれた繊細な表情はニュアンスに富み、なかなか聴きごたえがあります。

 

アンナのヴォーカルもデジタル加工してある部分があり、そうでないストレートな部分でも、歌を聴かせるという面と、さらに全体のサウンドのなかの一楽器として声を使っているというプロデュースもほどこされているように思います。大半コンピューターで音づくりしていて、それがけっこうおもしろいんですよね。

 

それでも一貫してブラジル音楽ならではのサウダージが底流に確実にある、全体的に、というのが間違いないとわかって、だからぼくみたいなコンサバ・リスナーでも共感できるんです。

 

ラスト10曲目「Sweet As Water」だけは歌詞もなぜかの英語。アンナとジョアン・カマレーロとの共作ですが、なんだかレトロっぽいなつかしのUSアメリカン・ポップスみたいなフィーリングで、しかしやっぱり哀愁感に満ちています。

 

(written 2023.3.5)

2023/03/04

雨の日曜の朝に 〜 ファビアーノ・ド・ナシメント

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Fabiano do Nascimento / Lendas
https://open.spotify.com/album/0REb0OWCAqDjbsEnInKJgl?si=yuFIyy_NQ4eEMQq704HEpg

 

ロス・アンジェルス在住のブラジル人ギターリスト、ファビアーノ・ド・ナシメントの最新作『Lendas』(2023)は一月に出ていたもの。ジャケットもきれいだし、すぐになんどか聴いたんですが、そのままほうったらかしで。

 

ところがこないだ二月中旬の雨で湿度の高い日曜日の朝に気が向いて聴きなおしてみたら、その美しさがとっても身に沁みて感動しちゃいました。空気みたいなふわっとしたおだやかで静かな音楽なので、一聴でピンとくるものではなかっただけかも、ぼくには。

 

ジャズでもクラシックでもショーロでもないブラジリアン・インストルメンタル・ミュージックで、でもちょっとジャズ寄りかな、ギターがどうこうっていうよりコンポジションがきわだってすばらしいと思います。八曲すべてファビアーノの自作。

 

ギター・トリオを軸とし、くわえて色彩を添えるヴィトール・サントス・アレンジのフル・オーケストラ・サウンドがあまりにもたおやかでやわらかい。ファビアーノよりむしろそっちのほうが本作の主役にほとんど聴こえ、ストリングスと木管の美しさに息を呑みます。アルトゥール・ヴェロカイの弦楽四重奏も5曲目後半で参加。

 

すみずみまで徹底的に練り込まれたウェル・アレンジド・ミュージックであることもぼくの嗜好にピッタリ。ひょっとしてファビアーノの弾くナイロン弦ギターのラインだってインプロヴィゼイションではないかも。

 

生き生きとした、っていうかナマナマしい、なまめかしさすらたたえていながらも、みずみずしいさわやかさがあって、熱帯を思わせると同時にかなりひんやりしたクールネスをも感じさせる音楽。ふくよかでありながら、同時に筋肉質な痩身の美を放っています。

 

最初はピンときませんでしたが、一度感動体験があるとその後はいつなんど聴いても、あぁなんて美しいんだと惚れ惚れとため息をもらしてしまう、ヤミツキになって、くりかえし再生ボタンを押すのをやめられないっていう、そんな麻薬のような魅惑も持つ音楽、それがこれです。

 

(written 2023.2.22)

2023/01/11

充実のサンバ・パゴージ 〜 ロベルタ・サー

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Roberta Sá / Sambasá
https://open.spotify.com/album/0CMOYF41lPS0w3Lf0GX3Hn?si=4Ik0i-8VQU-pmgecfSQ99Q

 

ジャケットはこんなでアレですけど、ロベルタ・サー(ブラジル)の最新作『Sambasá』(2022)はEPっぽい短さながら充実のサンバ・パゴージで、真っ向勝負。手ごたえあります。

 

ここまで正統的なサンバをロベルタが全面的かつストレートに歌うんですからうれしいですよね。もとから飾らない素直なヴォーカルが持ち味の歌手なので、素材とアレンジ/プロデュース次第でここまで良質な音楽ができあがるということでしょうね。

 

ナイロン弦ギター&カヴァキーニョを中心にした弦楽器群+パンデイロ、タンボリン、スルドその他といった打楽器群でサウンドが編成されているあたりもオーセンティックなサンバのマナーに沿ったもの。そこにアコーディオンやピアノなどがくわわります。

 

ブラジル音楽独自のサウダージが横溢しているのもうれしいところ。1曲目のコーラス部分からもそれはわかります。ロベルタが歌う主旋律はクッキリあざやかに上下するメロディ・ライン。それを重くせずあっさりと軽くふわっとつづっているのがぼくには最高なんですね。

 

2曲目はピアニストがアコーディオンを弾くのとリズムの感じとあわせ、やや北東部ふう。4曲目でゼカ・パゴジーニョ、6でペリクレスという二名のパゴージ界重鎮がゲスト参加して渋いノドを聴かせているのもいい。それら二曲ではサウダージもきわまっている感じです。特に6「Sufoco」。

 

(written 2022.12.29)

2022/12/13

ウェザー・リポート in バイーアみたいな 〜 レチエレス・レイチ

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Letieres Leite Quinteto / O Enigma Lexeu
https://open.spotify.com/album/52Vs6AyLKN7Fzw22WKsUzl?si=4mEOIBeaRzqypZ6j9PuSqg

 

ブラジルの故レチエレス・レイチ。キンテートでの2019年作『O Enigma Lexeu』は<ウェザー・リポート in バイーア>みたいなアフロ・ブラジリアン・フュージョンの傑作だっていうんでおおいに胸をおどらせて聴いてみたら、違わぬ内容でたいへん感動しました。

 

作編曲のレチエレスが管楽器を担当するほか、鍵盤、ベース、ドラムス、パーカッションというバンド編成。特にパーカッショニスト(ルイジーニョ・ド・ジェージ)の存在が大きいと、本アルバムを聴けばわかります。まさにバイーア的というかアフロ・ブラジリアンなリズムの躍動と色彩感を表現しています。

 

最初の二曲はおだやかな70年代初期リターン・トゥ・フォーエヴァー路線のピースフルなものなのでそのへんイマイチわかりにくいんですが、3曲目からがすばらしい。その「Patinete Rami Rami」なんかのけぞりそうになるほどのリズムの祝祭感で、これホントにパーカッショニスト一人だけ?と疑いたくなってくるくらいリッチでカラフル。

 

その後は終幕までずっとそんな感じで、たしかにこりゃバイーアで録音されたウェザー・リポートだっていうおもむきです。もちろんジョー・ザヴィヌルだって、特に70年代中期以後は中南米やアフリカの音楽にしっかり学んで吸収していたんですが、ここまで本格的なのはさすがブラジル当地のミュージシャン。

 

レチエレスのフルートやサックス、ルイジーニョの超人的なパーカッション技巧にくわえ、マルセロ・ガルテルのピアノやフェンダー・ローズも好演。和音楽器を使わないバンドもやっていたレチエレスですが、今作では自由に弾かせてアルバムのキー・ポイントになっています。

 

2019年に知っていたら、間違いなくその年のベスト5に入った傑作でしょうね。

 

(written 2022.11.29)

2022/12/10

躍動的な新世代ブラジリアン・リリシズム 〜 アレシャンドリ・ヴィアーナ

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Alexandre Vianna Trio / Música para Dar Sorte
https://open.spotify.com/album/5aFx0XIgAbce9ZuVQkNReI?si=DvFzJ8LsRfW97-C7tmwLUA

 

ブラジルはサン・パウロのジャズ・ピアニスト、アレシャンドリ・ヴィアーナのトリオ最新作『Música para Dar Sorte』(2022)がすばらしい。近年のサン・パウロはブラジルというより南米随一のジャズ都市で、いい音楽をどんどん産み出していますよね。

 

アルバム・タイトルになった7曲目にも典型的に表れているように、伝統的なジャズ・サンバをモダナイズしたような内容になっているのが大の好み。躍動的なビート感と、それでいて決して荒くはならないおだやかさ、上品さが同居しているのはとってもいいです。

 

紹介していたディスクユニオンの説明ではキース・ジャレットなどの美メロ系ということも書かれてあったんですけど、ジャレットがどうにもイマイチだからそれでは惹かれず。たしかにアレシャンドリも歌うような抒情派っていうかリリシズムがピアノ・プレイの持ち味なので、その意味では納得です。

 

そんなリリカルな部分がうまい具合に現代的ジャズ・ビートで昇華されていて、ぼくの耳にはイキイキとした泉のように水がこんこんと湧き出てくるようなグルーヴ感こそが印象的なアルバムで、ドラマー(ラファエル・ロウレンソ)の活躍もみごとだと思えます。

 

そのへんのバランスっていうか美メロ・リリシズムと(ジャズ・サンバ由来の)躍動感の融合に最大の特色があるジャズ傑作アルバムじゃないでしょうか。

 

(written 2022.11.24)

2022/10/24

サンバの秋だ 〜 ニルジ・カルヴァーリョ

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(2 min read)

 

Nilze Carvalho / Verde Amarelo Negro Anil
https://open.spotify.com/album/41mnwm5xiw9zeRNHRb0bgD?si=SYVxgpMfQ9eZICqRPRk2xg

 

bunboniさんに教えてもらいました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-08-15

 

真夏向きの音楽だと思いながら愛聴しているうちにそのまま秋になっちまいましたが、ブラジルのニルジ・カルヴァーリョ『Verde Amarelo Negro Anil』(2014)、秋にだってなかなか似合う音楽です。むしろ適温になってきたいま10月のほうがよりさわやかでいい感じに聴こえるかも。

 

勢いより落ち着きを感じさせる円熟サンバで、その意味でも秋っぽいフィーリングはあります。ぼくがサンバを聴くようになったのはCD時代になってからなので、ずっと前からなじんでいたみなさんの感慨みたいなものには共感できる者じゃないんですが、そこはそれ、聴き知っていた曲というのもある程度ふくまれています。

 

曲ごとの解説はbunboniさんの記事をお読みいただくとして、もう1曲目から快調にグルーヴするサンバで楽しくヒザや腰が動きます。これこれ、こういうのですよね大衆娯楽音楽の醍醐味は。その後も同傾向のダンサブルなサンバが多いし、同時に佳くメロディアスでもあって聴いてもいい。

 

しっとり聴き込むメロウ系バラードもあります(7)。クイーカが哀愁をさそうのも印象深く、かといってサウダージを感じさせるというふうでもなくさっぱり乾燥した心地がするのは、やはり大人の音楽家らしい味でしょうか。この曲、本作でいちばん好きかも。

 

カルメン・ミランダばりに譜割りの細かい速射砲ヴォーカルを余裕でこなす技巧曲があるかと思えば(9)、ニルジの本来領域であるバンドリンの妙技を聴かせるインスト・ショーロもあったり(12)。クロージングはいかなぼくでも熟知のウィルソン・モレイラ・ナンバー。メロが流れてきた瞬間に頬がゆるみ、ニコニコしたままアルバムは終了。

 

(written 2022.10.20)

2022/07/31

ジャズ・ボッサでビートルズ 〜 オス・サンビートルズ

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(3 min read)

 

Os Sambeatles / Os Sambeatles
https://open.spotify.com/album/22tDpJvjwSFO07hZpvF0VO?si=BkS7L2ofQ-2fbgrxxLzALw

 

これまたディスクユニオンのツイートで出会った作品。だから日本語情報がいま読めず。それでも音楽が極上なので書けると思います、オス・サンビートルズの『オス・サンビートルズ』(1966)。今年LP復刻されたということで知りました。

 

ビートルズ・ナンバーの数々をジャズ・ボッサにアレンジしてインストルメンタル演奏しているもので、中心人物はブラジルのピアニスト、マンフレッド・フェスト。渡米直前の1966年に製作・リリースされました。

 

ですからビートルズ楽曲といってもそこまでのものということなんですが、それでよかったかもと思える内容です。スタジオ作業中心になってからの後期ビートルズには一筋縄ではいかない複雑な曲も増えてきて、ジャズ・ボッサなんかにアレンジしにくいですからね。

 

もとがどんな情感の曲であろうとも、おだやかにくつろげる軽快なサロン・ミュージックに仕上がるのがジャズ・ボッサの美点。なので、ひとによってはどれ聴いてもおんなじじゃんっていう感じかもですが、ビートルズだってこうなれるというのはたいした消化力で、ぼくは大好きですね。

 

1曲目「キャント・バイ・ミー・ラヴ」から楽しくて、ややにぎやかで細かなビートをドラマーが刻み入れているのが快感です。2「ミシェル」ではオルガンも弾かれています。3「ア・ハード・デイズ・ナイト」ではサビ部分でさっとリズム・パターンが変化するのも一興。

 

4「ガール」は冒頭でチェレスタが登場。原曲のやや淫靡だった味をここではかわいらしいムードに変換しています。5「ティケット・トゥ・ライド」6「アイ・シュド・ハヴ・ノウン・ベター」は、「キャント・バイ・ミー・ラヴ」とならぶ本アルバム最大の聴きどころ。これらで聴ける軽めだけど確かなビートこそ、ぼくには楽しいのです。

 

7「ヘルプ」がかなり愉快なムードになっていて、途中4ビートになったりもしているし、原曲を知っているとずいぶん変わったなと思うところでしょうね。歌詞の意味を重視する歌手はシリアスな曲調に転換してスローで歌うこともあっただけに、そんなところからはちょっと想像できないムードです。

 

ところで8「イエスタデイ」で疑問に思うことがあります。このトラック、なんと12分以上もあって、あれっ?と思いながら聴いていると、9曲目以下の「オール・マイ・ラヴィング」「アンド・アイ・ラヴ・ハー」「アスク・ミー・ワイ」「イフ・アイ・フェル」が同じトラックのなかに続けて流れてくるんです。

 

9トラック目以下、それらの曲はちゃんとまた一個づつ出てくるので、なにかのミスだったんでしょう、Apple Musicでも同じになっています。オリジナル・レコードからそうだったとは思えませんが、しかし本作、サブスクにあるのは盤起こしだし、あるいは復刻LPのミスなんでしょうか。

 

(written 2022.7.27)

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