カテゴリー「ブラジル」の97件の記事

2022/07/31

ジャズ・ボッサでビートルズ 〜 オス・サンビートルズ

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(3 min read)

 

Os Sambeatles / Os Sambeatles
https://open.spotify.com/album/22tDpJvjwSFO07hZpvF0VO?si=BkS7L2ofQ-2fbgrxxLzALw

 

これまたディスクユニオンのツイートで出会った作品。だから日本語情報がいま読めず。それでも音楽が極上なので書けると思います、オス・サンビートルズの『オス・サンビートルズ』(1966)。今年LP復刻されたということで知りました。

 

ビートルズ・ナンバーの数々をジャズ・ボッサにアレンジしてインストルメンタル演奏しているもので、中心人物はブラジルのピアニスト、マンフレッド・フェスト。渡米直前の1966年に製作・リリースされました。

 

ですからビートルズ楽曲といってもそこまでのものということなんですが、それでよかったかもと思える内容です。スタジオ作業中心になってからの後期ビートルズには一筋縄ではいかない複雑な曲も増えてきて、ジャズ・ボッサなんかにアレンジしにくいですからね。

 

もとがどんな情感の曲であろうとも、おだやかにくつろげる軽快なサロン・ミュージックに仕上がるのがジャズ・ボッサの美点。なので、ひとによってはどれ聴いてもおんなじじゃんっていう感じかもですが、ビートルズだってこうなれるというのはたいした消化力で、ぼくは大好きですね。

 

1曲目「キャント・バイ・ミー・ラヴ」から楽しくて、ややにぎやかで細かなビートをドラマーが刻み入れているのが快感です。2「ミシェル」ではオルガンも弾かれています。3「ア・ハード・デイズ・ナイト」ではサビ部分でさっとリズム・パターンが変化するのも一興。

 

4「ガール」は冒頭でチェレスタが登場。原曲のやや淫靡だった味をここではかわいらしいムードに変換しています。5「ティケット・トゥ・ライド」6「アイ・シュド・ハヴ・ノウン・ベター」は、「キャント・バイ・ミー・ラヴ」とならぶ本アルバム最大の聴きどころ。これらで聴ける軽めだけど確かなビートこそ、ぼくには楽しいのです。

 

7「ヘルプ」がかなり愉快なムードになっていて、途中4ビートになったりもしているし、原曲を知っているとずいぶん変わったなと思うところでしょうね。歌詞の意味を重視する歌手はシリアスな曲調に転換してスローで歌うこともあっただけに、そんなところからはちょっと想像できないムードです。

 

ところで8「イエスタデイ」で疑問に思うことがあります。このトラック、なんと12分以上もあって、あれっ?と思いながら聴いていると、9曲目以下の「オール・マイ・ラヴィング」「アンド・アイ・ラヴ・ハー」「アスク・ミー・ワイ」「イフ・アイ・フェル」が同じトラックのなかに続けて流れてくるんです。

 

9トラック目以下、それらの曲はちゃんとまた一個づつ出てくるので、なにかのミスだったんでしょう、Apple Musicでも同じになっています。オリジナル・レコードからそうだったとは思えませんが、しかし本作、サブスクにあるのは盤起こしだし、あるいは復刻LPのミスなんでしょうか。

 

(written 2022.7.27)

2022/05/10

フローラ・プリムのニュー・アルバムは圧巻の傑作

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Flora Purim / If You Will
https://open.spotify.com/album/54jqOozz2WPoJV9KXs7eRh?si=eWjYV3MxQX6ol-Idn92pmw

 

フローラ・プリム15年ぶりの新作『If You Will』(2022)がかなりいいですよね。傑作じゃないかな。キャリアと高齢なりに枯れている・円熟しているということがなく、みずみずしいピチピチした新鮮な魅力にあふれているっていう。もうビックリですよ。

 

基調になっているのはリオ・サンバをベースにしたブラリジアン・ジャズ・フュージョン。ジョージ・デュークと共作した過去曲の1「If You Will」からそれが全開のダンス・チューンで、腰が動きます。しっかしあまりにも声が若いなあ信じられんと思ったら、メイン・ヴォーカルは子のダイアナか。

 

だれが歌うにせよ、ここにはフローラが1970年代から展開してきたサンバ・ジャズ・フュージョンがしっかりと刻印されていて、しかもそれが2022年型にアップデートされているコンテンポラリーネスも聴きとれるのはやはりすばらしい現役感。この手のダンス・ミュージックは古くならないっていうのがあるにせよ。

 

2曲目「This Is Me」からはフローラがメイン・ヴォーカルですが、ダイアナの若々しさに負けていないフレッシュな躍動感があって、80歳にして衰えるっていうことと無縁なんですね、このひとは。音楽的にはまったく老化していません。

 

この2曲目は先行シングルだったもので、やはりこのアルバムに全面参加しているパートナー、アイアート・モレイラのジャム・バンドを現代にアップデートしたもの。ブラジリアン・フュージョンですけれど、快活でダンサブルな、本アルバムの白眉といえる一曲(私見)。楽しいぃ〜っ!

 

英語で歌うリターン・トゥ・フォーエヴァー時代の3「500 Miles High」はやはりジャジーに。エレベ・ソロも聴きどころのひとつです。その後はふたたびサンバ・フュージョン路線で進みます。都会的洗練と野趣が絶妙なバランスで共存融和するサウンドは聴きごたえ満点。

 

8「Dois + Dois = Tres」だけがなぜかのブルーズ、それも1960年代末〜70年代初頭ふうにくっさ〜いどブルーズ・ロックなんですが、これはなんだろうなあ。エリック・クラプトンみたいなエレキ・ギター・ソロはだれが弾いているんでしょうね。これだけアルバムのなかで浮いています。

 

ラストの9「Lucidez」はナイロン弦アクースティック・ギターとフェンダー・ローズのサウンドが熱を冷やす静謐で美しいハーモニーを持つバラード。ちょっとジャジーなミナス音楽を想わせたりもしますね。フローラのヴォーカルもきわだって魅力的に響きます。

 

(written 2022.5.8)

2022/05/01

ポップなリオ新世代の面目躍如 〜 ニーナ・ベケール

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Nina Becker / Acrílico
https://open.spotify.com/album/5Toc0KiEuEohfd7cR3dqid?si=MovfTGMFTH-xPNxQ4KCv_w

 

2014年のドローレス・ドゥラン集『Minha Dolores』が大人気だったニーナ・ベケール。これでこのブラジル人歌手を知りました。あのころこのアルバムを話題にしているひとは多かったですし、ぼくもブログをはじめてから数度書いたくらい。

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その後ニュースを聞かなくなったよなあと思っていたんですが、2017年に新作『Acrílico』を出していたんですね。ついこないだ気がついたばかり。なんか、ぜんぜん話題になっていなかったような気がします。

 

ディスクユニオンの通販サイトくらいしか日本語情報がないので、ファンとしての感想はじゃあぼくが…というわけでとりあげて書いておくことにします。なかなかおもしろいアルバムなので。

 

おだやかなあたたかみに癒された『ミーニャ・ドローレス』から一転、今作はかなり先鋭的で実験的なサウンドで満たされていて、強い不協和音の点描的な連発でほぼ無調に近づいている曲もあったりします。

 

ニーナと他の人との共作が多いようですが、メロディ感も希薄で、なんだかポスト・ロックふうにアンビエントな音像。浮遊するあいまいなサウンドの上をニーナが鋭角的に舞うといった感じででしょうか。

 

そもそもそういった音楽も前からソロではやる歌手で、ドローレス・ドゥラン集がよかったというみなさんには受け入れがたい作風かもしれません。ニーナとともにドゥーダ・メロがプロデューサーとしてクレジットされていて、伴奏はペドロ・サー(ギター)、アルベルト・コンチネンチーノ(ベース)、ラファエル・ヴェルナンチ(ピアノ)、トゥッチ・モレーノ(ドラムス)。

 

曲によりモレーノ・ヴェローゾ、カシン、エヴェルソン・モラエス、ネグロ・レオ、エドゥアルド・マンソなどが参加して、やはりチャレンジングな演奏を聴かせています。前衛的といえる冒険精神が横溢しているんですよね。

 

でも土台にあるのはあくまでサンバやジャズ・ボッサだなと鮮明にわかるのがぼくみたいなファンでもすんなり聴けるところ。ニーナの声にはあたたかみとくつろぎ、そして華があるし、とびきりポップな歌手ですし、こんなとんがった音楽をやってもざわめきばかりにならずレトロなリラックス・フィールが同居しているのには安心できます。

 

(written 2022.4.10)

2022/04/20

声の美しさとリリカルさがいい 〜 カロル・ナイーニ 2013 & 21

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(3 min read)

 

Carol Naine / Carole Naine
https://open.spotify.com/album/1EPbUU9zUrqykndhogcywF?si=r5iTyuU3T4CCNRt26a7rnw

 

Carol Naine / Ao Vivo
https://open.spotify.com/album/4G5iZbYygHbTXxC5OppOsR?si=zwCi9-f6Rl-I3w2EfwUSLA

 

bunboniさんのブログで知った歌手です。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-09-11

 

カロル・ナイーニ(ブラジル)のデビュー作『カロル・ナイーニ』(2013)は、たしかにとにかくアレンジが先鋭的。プロデュース、アレンジ、音楽監督を務める鍵盤奏者のイヴォ・センナがとんでもないサウンドをつくりあげています。

 

曲はソングライターでもあるカロルが書いていて、サンバを基調にした通常的なものですが、こんなすさまじく鋭角的なアレンジと音響がついて、それでいてヴォーカルはそれに引っぱられることなく平常心で美しいっていう。

 

アレンジ・サウンドが先鋭的すぎるせいでそっちばかり聴いてしまいますが、ぼくとしてはそれと曲と歌(声)との三位一体のバランスっていうか、かみあっていないかのように同時並行する感じ、ぶつかりあいがなかなか楽しくて。

 

メタリックに硬質で乾いたイヴォ・センナのペンとは対照的に、カロルの持ち味はしっとり湿っていてリリカルだというのが実際のところ。体温を感じる人間味にあふれていると聴こえます。サンバ・クラシコの持つ深い情緒とメランコリアをそのまま継承しているようで、このデビュー作はそれも聴きどころの一つかもしれません。

 

特にアルバム・ラスト10曲目「Nasso Lar」で聴かせるバラード表現なんか、マジですばらしい。クイーカを効果的に使ったイヴォのアレンジも曲と声のリリカルさをきわだたせることになっていて絶妙ですが、ここではなんといっても歌の情緒感がいい。

 

このデビュー作がかっとびすぎているおかげで、パートナーをチェンジしてしっとり路線になった二、三作目がかすんでしまいますね。昨2021年に出た三作目『Ao Vivo』も、フィジカル・リリースなきゆえか話題にすらなっていませんが、内容はいいと思います。

 

ライヴ・アルバムという題名ですが観客の気配すらありませんから、無観客スタジオ配信ライヴみたいなものなんでしょうね。いや、配信すらせず、ただライヴな生演奏をそのまま収録したというだけの意味かも。

 

さわやかな清涼感すらただよう音楽で、それはピアノを弾くアレシャンドリ・ヴィアーナのスタイルゆえでしょうか。基本ピアノだけの伴奏で歌っていますが、曲によってはチープなビート・ボックスの音も聴こえます。カロルは二作目以後アレシャンドリと組んでこんな路線。サンバ・ベースのMPBというより、かなりジャジーな雰囲気に傾いていて、個人的には好きです。

 

カロルの声の美しさ、高音部でひときわ目立つ繊細な歌いまわし、曲のメロディのよさなどは、こういった路線のほうがわかりやすいかもしれず、上品さと端正さが前に出ていてけっこういいという面だってあるのでは。

 

(written 2022.2.20)

2022/04/05

枯淡のエリゼッチ 〜『アリ・アモローゾ』

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Elizeth Cardoso / Ary Amoroso
https://open.spotify.com/album/2YV6n5bt3OKpBpDraGydxS?si=ypQ42e-tQYyjc2OmQnw1Kw

 

エリゼッチ・カルドーゾ(ブラジル)晩年のアルバム『Ary Amoroso』(1991)。90年に亡くなっていますから、死後翌年にリリースされたということでしょうか。90年リリースという情報もありますが。

 

これ、ぼくはどうして出会ったんでしたっけねえ、昨2021年にCDリイシューされたんだったか、そうだったならディスクユニオンのアカウントがツイートしてくれたので気がついたんでしょうね、きっと。

 

アルバム題どおりアリ・バローゾ曲集で、エリゼッチにとってはキャリアをとおしすっかり歌い慣れているものだったはず。実際かなりの有名曲もふくまれていますが、晩年にアルバム一作全編でバローゾの曲をとりあげようというのはどういう心境だったんでしょう。

 

死が近づいて自身の歌手人生をふりかえるようにバローゾを歌いなおそうということだったのか、なにもわかりませんが、このアルバム、とても枯れていて渋くて、なかなか味わい深いものなんですよね。最近こういった落ち着いた静かでおだやかな音楽が好きになってきました。

 

エリゼッッチといえば、サンバ、サンバ・カンソーンの歌手だったわけですが、このアルバムにサンバ色はさほど強くありません。むしろジャジーな感触すらあって、ラファエル・ラベーロ(七弦ギター)、ジルソン・ペランゼッタ(ピアノ)、マルコス・スザーノ(パーカッション)ら名手たちに支えられ、細やかにやりとりしながら、淡々とバローゾをつづっていく様子が胸に沁み入ります。

 

いうまでもなく声にはもう強さや張りがないんですが、こうして装飾をそぎ落とさざるをえなくなってストレートに歌う枯淡の境地は、音楽や曲の持つ本来の魅力をかえってむきだしにしてくれるようにも思えます。ある意味純度の高い歌唱であるのかもしれません。

 

(written 2022.1.3)

2022/03/30

聴きやすくわかりやすい 〜 オルジナリウスのホワイト・アルバム

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(3 min read)

 

Ordinarius / Blanc
https://open.spotify.com/album/50lnSF0tOslKOWwK8YYsbR?si=RYQk73oVS_qzTMx4uLJLhw

 

ブラジルのヴォーカル・コーラス・グループ、オルジナリウスの新作『Blanc』(2022)がリリースされましたね。渋谷エル・スールでは前々作の『Paralelas』(2020)が今年の最新入荷みたいになっていますが、その後2021年にも一作ありました。

 

このアルバム題とジャケット・デザインをあわせ見ると、やはりどうしてもビートルズの(通称)『ホワイト・アルバム』(1968)を連想するわけですけど、オルジナリウスの今作はアルジール・ブランキ(Aldir Blanc)曲集という意味です。

 

それでもこういうジャケット・デザインにしたんだから「白」というのにもひっかけたのではありましょう。プリンスにも(通称)『ザ・ブラック・アルバム』(1994)という真っ黒ジャケがあったし、ビートルズのあれはなにかとオマージュを産んだ名作です。

 

オルジナリウスの『ブランキ』収録の12曲はすべてアルジール・ブランキの書いたもの。ブラジルの国民的詩人とまで言われたアルジールは2020年5月に新型コロナウィルス感染症で亡くなっているので、追悼の意味を込めたトリビュート・アルバムをつくったんでしょう。

 

このコーラス・グループの音楽性は、ぼくも松山公演に行った2019年秋冬の来日ツアーあたりから三作、微動だにしておらず、いい意味でのマンネリというか金太郎飴状態。不動のエンタメ・ミュージックなんですよね。

 

ここまで続けて同じことを徹底的に練りこめば、もうこれは立派なアート(職人芸=芸術)と言えるし、こういったうきうき楽しい音楽を待ち望むファンにきっちり結果を聴かせてくれているというホンモノのプロだけがなせるワザだということです。

 

しかし前もオルジナリウス関連で言いましたが、楽器演奏にしろヴォーカル・コーラスの重ねかたにしろ、めっちゃ高度に洗練された複雑な技巧を駆使してつくりこまれています。ちょっと聴いてもただ楽しいだけの軽い音楽に思えたりするかもしれませんが、そういうできあがりになる、聴きやすくわかりやすいっていうのが真のすばらしさです。

 

『ブランキ』でも約43分間がただひたすら楽しくてあっという間に終わってしまいますし、アルジール・ブランキというソングライターと書いた曲の魅力を最大限に発揮できているし、アミルトン・ジ・オランダ、トリオ・ジューリオなど多彩なゲスト参加もオルジナリウスのエンタメ性にまるで同化されています。

 

(written 2022.3.29)

2022/03/19

内に込め淡々と静かにゆらめく情熱 〜 ルエジ・ルナ

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Luedji Luna / Bom Mesmo É Estar Debaixo D’Água
https://open.spotify.com/album/72RsVQVhqVjyBfsTCThFpq?si=i6Se6q-JQyuuFaH8Nvb3RA

 

アフロ・ブラジル文化が根づくバイーア州サルヴァドール出身のシンガー・ソングライター、ルエジ・ルナ。その最新作『Bom Mesmo É Estar Debaixo D’Água』(2020)はブラジル黒人女性としてのアイデンティティを音楽に込めた、いはばブラジリアンBLMミュージックみたいなもんでしょう。

 

といっても高らかに宣言するような押し出しの強い躍動的な音楽ではなく、全体を支配するのは均衡のとれたおだやかな抑制の美学。もちろん曲によっては強いビートでがんがん攻めるようなものもあったりして(6「Recado)、そういうのがむかしから大好きなぼくですけど、ここでは全体的に静けさが目立っています。

 

ポエトリー・リーディングをまじえてニーナ・シモンをカヴァーした4曲目「Ain’t Got No」なんかにも象徴的に表現されていますが、黒人女性として生きるとはどういうことか、女性としての権利、ジェンダー平等という問題をじっくり見つめなおすようなおだやかな態度が音楽にも反映されていて、深い部分で怒りや抗議の意味を込めつつ表面的にはしずやかな音楽です。

 

プロデューサーがケニア人ギターリストのカト・チャンゲ。くわえてコンゴ系ブラジル人のフランソワ・ムレカ(ギター)、キューバ人のアニエル・ソメリアン(ベース)、バイーア出身のフジソン・ダニエル・ジ・サルヴァドール(パーカッション)など、マルチ・カルチュラルな面々で制作されたというのもいいですね。

 

アフロ・ブラジル〜ソウル~ジャズからクラシカルな室内楽までが自由な創造性で融合されたアレンジメントがすばらしいですし、ルーツ回帰と都会派な感覚が両立するいまのブラジル音楽シーンを代表する名作だと言えるでしょう。

 

(written 2022.3.9)

2022/01/24

ちょっぴりミナスなブラジリアン・ラージ・アンサンブル 〜 ジャズミンズ・ビッグ・バンド

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Jazzmin’s Big Band / Quando Eu Te Vejo
https://open.spotify.com/album/35I2GPPEfWfyOUDVdAxBZW?si=XzHgqdA6SeK1ahukmQr23g

 

全員女性で編成されたブラジルのジャズ・ビッグ・バンド、ジャズミンズ・ビッグ・バンドのデビュー作『Quando Eu Te Vejo』(2021)がちょっとした佳作。均整のとれたアンサンブルでブラジル音楽の豊かな伝統とコンテンポラリーなセンスとの融合に成功しています。バンド名の「ジャズミン」っていうのはジャズとジャスミンをひっかけてあるんでしょう。

 

管楽器担当だけで十人以上いるという大所帯。ジャズ・ビッグ・バンドとして、北米合衆国の伝統的なマナーをある程度は受け継ぎながらも、かなり顕著にMPB的な表現をも顕在化させているところが、現代ブラジル人音楽家らしいところですね。

 

全体的にはクールでおだやかな美しさが目立つ本作、ややミナス音楽的とみなすこともできるんですが、サンバ、ボサ・ノーヴァなリズム活用が軸になっているんじゃないでしょうか。オープニングの1曲目はなんでもない感じですが、2曲目「7×1」でいきなり躍動的なサンバ・ジャズを展開して、こ〜りゃいいなあ。

 

4曲目「Fácil Vem」にはややファンキーさすらあって、ピアノが奏でるブロック・コードのリフがなんともチャーミング。ホーン・アンサンブルは(どの曲も)おだやかですが、基底になっているリズム構造に着目したいですね。4曲目ではギターやサックスのソロもいいです。

 

そうそう、ソロといえばですね、だいたい本作ではそんなにたくさん聴けるというわけじゃありません。個人奏者のインプロ・ソロよりもどっちかというとアンサンブルに比重が置かれていて、そのバランスというか、ソロの連続で曲ができあがるというふうにはなっていないんで、このへんはアメリカ合衆国の現代ラージ・アンサンブルと共通する点ですね。

 

5曲目「Radamés Y Pelé」。こ〜れが絶品なんですよ。アルバム中ぼくはこの曲がいちばん好きで、サウンドの美しさに息を呑みます。ほんのり軽いボサ・ノーヴァ・リズムに乗せられたホーン・アンサンブルのたおやかさが、現代ブラジル音楽の最良の美点を表現しています。アントニオ・カルロス・ジョビンの書いたこの曲、タイトルはラダメース・ニャターリ(作曲家)とペレ(サッカー)のことですか?

 

6曲目でもブラス群に特徴のある多層にレイヤーされたホーン・サウンドに酔うような気分になれるし、ジョアン・ジルベルトも歌ったドリヴァル・カイーミの9曲目「Doralice」ではちょっとおどけるようなユーモラスさを強調する演奏になっていて、思わず微笑み。

 

(written 2021.12.19)

2021/11/04

ラテンのエロスとデリカシー 〜 ヤマンドゥ・コスタ&グート・ヴィルチ

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(4 min read)

 

Yamandu Costa, Guto Wirtti / Caballeros
https://open.spotify.com/album/3fqIysSKJMaqenPVtkO7Tn?si=5IuS7Xg6QbyOkxBvjtmYug

 

ヤマンドゥ・コスタ、それでようやくこないだ10月末ごろリリースだった最新作のほうについて書くことができます。こっちは同じブラジル人で旧友のベーシスト、グート・ヴィルチとのデュオ作で、『Caballeros』(2021)。

 

そうそう、以前も言いましたが、グートの弾くベースとはアップライト型のコントラバスじゃなくて(それもたまに使うみたいだけど)、横にして膝に乗せて弾くギター形状の四弦アクースティック・ベース。

 

+いつものとおりヤマンドゥの七弦ギターで、このデュオでやる音楽なら2014年の前作『Bailongo』が傑作だったわけですが、今回の新作もまったく劣らないすばらしい内容で、ぼくはたいへん気に入っています。

 

まずなんたって1トラック目。これだけでぼくはキュン死しましたね。二つのラテン名曲「ソラメンテ・ウナ・ベス」(アグスティン・ラーラ)と「キサス、キサス、キサス」(オズバルド・ファレス)のメドレーなんですが、最初そうとは気づかないくらい移行がスムース。

 

あまりにも美しく、これぞラテン音楽のエロスとデリカシーと言いたいくらいなエレガントな演奏ぶりで、心が完全に溶けちゃった。なんてひそやかでなんて繊細なんでしょう。そう、このアルバムはラテン・ミュージック集なんだとぼくはとらえています。

 

曲じたいにスペイン語圏ラテン・アメリカのものは1トラック目のメドレーしかなく、ほかはアリ・バローゾ(ブラジル)、トニー・ムレーナ(イタリア)、ヌリット・ハーシュ(イスラエル)などなど、クラシック界をふくむ世界中のコンポジションをとりあげ、それにヤマンドゥの自作をくわえたという構成。

 

ですが、ヤマンドゥとグートによる解釈と演奏ぶりは、どこからどう聴いてもラテン・ミュージックのそれですね。それを1トラック目のメドレーが出だしで象徴しているのだと言えましょう。そっと優しくデリケートなソフト・タッチで、まるでセックスのときの愛撫のように、音をつづっていくギターとベースのエレガンスにとろけてしまいそうですよ。

 

グートは2014年作に続き今回もほぼ脇役に徹していて、ヤマンドゥの七弦ギターのうまさがきわだつ内容となっていますが、それだってもはやすっかり円熟し、超絶技巧からこれみよがしなところが消え、優雅でラテンな楽想のなかでさらりと見せ場をつくるようになっているのがたいへんすばらしいですね。

 

曲そのものの持つメロディの繊細さや情緒や官能を、どこまでもおだやかに、それじたいをストレート&ナチュラルに、ギターで表現していくさまには、ほんとうにため息が出ます。音のヴォリューム、ピッキング・タッチの違いによる音色の繊細な使い分け、隠微なニュアンス付けなど、自在な表現を聴かせるヤマンドゥ、いま七弦ギターの世界でこのひとに並ぶ存在はいないのだなあと実感させてくれます。

 

そんな絶品のラテン・ミュージック集ですよ。

 

(written 2021.11.3)

2021/10/09

格別のブラジリアン・インスト 〜 パウロ・グスマン

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(2 min read)

 

Paulo Gusmão / O Tempo Que Foi

https://open.spotify.com/album/260MNbuDH27Y0yKngPQJSh?si=GWgtOr4jShi_-z_PGrFYmA

 

パウロ・グスマンっていうこのブラジルの音楽家が何者なのか、ぼくはちっとも知らないんですけど、その2020年作『O Tempo Que Foi』は、たしかエル・スールのホーム・ページで最初に見かけたんですよね。それでジャケットがいいなあと思って、ちょっと聴いてみたわけです。コンポーザーのようですね。

 

アルバム『O Tempo Que Foi』は全編インストルメンタル・ミュージックで、まるでエンニオ・モリコーネの書いた映画音楽のサウンドトラックのよう。風景や情景が目に浮かぶおだやかなチェインバー・ミュージックで、なんというか、軽〜いBGMふうで、正対してじっくり聴き込むものじゃない感はありますが、上質な音楽には違いありません。

 

作編曲をパウロがやっているということなんでしょうけど、曲によってはトニーニョ・フェラグッチ(アコーディオン)やネイマール・ジアス(カイピーラ・ギター)も演奏に参加している模様。二名とも好みのミュージシャンですからね、どこで演奏しているのか耳を凝らしたんですけど、ちょっと判別できませんでした。

 

アントニオ・カルロス・ジョビン・マナーなボサ・ノーヴァ・ナンバーがあったかと思うと、アストール・ピアソーラふうのタンゴ曲もあり。全編にわたり優雅で抒情性にあふれた音楽で、聴き終わって特にどうという印象も残しませんが、聴いているあいだは心地いい時間をすごすことのできる物語性があります。

 

弦楽と木管のからむやわらかいアンサンブル・サウンドには独特の味があって、ちょっとクセになる個性を持った音楽です。

 

(written 2021.6.4)

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