カテゴリー「レトロ・ポップス」の42件の記事

2022/09/21

ジャズにおけるレトロ・トレンドとはなにか

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(6 min read)

 

ジャズの世界では、新時代のニュー・スタイルが勃興しみんなの話題になったときなぜか同時に古典回顧のノスタルジアも流行するっていう不思議なシンクロ現象がむかしからあります。1940年代のビ・バップ隆盛のときはニュー・オーリンズ・リバイバルがあったし、80年代のフュージョン全盛期にはウィントン・マルサリスら復古派が一大勢力になっていました。

 

2010年代以後現在までだって、ヒップ・ホップ通過後の新世代感覚を身につけた多ジャンル接合的なニュー・エイジ生演奏ジャズが大きな流れとなっているそのわきで、1930〜50年代ふうのプリ・ロック的黄金時代ジャズへのレトロ愛を全面的に打ち出した若手だって確固たるムーヴメントになっています。

 

現在のレトロ・トレンドの中心になっているのはスウィング・ジャズのスタイルで、それも当時主流だったようなビッグ・バンド編成じゃなく室内楽的な少人数編成でやることが多いです。どうしてスウィング・スタイルかっていうと、実はビ・バップってロックンロールと親戚なんですね。そもそも歌ものが映えないしリリカルでもないしっていう。

 

そう、ですから現行レトロ・ジャズ・ブームの中心はあくまで情緒的な歌ものですよ。器楽演奏ジャズでのレトロ志向ってぼくはあまり知りません。ヴォーカルでの復古志向ということで、その伴奏をやる器楽奏者もあわせるようにスタンダードでメインストリームなスタイルをとるようになっているというだけのことです。

 

古いもの、それも自身はリアリティがないはずの70〜80年くらい前のものにあこがれ、追い求め、そんなノスタルジア(っていうのも本来はおかしいんだけど、経験ないんだから、ヴァーチャル・ノスタルジアってことか)をほんとうにリアルな音にして歌ってみたりするっていう、近年のこうしたレトロ・ブームの背景には、ひょっとしたらデジタル・ネイティヴ世代ならではってことがあるのかもなという気がします。

 

以前も書いたしきのうサマーラ・ジョイのときにも触れたんですけど、日本のZ世代に昭和レトロへのあこがれがあるように、ああいったネット常時接続もスマートフォンもなかった、みんながつながっておらず、たがいに適度な距離をおいていた、そういう時代をナマ体験ではいまの若手は知らないわけです。

 

ぼくなんかの世代だと、あんなにも不便で生きづらかった時代にレトロなあこがれを持つなんて、ドウカシテル!って思っちゃうんですけど、なんでもあってすぐそこに手に入り簡単に近づいていけるっていう、そういう世界で生きてきた世代にとっては、かえってほどよい中庸さみたいなのがあって、ちょうどいいフィーリング、羨望の眼差しなのかもしれません。

 

ジャズでいえば、1950年代なかばのロックンロール・ビッグ・バンでアメリカン・ポピュラー・ミュージックの世界で主役が交代したっていうのはなんだかんだいって間違いないし、その後も2022年にいたるまで一度もトップに返り咲いたことなんてないわけです。21世紀になってジャズがもりかえしてきているたって、しょせん主流音楽ではありえませんし。

 

あれ以来ずっと斜陽の黄昏ニッチ音楽、それがジャズ。そうなる前、時代のメイン・スポットライトを浴びていた、爛熟していたジャズ黄金時代へのあこがれとか、ある種の仮想ノスタルジアを持つことがあっても不思議じゃないのかもしれません、若手でも。ぼくだって同時代感覚はありませんが、50年代以前には。

 

音楽はサブスクで聴くというのが中心になっているというのもレトロ・トレンドを後押ししているはず。時代が遠くなるにつれて距離感の濃淡みたいなものができていたのがサブスク普及で消えてなくなって、新しい音楽にも古い音楽にも同じ皿にべたっとフラットに並べて同一に接することができるようになっているでしょ。

 

このことが実はとっても大きいんだと思いますね。レトロ・ジャズ・ブームの中心にいる歌手たちはみんなInstagramをやっているんですが(歌詞のなかに “Instagram” と出てきたりもする)フィードやストーリーをながめていると、だれしもがSpotifyやApple Musicであこがれのナット・キング・コールやチェット・ベイカーや(ヴァーヴ時代の)ビリー・ホリデイなどを聴いているとよくわかります。

 

だから、ネットとスマートフォンがなかった<あの時代>への憧憬といったって、それを味わうためにはそれらデジタル技術を使ってアクセスし投稿もしているわけなんですね。そうした体験をベースにして、みずからも同じような音楽を産み出すようになったっていう。だからやっぱりこれもまた2010年代以後じゃないと存在しえなかったコンテンポラリネスではあるんです。

 

(written 2022.9.19)

2022/09/20

黄金時代へのノスタルジア 〜 サマーラ・ジョイ

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(3 min read)

 

Samara Joy / Linger Awhile
https://open.spotify.com/album/1TZ16QfCsARON0efp6mGga?si=0jfmXC-0SoGLBVl_rnwKaA

 

リリースされたばかりのジャズ歌手サマーラ・ジョイの最新作『リンガー・アワイル』(2022)を聴いていたら、もういまのぼくはこういうのですっかり気分よくてですね、こういった高級ホテルのラウンジとかでやっているような音楽って、ケッ!とか思って長年バカにしていた面もあるんですけど、歳とって変貌しました。

 

サマーラ・ジョイってどんな歌手なのか、デビュー時から日本語メディアでも注目されていて、文章がたくさん読めるので、ぼくがここで説明する必要はないはず。もしこの記事ではじめて知ったんだけどっていうかたがいらっしゃれば「サマラ・ジョイ」でぜひ検索してみてください。

 

最新作もジャケット・デザインを一瞥しただけで、やっぱりこの歌手もレトロ志向なんだなとわかりますが、こうした音楽はジャズやその近辺において完全に一時代の大きな潮流となった感がありますね。サマーラもティン・パン・アリーなスタンダード・ソングを中心に、ピアノ・トリオ+ギターという標準的なジャズ伴奏をつけて、ふわっとおだやかに歌っています。

 

ぼくはお酒がまったく飲めないし、ハイ・クラス・ホテルにも縁がないしで、こうしたラウンジ・ミュージックを現場の生演唱で聴くというチャンスはいままでの人生になかったんですが、自室でおいしいコーヒーを淹れてゆっくり楽しみながら、おだやかでていねいなひとときをすごすという、そんな日常のための極上BGMになってくれるのがサマーラ・ジョイ。

 

ジャジーなムード満開だけど、ときおり適度にブルージーになったりラテン・ビートが使ってあったりと、そのへんの作法も黄金時代のジャズ・ポップスそのまんま。サマーラのヴォーカル・カラーは、スタンダードを歌うときのカーメン・マクレエあたりの味にちょっと似ているなと思います。

 

1930〜50年代あたり、ロックンロール爆発前夜に爛熟していたジャジー・ポップスへの憧憬が間違いなくサマーラ(やその他レトロ・ジャジー歌手たち)のなかにはあって、いま、ここ10年くらいかな、こうしたノスタルジアをリアルな音にして届けてくれる歌手が急増していますよね。

 

こうしたムーヴメントはいったいなんなのか?じっくり考えてみないとわかりませんが、ヴァーチャルなファンタジーがリアリティを持つようになったネットとスマートフォン時代だからこそ具現化するようになった音楽だとも思えます。

 

ともあれ、いまから40年ほど前の大学生時代からスウィング系のヴィンテージ録音ジャズやそれで歌うポップ歌手なんかが大好物で愛し続けてきたぼくにとっては、サマーラ・ジョイもまたストライクな歌手。新しくもなんともないし、音楽として特になんでもないようなものですけど、趣味の世界ですからね。

 

(written 2022.9.19)

2022/08/25

インドネシアZ世代のレトロ・ポップス 〜 アルディート・プラモノ

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(3 min read)

 

Ardhito Pramono / a letter to my 17 years old
https://open.spotify.com/album/48SUVfdwm8K3U67cS5QC2h?si=jp-3hgyeRRCAqkE7dYtcqw

 

三年前の記事ですけどMúsica Terraでこうしたレトロ・ジャズ・ポップスを知るのはめずらしいですね。
https://musica-terra.com/2019/12/17/ardhito-pramono/

 

五曲たった16分ほどのEPで、しかも2019年の作品ですけども、インドネシアはジャカルタのシンガー・ソングライター、アルディート・プラモノの『a letter to my 17 years old』(2019)は今年知ったぼく好みの音楽。1995年生まれですから完璧新世代です。

 

これがすばらしくレトロっていうか、1930年代的スウィング・ジャズのマナーでやったのが二曲あります。ジャカルタではそういった音楽が戦後もしばらく流行していたし、国際的大都市ならではの洗練もあって、2020年代の若手新世代ミュージシャンまでその流れが来ているのかもしれませんね。

 

しかもインディ・リリースとかじゃなくて、最大手のひとつソニーから出ているんですもん。アルディートは14歳から音楽活動を開始し、その後オーストラリアで学びながらYouTubeで自作曲を発表し、2017年にソニーと契約しているみたいで、『a letter to my 17 years old』はそのファースト・アルバムです。

 

1曲目からいきなり2/4拍子のスウィング・ジャズ全開。なんなんですかね、この30年代マナーは。ホーンズやギターの使いかた、さらにコージー・コール(おぼえてる?)みたいなスネア・ドラムのブラシ・プレイなど、どこからどう聴いてもタイム・スリップしたような感覚におそわれます。

 

もう一個は4曲目。やはり2/4拍子で、これなんかスウィングを飛び越えてディキシーランド・ジャズのスタイルに近づいているもんなあ。アルディートのちょっとしゃべっているみたいなヴォーカルも曲想によく似合っていますよね。なんかもうひとり別の男声が聴こえるような。

 

これら以外だって、たとえば2曲目は60年代ブラジリアン・ポップスふう、をアメリカ合衆国人がやっているみたいなフィーリングで、懐かしさハジケます。3曲目はおだやかなピアノを中心に据えたやはり50年代っぽいジャジー・ポップス。5曲目はアクースティック・ギター弾き語りのいはゆるシンガー・ソングライター然としていて。

 

どれもこれも、すでに死に絶えたということになっている過去の(日本でいえば昭和な)音楽スタイルばかりで、新世代はたぶんむかしを懐かしむというより21世紀になってはじめて出会ったような新鮮さをこの手のポップスに感じて取り組んでいるんでしょうね。ぼくらの世代には懐古的と聴こえるけれど、いまのZ世代にはコンテンポラリーなリアリティがあるのかも。

 

(written 2022.7.29)

2022/07/27

あのころのジャジー・ポップスのように 〜 エマ・スミス

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(3 min read)

 

Emma Smith / Meshuga Baby
https://open.spotify.com/album/3HahJJpwuLOh40uDe8Ia1W?si=wJ303pHnSy2UOjs3xaB3bA

 

萩原健太さんに教えていただきました。
https://kenta45rpm.com/2022/07/12/meshuga-baby-emma-smith/

 

ジャケットにわざわざ「STEREO」の文字が配されているあたり、露骨にあの時代を意識したいかにもなレトロ感ただようエマ・スミスの最新アルバム『Meshuga Baby』(2022)は、まさしくロックンロール台頭前夜のおもむき。

 

エマはロンドンの歌手で、ボズウェル・シスターズとかアンドゥルーズ・シスターズとかあのへんの世界を意識したような女性三人組コーラス・グループで活動しているとのこと。ソロ作品でも同様に過去へのリスペクトに満ちた眼差しを見せてくれているわけなんです。

 

この新作でのきわめて個人的なお気に入りは、エマのヴォーカルもいいんだけど、実を言うと伴奏を務めているジャズ・ピアノ・トリオ。なかでもピアノのジェイミー・サフィアの弾きかたや全体的なアレンジが大のぼく好み。

 

ジェイミーはエマと共同で本作のための新曲も書いているあたりからみて、どうもアルバムの音楽監督的な役目をやっていそうな気がします。Spotifyアプリでは各曲のプロデューサー名のところが空欄になっているので、わからないんですけれども、たぶん。

 

強めのビートが効いている曲がいくつもあって、そのなかにはラテン風味がしっかり聴けたり、ブルージーでファンキーだったりもけっこう香り、それらって突き詰めれば<あのころ>のアメリカン・ミュージックだとごくあたりまえにあったものだから本作でのエマらも自然に表現しているということ。意識せずともですね。

 

特にラテン・ビートとブルーズがかなり多いのはたいそうぼく好みのジャズ・ヴォーカル・アルバムといえて、そういった方向性をエマと共同でジェイミーが牽引したんじゃないかという気がするんです。その意味でも完璧にレトロなジャジー・ポップス・アルバムでしょう。

 

レトロといっても本作は淡々おだやか系ではなくて、抑揚や変化があって強く派手な表現もわりと聴けるんですが、エラ・フィッツジェラルドなんかもそうなることが多かったし、エマのヴォーカルにも濃淡というか緩急がしっかり効いていて、なかなか楽しい歌手ですね。所属しているというプッピーニ・シスターズも聴いてみようかな。

 

(written 2022.7.22)

2022/07/06

ビートルズ「ハニー・パイ」は、2010年代以後的なレトロ・ポップス流行のずっとずっと早い先駆だったかも

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(4 min read)

 

The Beatles / Honey Pie
https://www.youtube.com/watch?v=0Sr0efOe8yk

 

やっぱりこの分野もビートルズが先駆けだったとかそういう意味のことはあまり言いたくないけれど、ポールの「ハニー・パイ」(『ホワイト・アルバム』1968)を聴いていると、近年のジャジーなレトロ・ポップスだってそうだったじゃないかと思えてきてしまいます。

 

78回転SPレコード再生のスクラッチ・ノイズを挿入するなんていまじゃ大勢がやっていることで、2010年代以後のレトロ・ポップス流行におけるシンボルになっているくらいですが、でも最初にやったのが「ハニー・パイ」のポールだったんじゃないかと思えてならないんですよね。だいたい曲そのものがレトロな1920年代テイストそのまんまですし。

 

「この曲でのぼくは1925年に生きているフリをしたんだ」とポール自身はっきり語っていますからね。もちろん20年代ふうのレトロ・ジャズ・ソングを現代に志向するミュージシャンは、第二次大戦後のイギリスにだってたくさんいたと思います。ですがポールのばあいはビートルズっていう60年代の最先鋭を走る世界的大人気ロック・バンドの一員としてこういう曲をやったという、そこが大きいんですよね。

 

これ以前から『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(67)には「ウェン・アイム・シックスティー・フォー」があったし、そのずっと前『ウィズ・ザ・ビートルズ』(63)で「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」をカヴァーしたのもポールでした。

 

こういった嗜好志向がハナからあった音楽家と言えるし、ビートルズ解散後はティン・パン・アリー系の古いスタンダード・ポップスばかり歌ったアルバムもあるし、ブリルビルディングの職業作家たちからかなり大きく学んできたソングライターだと常からわかるしで、そのへん、ポール本来の持ち味だったんでしょうね。

 

ポール自身は1942年生まれなので、そこらへん20年代ポップスに同時代体験はなかった世代ですが、その父は20年代のダンス・コンポ、ジム・マックズ・ジャズ・バンドを率いてトランペットとピアノを演奏していたそうです。そうした伝統に染まって育ったんだと子のポールも懐古していますし、幼少時から古いジャズ・ソングやポップスに囲まれて血肉にしながら育ったんだと思います。

 

キンクスあたりにもちょっぴり嗅ぎとれるこうした英国音楽の流れ、それを最も鮮明なかたちではっきりと曲にして書き歌い、それを時代の流行ロック・バンドのアルバムのなかに入れて世に出したのは、『ホワイト・アルバム』の「ハニー・パイ」をもって嚆矢としたいです。

 

1968年におけるこうしたテイストが、流れ流れて2010年代以後のコンテンポラリーなレトロ・ポップス・ムーヴメントへの「直接の」影響源だったとは考えてもいませんが、両者があまりにも音楽的に酷似しているがため、う〜ん、さすがはポール、さすがはビートルズだったなぁとうならざるをえないです。

 

(written 2022.7.5)

2022/04/27

上質なシルクのような 〜 ルーマー『B サイズ&レアリティーズ Vol.2』

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(4 min read)

 

Rumer / B Sides & Rarities Vol.2
https://open.spotify.com/album/0CNhXKYx4kOOZrelgXiGUr?si=9VPX9Dk7Rua2gJwrEEDfBg

 

4月22日には待望の新作が三つも出ました。タジ・マハール&ライ・クーダーの『ゲット・オン・ボード』、ルーマーの『B サイズ&レアリティーズ Vol.2』、ボニー・レイットの『ジャスト・ライク・ザット…』。一日に好作リリースが集中して聴くのが追いつかずうれしい悲鳴っていうのはよくあること。

 

タジ&ライのニュー・アルバムについてはみんなが話題にしていて耳目をさらっているので、いつものんびりのどかなぼくのブログではあとまわし。ゆっくりマイ・ペースでやればいいでしょう。ボニーもそこそことりあげられています。

 

ということで、ほとんどだれも言及しないルーマーの新作から書いておくことにしましょう。Vol.2となっているのでおわかりのとおり、2011年の『B サイズ&レアリティーズ』の続編。シングルのみだった曲やそのカップリング・ナンバーなど、いままでアルバムに入っていないものを中心に集めています。

 

2015年にアメリカに来てピアニスト&プロデューサーのロブ・シラクバリを公私とものパートナーとするようになってからのルーマーはすっかり落ち着いていて、自分の人生をみつけたっていう感じ。水を得た魚のようなのびやかさを聴かせています。

 

やや翳りと憂いをもたたえた美声を持つルーマーのヴォーカルは、1960〜70年代ふうのレトロでオーガニックなポップスをやらせるのにこれ以上の歌手はいないかもと思わせるほどみごとにはまっていて、ここ10年近くの(ややジャジー・カントリー寄りな)アメリカン・ポップス界ではきわだった存在です。

 

今回も、そもそもアルバム題だって、いまはもうシングルもデジタル・リリースだけになったから「B面」なんてないのに、あえてこのことばを使うあたりがいかにもなこの歌手らしい世界観ですね。

 

ルーマーのヴォーカルにはリキむところがまったくなく、すーっと軽くおだやかに声を出しながら、微細な部分にまで神経がいきとどいていてデリケート。それでいて丸みや芯の太さ、信念みたいなものを感じる声質で、ほんとうに近年のぼく好み。ますます磨きがかかってきていますよね。

 

バート・バカラックの音楽監督を務めていたロブ・シラクバリをパートナーにしたことが成功と成長に著しく貢献しているというのもわかります。本作もやはりロブのプロデュースで、聴こえるピアノもたぶんそうでしょう。おだやかで淡々としたオーガニックなサウンド・メイクなのは変わらず。

 

バカラックの曲も今作に一個ふくまれていますし、サラ・ジョイス名義での自作もあり。また今回は個人的にとても耳を惹くものが二曲ありました。9「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」と12「ザ・フォークス・フー・リヴ・オン・ザ・ヒル」。いうまでもなく前者はビージーズの名曲で、いまやスタンダード化していると言っていいでしょう。

 

後者はジャズ歌手なんかがよく歌うジェローム・カーン作のポップ・スタンダードで、やはりたいへんすばらしいですね。それらはいずれもいまの幸福感につつまれたルーマーの私生活をそのまま反映したような曲で、それを大切に大切にそっとやさしく平穏につづっていく声に魅せられてしまいます。

 

ロブがつくった伴奏サウンドもほんとうにきれい。後者では自身の弾くピアノだけ、前者ではそれに軽いストリング・アンサンブルが付与されているのみっていう、なんともしずやかでおだやかなテクスチャー。それに乗って上質なシルクのようなルーマーの美声が流れていくさまにはためいきしか出ませんね。

 

(written 2022.4.25)

2022/02/20

心おだやかに 〜 比類なきルーマーの『ナッシュヴィル・ティアーズ』

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(3 min read)

 

Rumer / Nashville Tears
https://open.spotify.com/album/14rdSyKf6e1XzE157DlHyo?si=mFSijf_FRPW7ixQxZlyFXg

 

大好きルーマーの2020年作『ナッシュヴィル・ティアーズ』のことは、その年にすぐ聴いて感想を書きブログにも上げました。カレン・カーペンターとかノラ・ジョーンズとかのファンでしたら、ルーマーも一聴の価値ありですよ。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2020/10/post-4b7b3d.html

 

この『ナッシュヴィル・ティアーズ』を、近ごろまたふたたびどんどん聴きなおすようになっています。リリース当時いいねと思ってかなり聴きましたが、また違った意味でよりいっそう沁みるようになってきているんです。

 

きっかけは正月にレトロ・ポップスの記事とオーガニック・ミュージックの記事を書いたこと。そういう方向を自分で明確に意識するようになってみると、ルーマーは、もちろん前からそんな趣向がありはしたものの『ナッシュヴィル・ティアーズ』はこれまたいっそうそうじゃないかと強く感じるようになりました。

 

くわえて大きなことだったのは、3曲目「オクラホマ・ストレイ」が傷を負った野良猫と心を通いあわせる人間とのつらく悲しい出会いと別れのストーリーだと知ったこと。ある晩なんか聴きながら泣いちゃいました。ほんとうにハートブレイキングな一曲。

 

淡々と静かに弾かれるアクースティック・ギターだけの伴奏ではじまって、しばらくするとペダル・スティールとかフィドルとか(薄いドラムスとか)もからみはじめるんですけど、その上でやさしくそっとおいていくように、静かにことばをつづっていくルーマーのヴォーカルによって、悲痛がいっそう胸に迫ってきます。

 

続く4「ブリスルコーン・パイン」の切な系メロディも、この歌手の端正で美しい声で歌われてこそ沁みるし、15「ハーフ・ザ・ムーン」出だしのアクギ・カッティングとマンドリンのからみの美しさとか、16「ネヴァー・アライヴ」はピアノ一台だけの伴奏でたたずんでいるおだやかな様子とか。

 

アルバム全編とことん<オーガニック>ということにこだわったサウンド・メイクも、いまのこの2020年代にこれ以上のプロデュースとサウンド・メイクはないなぁと言い切りたいほどすばらしい絶品です。

 

電子楽器はいっさいなし、電気だってベースと(一部の)ギターだけで、それも控えめ。徹底的にアクースティックな人力生演奏で組み立てたのは、とりあげられているのがすべてヒュー・プレストウッドというポップ・カントリー系ソングライターのブックであるということも関係あるんでしょうし、ルーマーの資質も考慮に入れてのことでしょう。

 

仕上がりは決してカントリーっぽいサウンドにはならず、しっとりと湿っていてしかもやわらかくおだやかな情緒を感じさせるルーマーのこの比類なき美声こそ、人間味あふれるプレストウッドの世界を歌うにふさわしい最高のものだと実感します。

 

(written 2022.1.16)

2022/01/03

レトロ・ポップス流行の現代だからこそ聴くアメリカ史上No.1スタンダード・シンガー、パティ・ペイジ on YouTube

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(6 min read)

 

1) I've Got It Bad & That Ain't Good
https://www.youtube.com/watch?v=YokgbKVHP9o

 

2) Don't Get Around Much Anymore
https://www.youtube.com/watch?v=Ijz2Yon3JmI

 

3) Do Nothin' Till You Hear From Me
https://www.youtube.com/watch?v=AqsD9yry1E8

 

4) I Let A Song Go Out Of My Heart
https://www.youtube.com/watch?v=UAMc80rGz0k

 

5) I Only Have Eyes For You
https://www.youtube.com/watch?v=LiUTx_v7VY0

 

6) Stars Fell On Alabama
https://www.youtube.com/watch?v=KoDnijZOiLg

 

7) I'll String Along With You
https://www.youtube.com/watch?v=cjWlDkgbKow

 

8) Everyday
https://www.youtube.com/watch?v=RyraebtNO_o

 

9) Everything I Have Is Yours
https://www.youtube.com/watch?v=ec6Wfocp45E

 

10) Don't Blame Me
https://www.youtube.com/watch?v=TY-P7Xf-ac4

 

11) A Ghost Of A Chance
https://www.youtube.com/watch?v=hzl6dDTgHvQ

 

12) We Just Couldn't Say Goodbye
https://www.youtube.com/watch?v=XV0kSKNMmn8

 

アメリカ人歌手、パティ・ペイジのディスコロヒア盤CD『ニッポン人が愛したパティ・ペイジ』(2014)をエル・スールで買ったときだけ付属する特典CD-Rがありました。パティが1950年代に録音したジャズ系スタンダードばかり12曲集めた計36分間で、題して『パティ・シングズ・スタンダード』。

 

これがもう好きで好きでたまらないんだという話は以前一度書きましたね。憶えていらっしゃるかたもおいでかと思います。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/09/hats-off-to-pat.html

 

CD『ニッポン人が愛したパティ・ペイジ』もエル・スールでいまだ在庫あり状態なので、もしその気がおありのかたはお買い求めいただければ『パティ・シングズ・スタンダード』が付いてきます。ぼくはエル・スールとなんら利害関係のない一般顧客ですけれど。
http://elsurrecords.com/patti-page-/13/04/2014/

 

とにかく、パティがよく歌ったワルツ・ナンバーが多い『ニッポン人が愛したパティ・ペイジ』本体よりも、付属品のスタンダード曲集『パティ・シングズ・スタンダード』のほうがはるかに大好きで、ふだん聴き慣れているスタンダードだからこそ、パティのうまさ、持ち味がかえってよくわかるんじゃないかとすら思うんです。

 

もちろん個人的なグレイト・アメリカン・ソングブック系スタンダード・ソング愛好癖も手伝っての判断ではあります。それで、大問題は1950年代のマーキュリー・レーベル時代にパティが歌ったその手のスタンダードは、いまだどれ一曲としてCDでも配信でも正式リイシューされていないという事実。なんてこった!

 

非売品の私家版である『パティ・シングズ・スタンダード』の12曲をMusicアプリ(旧名iTunes)に入れ日常的に愛聴しているぼくは、ここまですばらしいんだからぜひみなさんとシェアしたいと考え、SpotifyやApple Musicでさがしたんですけど、ほんとうにどれもまったく見つからず。だからプレイリストをつくることができませんでした。悔しかった。

 

でもそういうときは<なんでもある>YouTubeの出番。さがしたら、なんとやはり、ぜんぶある!あるじゃないですか。CD-R『パティ・シングズ・スタンダード』の曲順どおり、一曲づつ拾っていってリストアップして、上にリンクをご紹介しておきました。

 

これらを聴けばですね、ひょっとしてパティ・ペイジこそアメリカン・ミュージック史上 No.1のジャズ系スタンダード・ソング・シンガーだったのかも?と思えてきますよ。コンピューター補正のない時代に音程はパーフェクト、デューク・エリントンがもとは器楽曲として書いたメロディ・ラインも<歌として>イキイキと歌いこなします。

 

発音がハキハキしていて明快で、ディクションもアーティキュレイションも完璧。声もきれいによく伸びているし、しかもジャズ歌手にはありがちの技巧的なフェイクはなし、ストレート&ナイーヴに曲の旋律を歌い、それでいてまぎれもなくパティだという個性が声質からしっかり聴きとれるっていう、こんな歌手、ほかにいましたっけ?

 

個人的愛好もさることながら、2022年にいま改めてパティ・ペイジのこういったジャズ系スタンダードに注目したいと思うのは、近年ジャジーなレトロ・ポップスが流行しているからです。そんな記事をこないだ書いたからこそ、それきっかけで『パティ・シングズ・スタンダード』のことを思い出したんですから。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/12/post-b45f60.html

 

パティのこういった歌もやはり<ロック台頭前夜>というような世界で、しかもこのストレート&ナイーヴなヴォーカル・スタイルが、現代のレトロ・ポップス流行時代に映えると思うんですよね。レトロ・ポップス・ブームのさなかにいる新世代歌手たちが参照しているのが、パティ・ペイジ(やドリス・デイやナット・キング・コールら)あたりじゃないかと。

 

パティが歌った1950年代には、こういったレパートリーやスタイルはレトロなものではなく、まだ新しいものとして時代の流行のさなかというか、ちょうど爛熟期。さらに電気・電子楽器やコンピューターも多重録音も一般的ではなく、だからいまでいういわゆる<オーガニック>・サウンドでもありました。

 

そんな時代に、パティ・ペイジは歌のうまさでひときわピカイチでした。タイムレスな音楽でもあるし、レトロ&オーガニックへの視線が最新流行であるような2020年代に、いま一度じっくり聴きかえしてみる価値のある歌手だと思います。

 

(2021.12.26)

2022/01/02

音楽におけるオーガニック

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(9 min read)

 

以前ホットディスクさんに、音楽で「オーガニック」という表現をしているひとはなにを言っているのか意味がさっぱりわからないのである、と言われたことがありましたねえ。でもぼくはかなり頻用します。

 

もとは農業用語で、化学肥料や農薬とかを使わず有機農法で育てる手法や産品、化学添加物を加えない食品などを指すもの。オーガニック・コットン100%みたいな言いかたをしますよね。

 

音楽の世界では、最初たぶんソウル・ミュージックでのタームとして、それも日本限定で、使われはじめたんじゃないかと思います。オーガニック・ソウルという表現が、約20年以上前からあったはずです。

 

それはニュー・クラシック・ソウル(死語?)にとって代わる用語として、ディアンジェロ、ジル・スコット、エリカ・バドゥ、アンジー・ストーン、レディシらが活躍しはじめた1990年代末ごろに考案されたもの。だからつまり、なんのことはない英語圏で言う「ネオ・ソウル」のことを日本独自でオーガニック・ソウルと呼んでいただけの話です。

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同じころ、ハワイのサーファー、ジャック・ジョンスンのやるアクースティックなヒーリング・ミュージックもオーガニックと呼ばれることが増えて、だから21世紀に入る前後あたりに複数の音楽ジャンルで「オーガニック」のブームというか用語の頻用が起きるようになりました。

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もとが農業用語ですからね、だから音楽でオーガニックと言われても、という意見は理解できないわけでもないのですが、なかなかどうして重宝するタームではあるのです。

 

なにぶん皮膚感覚的な用法で、わからないかたをロジカルに説得できるようなものじゃありませんし、定義もありません。ですが、農業のオーガニックとまったく無関係というわけでもなかったような気がします。

 

オーガニック、すなわち有機栽培やノー添加物の食品が重視されるようになったのは、地球環境問題への関心が深まった1990年代後半ごろからだったと記憶していますが、連動するようにスローライフやロハスといった自然に優しいライフ・スタイルが取り沙汰されるようになって、音楽界でも傾向が変化しはじめたのです。

 

1980年代後半〜90年代いっぱいに流行した音楽といえば、打ち込み、サンプリング、プログラミングを駆使しふんだんなデジタル処理をほどこしたコンピューター・サウンドが中心でした。ナチュラル・ライフが重視されるようになったことで、そんな人工的で機械的な音楽から脱却し、自然派の音楽をつくりだそうという流れが出てきました。

 

あるいは、主にロック界を中心に1990年代初頭からMTVアンプラグド・ブームがあって、10年以上大流行したというのも、オーガニック・サウンドの先駆けというか遠因だったのかもしれません。フル・エレキ・サウンドで大活躍していたロッカーたちがアクースティックなライヴをやってアルバムを出すようになっていたのは、ロックの原点回帰でもあったんですが、音楽界全体への波及効果も大きかったような気がします。

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21世紀音楽におけるそんな流れをひとくくりにして「オーガニック」と呼んでいるわけです。端的に言えば:

 

・コンピューター・プログラミングではなく人力の「演奏」行為の重視
・生(アクースティック)楽器を中心的に使うこと
・デジタルな音加工を極力排すること

 

この三点が典型的な特徴です。

 

けばけばしいエレキ・ギターや分厚いデジタル・シンセサイザーのサウンドが敬遠されがちになり、アクースティックなギターやピアノ、オルガン、さらにはベースなんかでもアップライト型のコントラバスのサウンドがエレベより「いまふう」に響いてカッコいい(個人的によくわかる)っていうんで、いまふたたび使われるようになっています。

 

ジャック・ジョンスンは

 

「生楽器を使ったシンプルなサウンドにする」
「多重録音は極力しない」
「エフェクターや電子楽器はできるかぎり使わない」

 

といったことにこだわり音楽をつくることを宣言していました。この理念こそがオーガニック・ミュージックの概念だったと言えます。

 

サーフ・ミュージック、ソウルなどブラック・ミュージック、ジャズ、J-POP、ワールド・ミュージックなど、音楽のジャンルを問わず、こんな傾向が21世紀以後は拡大して、現在まで続いているというのは間違いないことでしょう。

 

ヒップ・ホップ通過後の現代ジャズでも、Us3やグールーなど1990年代は打ち込みでつくりだしていた新感覚ビートを、21世紀以後は人力生演奏で表現できるドラマーがどんどん出てくるようになり、オール・アクースティックな楽器演奏とラップを混ぜたりする新世代ジャズが誕生してすっかりシーンの主流になっていますよね。

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電気・電子楽器を使わずデジタル処理も多重録音もほどこさないアクースティックな生演奏行為の重視と言われれば、な〜んだ、そんなもん、もともと音楽なんてむかしはぜんぶそうだったじゃないか!と指摘されるでしょう。そう、そうです、そんな過去への回帰というか、きのう書いたレトロ・ポップ・ムーヴメントとも軌を一にするようにオーガニック・サウンドも流行しているという面があります。

 

農産品だって、化学肥料や化学添加物が発明されるようになる前までのずっと長いあいだ、人類は天然の原料や手法だけで栽培していたわけですから、近代前の何万何千年という歴史で農業はず〜っと(非効率だったけど)オーガニックでした。音楽も同じです。

 

もちろん、21世紀になっての音楽の新しい流れをオーガニックと呼ぶものの、むかしそのままの音楽をそう言わないのは、デジタル・サウンドやコンピューター活用をいったん経験して通過したからこその新感覚がそこにあるから、ということです。

 

人力演奏にこだわると、複数の演奏ミュージシャンを起用してスタジオなりで拘束しないといけないわけですから、多くのパートをワン・マン打ち込みで済ませることのできるばあいよりコストがかさむというのは事実。

 

それに、デジタル排除といっても最低限のコンピューター処理はどんなオーガニック・ミュージックだってやっていますし、(ヴィンテージ・アナログにこだわっているケースを除き)スタジオ機材だって現在はオール・デジタルで、生演奏だってストレージに電子ファイルで記録されていきます。磁気テープを使うというエンジニアはもうほぼいないでしょう。

 

新時代のオーガニック・ミュージックも、パソコンやスマートフォンなどのデジタル・ディバイス経由でみんなに拡散されたり、インターネットを介したダウンロードやストリーミングで聴かれたりするわけですからね。

 

裏返せば、21世紀以後はそういう時代で、冷蔵庫や炊飯器など日用家電品だってぜんぶICチップが入っていて、デジタル・ネイティヴ世代(20代以下)が活躍するようになっているからこそ、アナログ感やヴィンテージ・サウンド、アクースティック楽器、人力生演奏などに新鮮な魅力を見いだす傾向が生まれてきたのだとみることもできます。

 

一方でEDMとか現代R&Bとかアマピアノみたいにコンピュターをフル活用したエレクトロ・ミュージックだって、もちろん隆盛ですけどね。

 

(written 2021.12.19)

2022/01/01

ジャジーなレトロ・ポップスが、いまドープ ver.1.0

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(7 min read)

 

日本のいわゆるZ世代(20代なかば以下)のあいだに「昭和」ブームがあるみたい。こどものころからスマートフォンなどのデジタル機器とインターネットがあたりまえにあったみんなは、アナログ・レコード、昭和歌謡、純喫茶、銭湯などに懐かしさではなくいま初めて出会う新鮮なカッコよさを感じているようです。

 

世界のポピュラー音楽シーンだと、そんな復古ブームがヒップ・ホップはもちろんロックすら飛び越えて、1950年代中期より前のジャズ時代へと向かうようになっています。ここ数年かな、もうすっかり定着したムーヴメントになりました。

 

このことはだれに教わったわけでもなく、近年リリースされる新作アルバムのなかにそうした傾向を示すものがあきらかに増加中なので、自然に気がつくようになりました。はっきりしてきたのはここ二、三年、2019年ごろからですかね。

 

このブログにパソコンでアクセスすれば右サイド・バー下部に検索窓が出ますので、そこに「レトロ」とか「ヴィンテージ」とかひとこと入れてボタンを押してみてください。該当する過去記事が一覧表示されます。

 

自分でもそうやってもう一回確認したここ数年のジャジーなレトロ・ポップス・ムーヴメント、すでにとりあげたなかからあてはまるアルバムの具体例をリリース順にちょこっと列挙してみましょう。

 

・原田知世 / 恋愛小説2〜若葉のころ(2016)
・孙露 / 十大华语金曲 (2017)
・Samantha Sidley / Interior Person (2019)
・Davina and the Vagabonds / Sugar Drops (2019)
・Kat Edmonson / Dreamers Do (2020)
・Hailey Tuck / Coquette (2020)
・NonaRia / Sampul Surat Nonaria (2020)
・Laufey / Typical of Me (2021)
・Miss Tess / Parlor Sounds (2021)
・メグ&ドリンキン・ホッピーズ / シャバダ・スウィング・トーキョー (2021)
(すべてSpotifyなどサブスクで聴けます)

 

ほかにもたくさんありますが、参考までに近年のこうしたジャジー・レトロ・ポップ歌手たちの音楽的傾向をぼくなりに分析して箇条書きで11個にまとめてみました。

 

1)ロック・ミュージック勃興前の時代への眼差し

2)知世54歳、ダヴィーナ42歳のほかは全員30代以下の新世代

3)ヴィンテージなアナログ感志向

4)電気・電子楽器を基本使わず、アクースティックな少人数編成でのオーガニックな生演奏

5)ジャズ、それもモダン・ジャズ以前、1930〜50年代ふうのスウィング・スタイル

6) 2ビート、4ビート

7)有名曲でも自作でも、グレイト・アメリカン・ソングブック系

8)おおがかりでない、ちょっとした応接間でやって楽しんでいるようなこじんまりした親近感、等身大

9)感情をあらわにしない、おだやかに抑制された表現

10)ときどきかすかにブルージーだったり、ほんのりラテン・ビート香味がまぶされていたりも

11)なぜかみんな女性歌手だ

 

中澤卓也など日本のいわゆる演歌第七世代なんかもやや共通する特色を示しているかなと感じるんですが、こうした新世代歌手たち最大の特色は、アット・ホームな親しみやすさ、近づきやすさです。

 

2010年代以後のソーシャル・メディア世代で、みずからアカウントを持ち、積極的に日常や仕事関係を発信していることが多いんですね。だからファンとの距離感が近いというキャラクターでもあります。

 

時代をさかのぼってこうしたジャジーでファミリアーなレトロ・ポップスの源流をたぐってみると、どうもノラ・ジョーンズが『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』でデビューした2002年あたりまでたどりつくんじゃないでしょうか。

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その数年前にジャネット・クラインがデビューしていますが、この歌手もジャジーでレトロなパーラー・ミュージックを最初からずっと志向していたのでした。ジャネットのときに流れができず、ノラでムーヴメントになったのは、ブルー・ノートが大きく展開したからか、時代とシーンが追いついたせいか。

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ノラはヒップ・ホップ通過後の新感覚を身につけたジャズ新世代の先駆けでもあったわけですが、と同時にレトロ・ポップなフィーリングをも存分に発揮していたことは、『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』とか続く数作をいま聴きかえしてもわかること。後者があまり言われないのは、顕在化したのが早くみても2011年ごろからだったためでしょう。

 

2011年といえば、ダヴィーナ&ザ・ヴァガボンズの『ブラック・クラウド』が出ています。事実上のデビュー・アルバムで、20世紀初頭のニュー・オーリンズ・ジャズっぽいテイストで満たされていました。あのときぼくはずいぶん快哉を叫んだものですが、2020年代になってここまでの大きな流れになっていくことにはもちろん気づいていませんでした。

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快哉を叫んだというのは、そう、個人的にはいまから40年ほど前の大学生のころから、1920〜40年代に録音されたSP盤を復刻したLPレコードで聴く古いジャズ・ポップス、つまりディキシーとかスウィング系のものが大好きで、ずっといままで愛好してきた人間だからです。生まれるのが遅すぎたと思い続けてきただけに、近年のこのレトロ・ジャズ・ブームは「時代が来た」との感を強くするもの。

 

もちろん流行とはぜんぜん無関係にそういう音楽がずっと好きで聴いてきているわけで、だからたまたま偶然2020年代は時流と嗜好が合致しているというだけ。なので、このブームが終焉してもぼくのレトロ・ジャズ愛は変わることなくずっとこのまま死ぬまで続いていくものです。

 

おおざっぱに言って「ジャズ(的なもの)」がここまで大きなコンテンポラリー・ムーヴメントになるとは、世紀の変わり目あたりにはまったく想像していませんでした。

 

(written 2021.12.17)

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