カテゴリー「台湾、香港、中国大陸」の19件の記事

2023/10/18

9m88の新作アルバムがホントかなりいい

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9m88 / Sent

https://open.spotify.com/album/6vR0QbkphxTdgADE0Y7MEB?si=XFd-KLy7R8yaqSOjMYbCQg

 

先週末の来日公演も成功させた9m88(じょうえむばーばー)。台湾出身在NYCのジャズ/ネオ・ソウル・シンガーです。来日にぴったりタイミングをあわせるかのようにして6日にリリースされた新作アルバム『Sent』(2023)が、ホントとってもいいですよね。

 

本人のInstagramとかみているとかなり好評なようで、そりゃあそうですよこの内容だもん。七月に一度9m88について書いたとき、今年の新曲「若我告訴你其實我愛的只是你」がとってもいいけどこの一曲しかなく、この感じで満たされた30分くらいのアルバムが出るといいなあって言ったんですけど。

 

まさしくそのとおりになって、もううれしいのなんのって。「若我告訴你其實我愛的只是你」はもちろん収録されているし、そのほかもジャジーなネオ・ソウルやジャズ・ソングが中心で、ぼく好み。おだやかでさわやか。じゃないけっこうエッジのとんがったハードな曲も二つありはしますけどね。

 

コントラバスだけの伴奏で歌い出す1曲目から、この歌手の新世代感がフルに発揮されています。その後ストリングスも入って、この曲はまさしくジャズ・ソング。

 

2曲目もフルート・アンサンブルが特徴的なさわやか路線なネオ・ソウルで、聴いていて実に心地いい。アルバム・タイトルになった4曲目は淡々とゆったりしたバラードで、バーバーの歌唱力がよくわかります。

 

けっこう激しめな曲や「若我告訴你其實我愛的只是你」を通過して、7曲目はやはりジャズ・バラード。これもいいね。ラスト8曲目はなぜかのナイロン弦ギターをフィーチャーしたブラジリアン・テイストなボサ・ノーヴァでさわやかに後口よくしめくくり。

 

(written 2023.10.18)

2023/08/08

台北ナイトのチルなバーで 〜 LINION

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LINION / HIDEOUT

https://open.spotify.com/album/7HEDhuRGJSCRS6oJ50i72L?si=6_WLk-1pT-q3nGigGhnoeA

 

以前一度書いた台湾の音楽家LINION(リニオン)の新作が出ました。『HIDEOUT』(2023)。今回はシティ・ポップ色がやや強めに出ているかなと感じました。

 

でも本質的に前作『Leisurely』(2020)から音楽性は変わっておらず、新世代ジャズ/ネオ・ソウル/シティ・ポップらの境界線を楽々と消してフュージョンさせた都会の洗練を実現していて、たいへんに好み。

 

コンピューター打ち込みでの音づくりをせず、ジャズな生演奏で組み立てているあたり完璧なコンテンポラリーさで、オーガニックなサウンド・テクスチャーがなんとも心地いいですよね。アクースティック楽器も適度におりまぜたこういう演奏音楽こそ好みなんで、トレンドになっているのはうれしいかぎり。

 

1曲目「Listen to Me」冒頭でいきなり(音量大きめの)ア・カペラ・コーラスが出てくるのにはやや驚きましたが、そのイントロ後はおなじみの路線。チルな台北ナイトにぴったりくるような大都会ムード満載で、落ち着いたおだやかで静かな音楽。といってもディープなグルーヴ感は内側にしっかりあって。

 

全体的にシティ・ポップ色が濃厚ななか、女声歌手をむかえての6「Friends Or?」だけは4ビートのジャズ・ナンバー。それでも超洗練された都会派なムードは一貫して変わらず、高層ビルの上層階にあるようなおしゃれなナイト・バーかどこかでくつろいでいるムード満載です。

 

(written 2023.8.1)

 

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2023/07/20

台湾ネオ・ソウル新世代 〜 9m88

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9m88 / 9m88 Radio

https://open.spotify.com/album/0hccS5GDRif53V4ZHYmamd?si=tPTk74bjQz-2IrnDankWqQ

 

在NYの台湾人ネオ・ソウル/ジャズ・シンガー、9m88(ジョウエムバーバー)が今秋に渋谷で来日公演をやるみたい。好きなのでちょっと行きたいかもと思ったのに、WWW Xでのライヴはオール・スタンディングとのことで、自分の現況をかんがみるに、う〜〜ん…。

 

この歌手、ぼくが出会ったのは今年リリースの新曲「若我告訴你其實我愛的只是你」(2023)で。Pヴァインの紹介だったこれが初邂逅で、な〜んてさわやかでチャーミングでジャジーなんだと好きになっちゃいました。しかしこれ一曲しかなく、アルバムならSpotifyにあるのは『9m88 Radio』(2022)が最新。

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新曲シングルはかなりジャジー、ほぼジャズ・ピースでしたが、『9m88 Radio』はやはりネオ・ソウル〜コンテンポラリーR&B色が強いといえます。シティ・ポップ香もあり。ってかそれらのジャンル区分ねえ、台湾新世代の前では無意味ぃっ。

 

個人の好みだけ言わせてもらうと「若我告訴你其實我愛的只是你」の感じで満たされた30分くらいのアルバムが出ればとてもうれしいんですが、いまは『9m88 Radio』をくりかえし聴いています。バーバーのばあいサウンドに台湾ローカル色は皆無で、世界で通用する才能と思いますね。

 

オーガニックな生演奏楽器を中心に組み立てながら、そこにまじる適度なコンピューター・サウンドやデジタル・エフェクトの使用もいい塩梅。エリカ・バドゥっぽい音楽をベースにヴォーカルはかわいらしいふわっとしたチャーミングさを感じさせる部分もあります。また一曲ごとに多彩なゲスト・プロデューサーと組んでいます。

 

個人的にことさら好きだと感じるのは、やはりジャズ・カラーが強い2「Tell Me」、シティ・ポップな5「A Merry Feeling」あたりは特に。クラシカルな9「Dark Night / Sunlight」もいいし、ディアンジェロあたりを彷彿させる11「Star」なんかも抜群。

 

湿度の低いカラリさわやかな音楽ですね。

 

(written 2023.7.15)

2023/05/23

オフ・ビート・チャ・チャが好き!〜 方逸華

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方逸華 / Mona Fong Meets Carding Cruz
https://open.spotify.com/album/1mzN2sYoVIj5i2u0OxuF9w?si=G3vHfe6xShW4kO3L16NbRA

 

bunboniさんに教えていただきました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-03-27

 

どうもなんかね、オフ・ビート・チャ・チャのことがぼくは大好きみたい。以前書いた江玲(コンリン)もいまだヘヴィロテだし、今度は方逸華(モナフォン)ってわけで、これもいいね。音楽としてはどっちもおんなじようなもんだけど、こんなに楽しいならいくらでも聴きたい。

 

bunboniさんが江玲リイシュードを紹介するまで未知のジャンルだったんですが、でも聴いてみればこども時分に親しんでいたようなどこかなつかしいスウィートな既聴感があって、やっぱりあの時代日本でも、ぼくはまだそんな自覚なかったけど耳にしていて、この手の音楽が刷り込まれていたんでしょうね。それがいまごろよみがえっているんだっていう。

 

方逸華(香港)のほうは『Mona Fong Meets Carding Cruz』(1960)っていうアルバムで、1曲目がなんと日本の「黄色いさくらんぼ」。そのほかUSアメリカ産のポップ・ソングなどを、英語と中国語をコーラスごとに入れ替えながら、キュートに歌っています。

 

浜口庫之助が書きスリー・キャッツが初演した「黄色いさくらんぼ」(59)は、最初から日本におけるキューバン歌謡セクシーだったわけですから、香港へ来てこうしてオフ・ビート・チャ・チャに変貌するのも道理。ここでの方逸華ヴァージョンはスリー・キャッツのをかなり踏襲しています。もとからこういう曲なので。

 

中国語圏の大スタンダード「夜来香」もとりあげていて、それだってラテン(キューバン)・ビート由来のオフ・ビート・チャ・チャのアレンジでやっているのが、かえって曲が本来持っていた未知なるチャームをきわだたせていて、いいですね。これも1コーラス目は英語、2コーラス目は中国語。

 

アレンジやバンドのことなどは上掲bunboniさんの記事に書かれてあるので参考にしてください。ヴォーカルは曲によりパティ・ペイジあたりを想起させるものもあって(5など)、たんにワルツだからなのかもしれませんが、もっと大きな当時のワールド・ポップの潮流みたいなものを個人的には感じないでもありません。ロック爆発前夜の爛熟ムードっていうか。

 

方逸華のヴォーカルはキュート&チャーミングでありながら落ち着きと端正さを感じさせるていねいなもので、どこといって強い個性はありませんが、きっちり曲を歌い込むスタンダードなスタイルが好感を呼ぶものです。

 

(written 2023.4.19)

2023/03/02

かわいい香港ラテン 〜 江玲

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江玲 / Hong Kong Presents Off-Beat-Cha-Cha
https://open.spotify.com/album/5vyOYncrhWKS7F1WUNjRSf?si=HYbiBmA7TPqFYQmAmF3xHA

 

bunboniさんに教わりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-02-09

 

香港の歌手、江玲(コン・リン)の1960年作『Hong Kong Presents Off-Beat-Cha-Cha』がめちゃめちゃ楽しい。ノベルティなポップ・ジャズをベースにしたアジアン・ラテン歌謡なんですが、ノベルティといってもアクの強さみたいなものがない素直な音楽なのが聴きやすくていいですね。

 

こういうのをオフ・ビート・チャ・チャと呼ぶらしく、それがなんであるかは上記リンク先のbunboniさんのブログにくわしいので、ぜひお読みください。これも世界中に流布しまくったキューバン・ビートの、そのアジアにおける落とし子の一つなんでしょう。日本のドドンパのルーツみたい。

 

特にホーン・アレンジと小物打楽器の使いかたがなんともいえずキュートでしょ。ぐりぐりっとホーン・セクションがリフを演奏してパッと止まり、刹那ポコリンチョと打楽器が鳴ったりすんの、ぼくには生理的快感ですらありますが、なんともいえないかわいらしさを感じてしまうんです。

 

1960年前後という時代と(ある種の)エキゾ趣味に彩られているわけですけど、東南アジア地域におけるラテン歌謡、オフ・ビート・チャ・チャってそういうもんらしいですよ。キュートな愛らしさを感じて思わず笑顔になってしまうっていうのは江玲のヴォーカルもそうです。

 

おなじみのアメリカン・チューンズを歌っていますが、クセのない素直な美声で、歌唱法にはこねくったり表情を強く出したりするところがなくナイーヴでアクがなく、ストレート。おかげでノベルティなジャンルであるこうした音楽を上品に聴かせています。

 

(written 2023.2.13)

2023/01/24

台湾で爛熟したチルなジャジー・ソウル 〜 薛詒丹

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薛詒丹 / 倒敘
https://open.spotify.com/album/7a2iUG6isz5gYrX0JppnVG?si=t7uNsg1NTA2KlIgING1xkQ

 

Astralさんのブログで知りました。
https://astral-clave.blog.ss-blog.jp/2022-11-28

 

台湾人歌手、薛詒丹(ダン・シュエ)初のフル・アルバム『倒敘』(2022)が最高にたおやかでいい。最初にEPを紹介していたbunboniさんも書いたし、だから言うことなんて残っていないんですけども、自分なりの感想を軽くメモしておきます。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-01-06

 

世紀の変わり目あたりからずっと来ているジャジーなネオ・ソウル系の音楽で、おだやかな都会的洗練が高度にただようチルでおしゃれな一品。それが、昨年ごろからぼくも意識するようになりましたが台湾で爛熟しつつあるとの感を持ちます。

 

本作での個人的好物は、シルキー・メロウな2「飯後點心」、ドラマーの刻む細かいビートと小刻みなギター・リフが心地いい4「沙發危機」、なぜだかなつかしさ的なものがこみあげてくるような切な系メロディの10「倒敘」あたり。全編オーガニックな生演奏なのもグッド。

 

ヴォイス・カラーはちょっぴりビョークっぽいところもある歌手ですが、音楽性は違います。薛詒丹のこうした音楽は、ぼくのみるところ1980年代のフュージョン、AORあたりに源泉があって、その流れで来たスムース・ジャズやヒップ・ホップ通過後の新世代ジャズ、あるいはネオ・ソウルなどが、ここ数年ですべて一体となって溶け合って現在に至っているのではないかと。

 

特に台湾の新世代(薛詒丹、陳以恆、リニオン、レイチン、など)にいえると思うんですけど、多種な新世代音楽の融合はどの要素がどれだけの割合でどう溶け合っているか?がほぼわからない程度にまで渾然一体で消化されているのが特色。ジャズでありネオ・ソウルでありシティ・ポップであるっていう。

 

ですからはっきり分別しすぎないで、あるがまま素直に楽しむのが音楽の実態にそぐうことじゃないかなとぼくは思います。

 

(written 2023.1.10)

2022/10/28

ゆったり流れる静かな時間 〜 以莉.高露

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以莉.高露 / 尋找你
https://open.spotify.com/album/3QeHkPakqCGx4NDZIoSFMT?si=ofrpmmTjSjCsrmIwfRL_Xg

 

Música Terraで知りました。
https://musica-terra.com/2021/07/08/ilid-kaolo-longing/

 

台湾はアミ族のシンガー・ソングライター、以莉.高露(イリー・カオルー)の最新アルバム『尋找你』(2021)がとってもさっぱりしていておだやかで、時間がゆっくりゆっくり流れていくみたいな自然のおおらかさがあって、最高に好み。

 

イリーはみずからナイロン弦ギターも弾いています。アミ族の音楽家ということで、その伝統要素も色濃く感じさせながら、さらにややカリブなクレオール・ミュージックの色がやわらかくただよっているのもいいですね。アフリカンなオーガニックさも感じます。

 

もう1曲目からそんな感じで、お聴きくだされば、この緑と花でかこまれ蝶や小鳥がひらひら舞っているなかをゆっくりのんびりお散歩しながら小川のせせらぎをながめ音を聞いているっていうような、そんなおだやかムードはどなたでも感じていただけるはず。

 

音楽だからオーガニックといってもあれなんですけども、このアルバムにかんしてはことば本来の農業的な意味でオーガニックな色彩感があるぞという、そんなことまで言いたくなってくるような、そんな天然コットン100%っぽい肌心地のよさがあります。

 

3曲目まではずっとそうで、控えめに控えめに、そっとフェザー・タッチでやさしく触れてくるみたいなヴォーカルとサウンドなんですけども、4曲目に香る官能的退廃は、ほぼアルゼンチン・タンゴのそれじゃないかって思うくらい。だからどこまでも洗練された音楽なんですね。

 

かと思うと次の5曲目は先住民音楽を活かしたようなトラディショナルなもので、都会的洗練より野卑さを、というのは違うか、つまりちょっと自然の森林や海を強く感じさせる音楽で、素朴な音楽だとの印象を持ちます。

 

その後アルバム・ラストまで純朴さとソフィスティケイションが共存するようなフィーリングで曲が進み、ジャズがかなりベースになっている部分もある音楽家だと思わせつつ、民族の音楽伝統をうまくソフトな衣でつつんで当たりをやわらかくした手法は、やっぱり高度に洗練されたものに違いありません。

 

(written 2022.10.10)

2022/10/12

最良のチャイニーズ・ポップス 〜 孙露 in 2022

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(4 min read)

 

Recent 孙露
https://open.spotify.com/playlist/7lw97FcPUy0r9RBXrRKAuR?si=a34e0962e8e946a0

 

以前八月はじめだったかな、孙露(スンルー)2022年の最新作(とあのころは思っていた)『忘不了』のことをとりあげて褒めましたけど、そう、ぼくはもうこの遼寧省出身の中国人歌手にすっかり骨抜きにされていて、正直なにされてもかまわない、この身をすべて捧げたいと思うくらいなんですね。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2022/08/post-684849.html

 

しかしこの後もSpotifyの新作案内プレイリスト『Release Rader』で毎週のように(は誇張だけど)孙露の新作っぽいものがどんどん載るもんだから、いったいどうなってんの?今年この歌手はそんなリリース・ラッシュなの?といぶかしんでいました。

 

アルバムにして合計四作『城市民谣』『放你在心里』『明天你是否依然爱我』『当爱已成往事』と週替わりで出てきて、どれも “2022” となっているし、『忘不了』を入れたら今年五つ出した計算になるんです、孙露は。Spotifyでは。

 

いくらなんでもこれは妙だと気がついて、中国情報ならここっていう百度百科で調べてみました。すると、まずいちばん最初に『Release Rader』に出現した『忘不了』は2019年のCDリリースとなっています。

 

その他、順番に『城市民谣』が2018年、『放你在心里』が2020年、『明天你是否依然爱我』が2021年、『当爱已成往事』だけはまだ新しいってことかサイトの更新が追いついていないのでしょう載っていませんでしたから、それが最新作ってことでしょうか。

 

ともあれ、近年の孙露が豊穣だということには違いありません。もとから多作な歌手ではありましたが、ここ数年の活躍ぶりには目を見張るものがあって、Spotifyには今年入ったばかりな五つのアルバムどれを聴いても納得の充実感。

 

この歌手の特質は上でリンクした過去記事や、昨年ぼくがこの歌手と衝撃的だったといってもいいくらいなフェザー・タッチで出会い、なでられ、心底とろけちゃった『十大华语金曲』(2017)のときに書いた記事で、すでに説明し尽くしたという気がします。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/11/post-6c6b6c.html

 

いまどきの新世代歌手ではありますが、ヴォーカル・スタイルにはわりと古風なところもあって、しっかり声を張り抑揚をつけてオーソドックスにメロディの上下を表現することもあります。そのへんは曲によりアルバムにより歌い分けているような印象ですね。

 

それでもコブシ系ではぜんぜんなくって(しっかりメロディを歌うときでも)ヴィブラートなどまったく使わずストレートにすっ〜となめらかな発声をするのは新世代的なフラットネス&おだやかさ。中低域寄りで仄暗くただようハスキーさは退廃的で陰で、それもぼくには魅力です。

 

いずれのアルバムも、だれが選曲やアレンジやプロデュースをやっているのか?というたぐいの情報が見つからないんですが、伴奏も生音中心のさっぱりオーガニックで淡色系なのは孙露のヴォーカル特性にあわせているということと、ここ10年くらいのグローバルなトレンドだからでしょう。

 

きわめて個人的には、生涯で知ったなかで最良のチャイニーズ・ポップスだと思えてならず、さほどなじんでいた分野じゃなかったんですが、孙露に会えるんだったら、ナマ歌を聴けるんだったら、中国まで行きたい!という気持ちになってしまうくらい。細かなブレスの一個一個の息の音までいとおしくてたまらず。

 

薄味淡色系のおだやかで静かなポップスを好むようになった近年のぼくの前に出現した最高の音楽じゃないかと、古今東西世界 No.1だと、いまは思っていますね、孙露のことを。もう女神。

 

(written 2022.10.9)

2022/10/06

チルな台北ナイト 〜 リニオン

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(3 min read)

 

LINION / Leisurely
https://open.spotify.com/album/1oAlLcfYvBpOb6PaGM6h4a?si=-2OHgb87SW6NU-Hjy3yphg

 

bunboniさん経由で知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-09-12

 

レイチンと同じくこれも台湾の若手音楽家、リニオンの二作目『Leisurely』(2020)は、まさしく大都会台北の洗練されたナイト・ムードがよく似合うチルな音楽。生演奏ジャズでやったネオ・ソウル・テイストなシティ・ポップといえるでしょうね。

 

noteで台湾的音楽をどんどん紹介なさっている石井由紀子さん(レイチンのこともお書きだった)によれば、リニオンもインディーズだから配信でならカンタンに公開できるけどCDなどはかなり限定的にしか流通していないんだそう。置いているお店が少ないみたいで、数をつくらなかったってことかも。
https://note.com/yukiko928/n/n9072f65706d5

 

でもこれ、傑作ですよね。ドラマー以外は全員台湾の演奏家で、一曲レイチンも参加したものがあります。そ〜れが、もうみんなレベルが高くって、いま、ここ10年くらいかな、アメリカとかイギリスなどの新世代ジャズ・ミュージシャンがもてはやされていますけど、台湾とか(ヴォイジョン・シーを核として)中国語圏でも同様の演奏家が出現しています。

 

リニオンの本作はそうした現状を如実に反映したもの。そもそもネオ・ソウルはアメリカでもジャズ系のミュージシャンが大勢セッションに参加していたものですし、リニオンが演奏力の高いジャズ演奏家を起用してこうした新世代台湾的ネオ・ソウルをつくりあげるのも道理です。

 

クロス・ジャンルというか越境的というか、現在の世界の洗練音楽をジャズ/ネオ・ソウル/シティ・ポップなどと分別することにもはや意味なんかなくなっていて、聴き手次第でどう受けとってもいいし、やっているほうはジャンル区分なんか歯牙にも掛けていないっていう。

 

それにしても心地いいくつろげる本作、聴いていたら、特に夜になって部屋の照明をちょっと落とし、これをいい感じでかければ、極上のおしゃれリラックス・ムードになります。そうしたチルな感覚こそこの音楽のキモですね。対峙して聴き込んでもいいけど、BGM的に流してフィーリン・グッド。

 

すべてはそんな気分を演出するためにこそ、技術の高い演奏力がとことんまで活用し尽くされているっていう、それがこうした種類の音楽の特性です。1990年代〜21世紀以後的なラウンジ系っていうかクラブ・ミュージック的な感性がしっかり感じられ、結果、聴き流して楽しんでムーディな夜を味わうのがいいんじゃないですかね。

 

(written 2022.10.5)

2022/10/05

デジャ・ヴなブリコラージュでグルーヴする台湾産ネオ・ソウルの最高傑作 〜 レイチン

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(4 min read)

 

L8ching / Dive & Give
https://open.spotify.com/album/1Zl1TH7j0cZEHf03ScvES2?si=5Sr_ZJawSQS-zzIV3I9ZNA

 

bunboniさんに教わりました。感謝ですね〜。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2022-09-14

 

台湾の音楽家、レイチン(雷撃、L8ching)のリーダー・デビュー作『Dive & Give』(2021)がメロウでソフトで、とってもいいです。ジャジーでもあるし、都会的に洗練されていて、これはもはや退廃に近いスウィートさ。

 

ぼくが強く惹かれるのはこのひとの編集感覚。といっても録音後にやっているんじゃなくて、演奏時のひとづつきのものだと思うんですけど、さまざまに異なる音楽要素をブリコラージュでちりばめて、寄せ集められたパーツじたいは既視感満載でありながら、これにこれが接合するのか!という驚きは間違いなくDJ的で21世紀の感覚です。

 

作曲編曲段階からそうしたアイデアが活かされていて、演奏時はジャズの生演奏みたいに一回性でやっているんだと思うんですよね。なかでも4曲目「巫女」。これこそ本作の白眉だとぼくは思います。ここではメロウR&B、サンバ・ビート、プリミティヴなチャント(on クラブ・ビート)、ラテン・ボレーロの四つが次々出てきます。

 

基本はメロウR&Bとサンバがトグルで切り替わるんですが、後半突然先住民プリミティヴ・チャント(ロビー・ロバートスンが1998年作でやったようなやつ)が挿入され、すると一転して今度はラテン・ボレーロに変貌するんですね。こんなの聴いたことないよ。

 

まるでかつてのラテン・プレイボーイズみたいですが、しかしレイチンのおもしろさはこんだけの異種混淆をやってゴタ混ぜ感がいっさいなく、グルーヴが一貫していること。はじめからそう作曲された一回性の演奏だからなのか、多要素をつぎはぎしているということを感じさせず、よどみない川のようなナチュラルでスムースな流れがありますよね。

 

そんな「巫女」のあとも、5、6曲目あたりは完璧にぼく好みの音楽。そっとささやくようにやわらかく歌うレイチンのヴォーカルもこうした曲想にはぴったり。やや日本の歌謡曲っぽいフィールもあるなとぼくは感じますが、ルーツをたどればそれだってもらったものです。

 

しゃべり声、こどもの泣く声、日常の生活音など、さまざまにサンプリングされて各所にちりばめられているのも音楽の臨場感と雰囲気を高める大きな要素となっていますが、そうした音は不思議にリアリティというよりファンタジーを感じさせる結果になっているのも楽しい。

 

10、12曲目なんかのさわやかな曲想も大好きで、ビートはかなり強めに効いているのにしつこい感じはなく、あっさり淡白っていうか落ち着いたおだやかな感触があるのは、やはりこのひとも近年のグローバル・ポップスのトレンドに乗っているんでしょう。各パーツはレトロ感覚が基調になっているし。台湾から出現した最高の才能じゃないでしょうか。

 

去年の作品ですが、2022年のベスト・アルバムに選びたいと思うくらいです。

 

(2022.9.18)

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