カテゴリー「レトロ・ポップス」の67件の記事

2023/12/13

レトロ・ブームな時代に映えるビリー・ジョエル『アン・イノセント・マン』の40周年

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(3 min read)

 

Billy Joel / An Innocent Man

https://open.spotify.com/album/3R3x4zIabsvpD3yxqLaUpc?si=r2H8PgzSSlaZvMN6rUFVIQ

 

今年夏ごろだったか、どれかの音楽メディアがビリー・ジョエル『アン・イノセント・マン』50周年であるというようなことを書いていて、あれっ?1983年の作品だから50じゃなくて40周年でしょ、と思いました。するとまもなくその記事は削除されましたけどね。

 

でも40周年であるには違いなく、アニヴァーサリー・イヤーであります。個人的にいちばん好きなビリー・ジョエルのアルバムでもあるしで、思い入れが強いんですよね。1950〜60年代のUSアメリカン・ポップス黄金時代へのノスタルジアがテーマになっています。

 

じっさいそういう曲ばかりで埋められているわけですが、ビリーの世代なら幼少時代に聴いて育った音楽だったということでしょうね。83年のアルバムですが、2020年代はレトロ・ブームでそのへんのアメリカン・ポップスが再興している時代ですから、40周年の23年に聴きなおす意義はあると思います。

 

ぼく的には2曲目までそうでもなく、3「ザ・ロンゲスト・タイム」からが大好きなパート。と思って見たら、これSpotifyで1億回以上再生されているじゃないですか。道理でねえ、さもありなん。楽しいドゥー・ワップですからね。

 

4「ディス・ナイト」も大好き。ってかこっちのほうがぼくの好みです。切ない歌詞にも共感できるし、それよりなによりこのきれいなメロディ・ラインですよ。メロディ・メイカーとしての本領発揮。といってもサビはベートーヴェン「月光」からの借用です(クレジットあり)。

 

全体では6「アップタウン・ガール」の人気が当時から高く、あのころMTVでくりかえし見た記憶がハッキリ残っています。いまSpotifyで見たら、なんと7億回以上の再生!Spotifyだけで7億回ですからねえ。いまでも聴かれているんですねえ。ぼくとしてはそうでもない曲ですが。

 

これよりもB面ならラスト二曲「リーヴ・ア・テンダー・モーメント・アローン」「キーピング・ザ・フェイス」がずっと好き。これは最高の二曲です。前者はトゥーツ・シールマンスのハーモニカをフィーチャーした美しいバラード、後者はクラーベ・リズムを活用したハネる楽しいラテン・ポップス。

 

(written 2023.12.13)

2023/11/09

フランス語でシャンソンを歌ってもいつもとかわらない 〜 ジャネット・エヴラ

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Janet Evra / Meet Me in Paris

https://open.spotify.com/album/6V9SmJ583uDr8llzv266iz?si=bCMJNHS0QmyIN2TN22__SA

 

お気に入りのジャズ歌手、ジャネット・エヴラ最新作『Meet Me in Paris』(2023)は、パリがテーマのシャンソン曲集。一曲だけ、7「Paris」はファースト・アルバムで歌っていた自作英語曲の再演で、パリがテーマだからとりあげたんでしょうね。

 

それ以外はフランス語の歌詞がついてフランスで歌われていたもの。それをジャネットもおおむねフランス語のままで歌い、部分的に英語詞もおりまぜながら、かわいくチャーミングに歌っているというのが特徴でしょうか。

 

なかにはいままでになかったセクシーさを香らせているケースもあったりして、ややおもむきの異なる新作になりました。この歌手は発音が明瞭でハキハキさわやか歯切れよくというのがメリットだったんですが、フランス語で歌ってもそれは変わらず。

 

UK出身だけにフランスへの距離感はUSアメリカ人とやや違うものもあるのでしょう。それに本作でとりあげられているシャンソンのほとんどは英語詞ができて英語圏でもさかんに歌われてきたものですしね。

 

フランス語でフランスの歌ばかりを歌っているということで、最初はやや驚きもあったんですが、聴いてみればいつもと変わらない軽やかなジャネットの音楽があります。ほっと一安心。

 

(written 2023.10.24)

2023/10/22

打ち込みでやっていても、打ち込みでつくりましたなデジタル感なしっていうのがレトロ・ポップ 〜 サラ・カン

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(3 min read)

 

Sarah Kang / Hopeless Romantic

https://open.spotify.com/album/4T9XmSaKAXnEYyNn8ILJK2?si=j2gNUlaFSmGyeZyLythsOQ

 

お気に入りのレトロ歌手、サラ・カン。韓国出身でUSアメリカを舞台に活躍しています。そんなサラの今年出た『Hopeless Romantic, Pt.1』のことは以前書きましたが、パート1となっているし、本人のインスタでも first half って書いてあるしで、こりゃ来るフル・アルバムの前半部かもしれないなと。

https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2023/07/post-31160e.html

 

そうしたら、やっぱりフル・アルバム『Hopeless Romantic』(2023)が10月6日にリリースされました。うれしい。前半部の五曲で聴けるレトロ・ポップぶりにすっかり骨抜きにされていたぼくは、フル・アルバム大歓迎。

 

後半部に五曲が追加され計10曲となりました。後半のそれら五曲も前半部とまったくムードは変わらず。はかない恋愛風景を甘く切ないジャジーなレトロ・ポップでつづる内容で、ビートはやはりDAWでつくっている模様。

 

そこにピアノやギターその他の演奏楽器がくわえられ、サラが自身の書いた歌をキュート&スウィートに乗せるといった感じ。このひとはただ書いて歌うだけでなく、演奏もアレンジも自分でやっているDIY派なんで、今回の後半部もそうやっているはず。

 

ただ折々にゲスト歌手は参加していて、いろどりを添えています。DAWビートやシンセサイザーもサラは自分でやっているわけですが、特色は生演奏楽器のようなオーガニックなサウンドに仕立て上げられているというところ。レトロ・ポップですからね、それが命です。

 

打ち込みでやっているにもかかわらず、打ち込みでつくりましたなデジタル感が絶対にないっていう、そのへんが一部のロックや、ハウス、ヒップ・ホップなどとの違いですね。

 

レトロ・ポップは懐古的なアナログ感が大切にされるようになった2020年代のファッションなんで、最新のサウンド・メイクでやってはいても、そこのフィーリングは絶対に失わないわけです。おわかりですか。

 

(written 2023.10.21)

2023/10/19

ダウナーなレトロ・ジャズ 〜 リッキー・リー・ジョーンズ

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Rickie Lee Jones / Pieces of Treasure

https://open.spotify.com/album/1uj9iLqDY2alHSLYnTE9wY?si=bW1_EtUWRau72F2BuDy2rw

 

レトロばやりってことで、なんとリッキー・リー・ジョーンズまでもやってしまった最新作『Pieces of Treasure』(2023)というジャズ・アルバム。ティン・パン・アリーのグレイト・アメリカン・ソングブックを歌ったもので、本人というよりプロデューサーのラス・タイトルマンがアプローチして実現したとのこと。

 

それにしても、四月末にリリースされていて速攻で聴いたにもかかわらず、書くのがずいぶん遅れてしまったのは、どうも本作で聴けるリッキー・リーのヴォーカルがですね、う〜んどうも、イマイチ好みじゃないっていうか、なんだかダラダラしていてしまりがなく、だらしないと思ったからなんです。

 

ひょっとして前からこんな歌手だっけ?と思ってデビュー期から聴きなおしてみてもやはりこうではなく、だから本作ふくめ近年の傾向ってことなんですね。う〜ん。ともあれリッキー・リーはこうしてスタンダードを歌ったりジャジーなアプローチをみせることも従前からときどきありはしました。

 

そこへもってきて、ここのところのレトロ・ブーム(をラスは意識したはず)と、さらにリッキー・リー自身もだいぶ年老いてきたっていう、なにか心境の変化みたいなのがあったのか、それでこのアルバムの制作に至ったのではないかというのがぼくの推測です。

 

上で書いた「ダラダラしていてしまりがな」い歌いかたっていうのも、最初ぼくはこんなんじゃあちょっとね…と思いましたけど、老齢者ならではの黄昏のメンタリティというか、人生の終盤にさしかかってのダウナーな気持ちのストレートな反映と考えれば、これはこれで一つの立派なリアリティだよなあと。

 

考えてみればここでカヴァーされているスタンダードの数々がつくる世界観とはいままでずっとゴージャスで華やかだったもの。ほとんどどんな歌手、アレンジャー、演奏家がやったものでもそうでありました。リッキー・リーの本作はそういう世界に対するある種のアンチ・テーゼになっているともいえます。

 

それはかつて1970年代末にデビューしたころの自分自身からの変貌であり、老境ならではの低く暗いムードの音楽。ぼく自身(にぎやかなものより)落ち着いた音楽を好むようになってきているのもやはり初老の入り口に来たからでしょうけど、そういうときにリッキー・リーのこのスタンダード曲集は内面に寄り添ってくれる深みというか吸引力を持っているのかもしれませんよね。わからないけど。

 

(written 2023.6.18)

2023/09/21

1920年代そのままに 〜 サラ・キング

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Sarah King / Tulip or Turnip

https://open.spotify.com/album/7hMNhRWeD2XjjMlwL9okYj?si=2csWJKf8RtO84uT0yCo93g

 

ニュー・ヨークはブルックリンの歌手なんだということ以外なにもわからないサラ・キング。名前をアルファベットで検索すると、ギターかかえてテンガロン・ハットかぶったカントリー歌手が出てきますが、別人だよなあ。ぼくがこないだ偶然出逢ったほうはレトロ・ジャズ歌手だもん。そっちは情報ほぼ皆無で。

 

でもファースト・アルバムらしき『Tulip or Turnip』(2021)はマジいいよ。なにも知らないけど惚れちゃった。ちょっぴりビリー・ホリデイちょっぴりブロッサム・ディアリーみたいなキュートなヴォーカルがいいし、なんたって20sディキシー/30sスウィング時代の知られていない隠れた宝石を、当時のスタイルそのままチャーミングに演奏するバンドも好み。

 

バンドはピアノ・トリオにクラリネットだけっていうシンプルな編成。このカルテットもサラも、おおむかしのジャズが心から大好きなんでしょう、ひたすら追求して2023年に再現しているっていう。レトロが流行りだからちょっとやってみたっていうだけだとここまでできないですよね。

 

とりあげられている曲はデューク・エリントンやティン・パン・アリーのソングライターたちなどが書いた、しかも忘れられてしまった小品ばかり。無知なぼくはなんと本作ぜんぶの曲を知りませんでした。クレジット見るまではオリジナルなんじゃないかと勘違いし、たいしたイミテイションぶりだと、そこに感心していたくらいですから。

 

と思っちゃうくらい、知らない曲+きわまったレトロ・スタイルの徹底ぶりで、古いジャズやジャズ系ポップスがお好きな向きには格好にかわいくキュートでチャーミングな一作。8曲目なんか必然性がないのにガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」をクラリネットがイントロで引用しているほどで、要するにあの曲が発表されたあの時代(1924年)のムードがそのままここに活きています。

 

(written 2023.5.14)

2023/08/06

パーセノープの歌う「ドント・ノウ・ワイ」(ノラ・ジョーンズ)がいい

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parthenope / Don’t Know Why

https://open.spotify.com/album/6Z5D4WKSkDUSxBX3xtSOgL?si=qoIXj2fqTGiU5agtiABhxw

 

この歌手名、なんと読むんでしょうparthenope。パーセノープかな、わからないけどきょうはそれでいきます、イングランドはスウィリントン出身で、ラウドLDNのメンバー。

 

そのパーセノープが歌う「ドント・ノウ・ワイ」(ノラ・ジョーンズ)がさわやか軽やかでとってもいい。これ一曲でもう惚れちゃいました。といってもかの『ブルー・ノート・リ:イマジンド II』(2022)に収録されていたものなんです。

 

だからアルバムで聴いたことあったはずなのに、なんだかこのごろSpotfyでこれ一曲のシングルとして出てきて目にとまる機会が増え、なんでしょうね、シングルのヴァイナルがリリースでもされたのかな、とにかく既知のものだけどあらためて聴きなおしたら新鮮でした。

 

ノラのオリジナルとそんな違わないストレート・カヴァーですけどね。そうそう、ノラといえばこないだレイヴェイがはじめて対面したようで、レイヴェイはその写真に “God” のことばを添えてInstagramに投稿していました。なにかのジャズ・フェスみたいな機会で同じステージを分けることがあったみたい。

 

このレイヴェイの感動の様子でもわかるように、ノラは現行レトロ・ジャズ・シーン若手のアイドルなんですね。イングランドのパーセノープがこの波のなかの一人かわかりませんけど、ブルー・ノート・クラシックであることもふくめ、デビュー期のノラを歌うことの意味はよく知っていたはずです。

 

そして(カヴァーでもオリジナルでも)軽くふわっとさわやかなジャズ・ポップスに仕上げるっていうのがレトロ・ムーヴメントの特徴。最新鋭UKジャズ〜R&Bのコンピである『ブルー・ノート・リ:イマジンド』シリーズのなかにもこういうのがあるってことで、いまや決して無視できない流れになったといえるでしょう。レトロと新世代ジャズは表裏一体です。

 

(written 2023.7.9)

2023/07/26

切なく甘くノスタルジックなレトロ・ポップでつづるラヴ・ソング 〜 サラ・カン

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(3 min read)

 

Sarah Kang / Hopeless Romantic, Pt.1

https://open.spotify.com/album/2SbZ3ohaiBoFvCofVE18h0?si=CH0lHkFmSaiAxKbZWePp4g

 

以前一度書いたわりあい好きなレトロ・ジャズ歌手、サラ・カン(韓国プサン生まれLA育ち現在の拠点はNYC)の新作『Hopeless Romantic, Pt.1』(2023)が出ましたが、これアルバムの前半というか一部で、続きのPt.2がそのうち出て完結するってことでしょうか。本人が “first half” とかってインスタで言っていたような。

 

とりあえずいまはPt.1だけ聴ける状態なのでそれを書いておきます。もう待てないんだもんね。それくらいチャーミングだし、これはこれでちゃんとバランスのとれた完結品のような趣をしています。

 

1930〜50年代ごろのUSアメリカにたくさんあったキュートでジャジーなポップスへの眼差しがはっきりしていて、そういう世界への憧憬をはっきり示す歌手やソングライターはその後も現在までときどき出現してきましたよね。近年のレトロ・ブームはそれが大きな潮流として顕出しムーヴメントになっているというわけです。

 

最大の共通項は「非ロック」「前ロック」ってことで、サラ・カンの音楽もまた同じ。今回はラスト5「It’s You I Like」だけがフレッド・ロジャーズのカヴァーで、それ以外は自作。サラは歌えるだけでなく、曲を書きアレンジ/プロデュースし楽器もやれる音楽家なんで、やはりそのようにつくりあげていると思います。

 

ところでそのフレッド・ロジャーズの「イッツ・ユー・アイ・ライク」をサラがカヴァーしているのがクラシカルで、最高にすんばらしいんじゃないかとぼくは思います。同じくニュー・ヨーク在住の日本人ピアニスト、泉川貴広が伴奏をつとめているデュオなんですけど、なんともかわいらしくチャーミングで、大好き。あなたのなにからなにまでぜんぶ好きっていう歌詞も好き。

 

これがラストに置かれていることには明確なプロデュース意図を感じますし、バランスがとれている、構成が練られているとわかるものですよ。それくらいこのEPのクローザーとしてはこの上なくピッタリ。デジタルなリズム伴奏がついている4曲目までからのあざやかな流れになっています。

 

ピアノやアクースティック・ギターとDAWビート中心のシンプルなサウンドを軸に、控えめのトロンボーンやハーモニカ、チェロなどを効果的に配した1〜4までは、あくまで切ないフィールの自作の歌を聴かせよう、それをきわだたせようという音づくりになっています。やや甘めのサラの声は、こうしたノスタルジアをつづるのに最適ですね。

 

(written 2023.7.23)

2023/07/09

レトロ・ジャズ・ポップスの先駆けだったと今ではわかるジャネット・エヴラ

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Janet Evra / Hello Indie Bossa
https://open.spotify.com/album/4ZGZHM0fPwIqIRfU2Ozxcx?si=0P354SneSTycICSL0y8A5w

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-06-05

 

bunboniさんとぼく以外話題にするひとがほぼいないジャズ歌手、ジャネット・エヴラ(UK→US)ですが、個人的には2018年のデビュー作『Ash Her to Dance』1曲目「Paris」冒頭の三語 “I still wonder” で惚れちゃった明瞭な発声とヴォーカル・スタイルの持ち主で大好き。

 

それなのに二作目『New Friends Old Favorites』(2021)はイマイチで、それでも記事にはしましたが惚れた弱みみたいなもんで、なんかちょっとモヤモヤの残る作品でした。ジャネットの持ち味はこれじゃない感があったというか。

 

ですから三作目『Hello Indie Bossa』1曲目「Tenderly」がうれしかった。もう一聴で快哉を叫びましたよ。これだよこれこの路線こそがジャネットの本領発揮だすばらしいきれい楽しいって、惚れなおしちゃいました。いやあ、ホント。ジャネット・エブラ、いいねえ。

 

それに「テンダリー」ではヴァイブラフォンがいい。さわやかだし、ボッサ・テイストなジャズ・ポップにちょうどいい色彩を添えていて、ぼくがヴァイブ好きなだけっていう理由もありますが、ここまで曲にピタっと来ているクールな使いかたもなかなかないですよ。

 

それで、ちょっとあれなことを以下書きますが、ジャネットのデビュー作に出会ったのが2019年でしたから、あのころまだレイヴェイはこの世界にいませんでしたし、そもそもレトロ・ムーヴメントがまだそんな顕在化していなかったと思います。

 

そんな時期にジャネットに出会い、こ〜りゃいいね!と思って好きになっちゃったわけですけど、一作目と同様にすばらしいこの三作目の、2023年における立ち位置を考えてみるに、こりゃもう完璧にレトロ・ジャズ・ポップスの代表作そのものです。

 

ふりかえってみれば2018年の一作目はそのみごとな先駆けだったように、いまでは思えます。レイヴェイもこの手のボッサ・ポップスは得意としているし、同じようなことをやっている若手歌手は実に多いです。

 

波風が立つところの微塵もない、ひたすらおだやなでピースフルな癒しになる薄味な音楽 〜 それがコンテンポラリーなレトロ・ジャズ・ポップスの特色なんですが、ジャネット・エヴラもそのなかに位置づけたときに(ぼく的には)理解と輝きが増すように思います。2018年デビューなんで、当時まだその波は立っていませんでしたけどね。

 

(written 2023.6.12)

2023/06/22

ひとときのフィクション 〜 サマーラ・ジョイ『リンガー・アワイル』デラックス

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(3 min read)

 

Samara Joy / Linger Awhile (Deluxe Edition)
https://open.spotify.com/album/1kQH5ZtEqzJ5GxyTtfHKE3?si=QYn17jgkTzaa9GHyCTmxLQ

 

レトロ・ジャズ歌手、サマーラ・ジョイの『リンガー・アワイル』(2022)については去年リリースされたときにさっそく書きましたが、ジャケットの色を変えたデラックス・エディション(23)がこないだ五月に出ましたね。追加されたのは7曲8トラック。どれも新録で、別途EPとかで安価にリリースすればいいのに、豪華版にして本編をCD派にもう一回買わせるなんて、ちょっとヴァーヴさんそのへんどうなん?

 

これはあれでしょう、『リンガー・アワイル』はずいぶん評価も人気も高くて、なんたって歌手として&アルバムとしてのダブルでグラミー賞をもらったぐらいだし、いまだに話題が引も切らないので、それに乗っかって二匹も三匹もどじょうを釣っときたいってことでしょ。

 

ぼくとしてはサブスク・ユーザーなので、べつに追加出費がかさむわけでなく(Spotifyなら月額¥980で聴き放題)、個人的にもお気に入りの音楽が拡大され長尺になれば、このラグジュアリー・ムードをよりいっそうたっぷり味わえるってわけで、『リンガー・アワイル』デラックス・エディション、楽しんでおります。

 

新録と書きましたが、本編収録曲の、アレンジだけ変えたような再演が半分あります。はじめてやっている曲というのは追加部分の前半四曲だけ。それだって音楽性として新機軸なんかまったくなく、どこまでも『リンガー・アワイル』の高級ホテル・ラウンジふうな雰囲気をそのまま維持しています。

 

いつまでもこんなムードにひたっていたい、この楽しいラグジュアリーな時間が永遠に続けばいいのに、っていう、なんというかある種の現実逃避願望みたいなものを実現するひとときのフィクションとしてこそサマーラみたいな音楽は価値を持っているのであって、社会に対するレベルであるとかどうとかそんな世界とは完全に無縁。

 

ぼくだってそうだけど、現実の日常や人生はかなり厳しくつらいもの。それをすこしでも改善しようという社会変革としての音楽も必要でしょうが、日本の演歌や歌謡曲もそうであるようにしんどい現実からいっときだけ逃げるというか忘れるための、要するに憂さ晴らしみたいに機能する音楽もまた世には必要なんです。

 

じっさい必要としている人間が多いからこそサマーラ・ジョイと『リンガー・アワイル』がこれだけ大人気なのに違いないわけですからね。そんな時間がデラックス版でいっそう長くなれば、ウレシタノシ気分も持続するってわけで。

 

(written 2023.6.15)

2023/06/08

ボッサ・ポップスとはなにか?それは=アストラッド・ジルベルトのことだった

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(2 min read)

 

Astrud Gilberto’s 6 Essential Songs
https://open.spotify.com/playlist/1lKMaD7ycxGABMkYdwxDWe?si=4f87e0d4d13e45d0

 

主に英語で歌うときのフィーメイル・ボッサ・ポップスのイコン・ヴォイスだったアストラッド・ジルベルトが亡くなりました。「イパネマの娘」(1964)があんな世界的大ヒットにならなかったら、その後のワールド・ポップスはかなり様子の違うものとなっていたはずです。

 

アストラッドがいなかったら、21世紀のいまをときめくレイヴェイだって、ジャネット・エヴラだって、あるいは(伊藤ゴロー時代の)原田知世だって、存在していなかったんです。そもそもボッサ・ポップスという世界を産んだのがアストラッドですから。

 

それくらいアストラッドが世界のポップス・シーンに果たした功績は大きかった。現在はレトロ・ブームで、1950〜60年代的USアメリカン・ポップスを、それも若手や新人がどんどんやるようになっていますから、アストラッドの位置や重要性にふたたび脚光があたるようになっていたかもっていうところへの訃報だったんだと思います。

 

じっさいレイヴェイなんかはソーシャルではっきり追悼の投稿をしていましたし、いまボッサ・テイストなジャジー・レトロ・ポップスをやっている歌手たちは、だれもがみんなアストラッドに背中向けられないというのは間違いありません。アストラッドがボッサ・ポップスを定義したんですから。

 

ヴィブラートなしコブシなしでナイーヴかつストレートに発声し、ややフラット気味に低域から高域まで均質に歌え、デリケートで、キンと立つこともない(無表情とも思えるほど)おだやかなアストッドのヴォーカルは、まさしく2010年代以後的なサロンふう軽いグローバル・ポップスの潮流そのもの。先駆けなんていうのもおこがましい、いまぼくらがふだん聴いているのは=アストラッドなのです。

 

(written 2023..6.8)

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