カテゴリー「レトロ・ポップス」の51件の記事

2023/01/15

こういうのが好き!〜 レイチュル&ヴィルリー

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(3 min read)

 

Rachael & Vilray / I Love A Love Song!
https://open.spotify.com/album/0j551HTufOYW6EJ9CQwNrD?si=fncdmoGxTBSbFUVOYSN53Q

 

萩原健太さん(経由の能地祐子さんにも)に教わりました。
https://kenta45rpm.com/2023/01/13/i-love-a-love-song-rachael-vilray/

 

金曜日お昼に知って以来もうすっかりこればっかのヘヴィ・ローテイション。三日間で20回は聴いたな。正直ゾッコンで、これだよこれ、こういうのがぼくの好きな音楽なんだ、待ってました!と快哉を叫ぶ内容のレイチュル&ヴィルリー新作アルバム『アイ・ラヴ・ア・ラヴ・ソング!』(2023)。

 

そう、これ2023年のニュー・リリースなんですよね。それでもってなんともレトロで、ロック勃興前の1930〜40年代を意識したスウィング・ジャズなポップス一直線。とうとうぼくみたいな嗜好の人間にとって「いまだっ!」っていう時代が到来したのかなあ〜。無性にうれしい。

 

まだ一月なのに2023年間ベスト1はこれにしたいっと思うほどなんですが、ヴィルリーというソングライター&ギターリストは初耳でした。レイチュルとは以前書いたレイク・ストリート・ダイヴのレイチュル・プライスそのひと。いやあ、ここまでノスタルジア・ジャズ向きとはねえ。幼いころはドリス・デイになりたかったらしいです。

 

12「Goodnight My Love」だけがカヴァーで、ほかはどれもヴィルリーの筆になるオリジナル・ソング。それがどこからどう聴いてもレトロ路線まっしぐら。ティン・パン・アリーの時代にテレポートしたような感覚横溢なんですが、これどうなってんの。21世紀にこんなソングライターいたんだね。ヴォーカルも取ります。

 

レイチュルのまろやかでセクシーな声もいいし、そもそもヴィルリーの書くものには難曲も多いのに、歌いこなしが天才的にスムースで、最初からこれを歌うために生まれてきたんだみたいなナチュラルなたたずまいなのがすばらしい。

 

伴奏はたぶん九人編成くらいのサウンドですねこれ。リズム四人+ホーン五管くらいかな。それもサロンふうで、まさしくレトロ・コンテンポラリー。サックスとクラリネットのジェイコブ・ジマーマンがアレンジもやっていて、なんだかビッグ・バンドみたいになめらかリッチでふくよかに香るっていうのもマジック。

 

歌詞はけっこうねじれていてユーモアに富みアイロニカルだと、それもあってアメリカ人ファンはこの音楽が好きなんだと、いう話も読みますが、個人的にはそこにあまり耳を傾けておらず、ただただおおむかしのハリウッド・サウンドみたいなメロディ・ラインとサウンド、そしてゴージャスでありかつアット・ホームなメロウ・アトモスフィアに酔っているだけであります。

 

なお「レイチュル&ヴィルリー」という表記は、公式アカウントのプロフに発音ガイドが載っているので従いました。
https://www.instagram.com/rachaelandvilray/

 

(written 2023.1.15)

2023/01/07

軽いBGMとして聴きたいレトロ・ポップス 〜 サラ・カン

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(2 min read)

 

Sarah Kang / how i remember
https://open.spotify.com/album/01NnWmqdwaZPdIzU5elnOS?si=TPMsd3SUQKmndHk-Kyuvyg

 

こないだなにかのプレイリストを流していて耳を惹いた韓国人シンガー、サラ・カン。そのとき聴こえてきたのは「about time」で、これがレトロ・ジャジーで完璧な好みだけど、と思いたぐって、最新作『how i remember』(2022)にたどりつきました。

 

アルバム全体では、レトロといってもオーガニックではなく打ち込みとデジタル・シンセを多用していますけど、ソングライティングがむかしふうにジャジーだしスウィートでメロウなヴォーカルもそう。ビートやサウンド・メイク(とアルバム・ジャケット)はロー・ファイっぽいですね。

 

そもそもロー・ファイってレトロ指向な音楽なわけで、 サラの本作も随所でアナログ・レコードを再生するときのパチパチっていう針音ノイズがわざとミックスされていたりするし、そういう装いで聴かせる音楽だっていうのがよくわかり、ぼくの好みにピッタリ合うんですよね。

 

「about time」は完璧な1930年代のスウィング・ジャズ・ポップスを意識した2/4拍子ですし、そのほかの曲もどこまでもレトロ。バック・イン・タイムっていうか、こういうのがいま流行だからそれに乗ってちょっとやってみただけの音楽家かもですけどね。『how i remember』っていうアルバム題もほんのりレトロ趣味に言及しています。

 

曲はサラも参加している共作が多く、トラックリストのところに載っているコラボ・ネームを見るとどうも日本人っぽいつづりのローマ字もあります。多くの曲がそうした共作でできあがっていますが、サラの名しか記載がないものはひとりでトラック・メイクもやっている模様。

 

音量をさほど上げず、室内でなにかをしながらの軽いBGMとして流していればいい雰囲気で、そういう接しかたをするもんですよ、ロー・ファイとかレトロ・ポップスって。

 

(written 2022.12.24)

2023/01/02

ぼくの『ゲッツ/ジルベルト』愛を言明できる時代にようやくなった

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(3 min read)

 

João Gilberto, Stan Getz / Getz / Gilberto
https://open.spotify.com/album/2W6Hvrtg2Zpc9dW4aBDbdP?si=ZSkUsEjaT-mV3LIcvq3S7w

 

それで、これもレイヴェイが好きだということで、ただそれだけの理由(だけでもないんだけどほんとは)で、聴きなおし見なおすようになったジョアン・ジルベルト&スタン・ゲッツの『ゲッツ/ジルベルト』(1964)が、なんだかんだいってやっぱいいよね。

 

このブログでも以前はボロカス書いてしまいましたが、この手の音楽がまさかここまで復権してくるとはねえ、そのころ想像していませんでした。迂闊にものは言えないもんです。ちょっと前その記事にアクセスが多かったのはそういうことだったんですね。

 

レイヴェイも「プラ・マシュカ・メウ・コラソン」を選んでいたし、じっさいこういったあたりの、決してハードにスウィングもしない、おだやかに静かにそっとやさしく中低音域でささやきかけてくるような雰囲気を持った音楽こそ、現行レトロ・ジャズ・ポップス・シーンのというかレイヴェイ・ミュージックの主源流。

 

ですから「ドラリス」なんかもいいし「デザフィナード」(は「デサフィナード」が標準表記だけどジョアンの歌で発音を聴いてみて)もすばらしいです。さほどスウィンギーじゃなくじっとたたずんでいるような陰キャ・ムードがいいので、「イパネマの娘」「ソ・ダンソ・サンバ」あたりはそうでもありません。

 

サロン・ミュージックふうの密室性と広がりを同時に香らせている録音というか音響も実にいまっぽく、レイヴェイなんかそのへんまで本アルバムからコピーしているんじゃないかと思うほど。そしてムーディでおしゃれですし。

 

自室や雰囲気のいいカフェでラテやカプチーノを楽しんでいるときに聴くにはこれ以上なくピッタリくる音楽で、骨がないとかガツンとこないとかブラジル音楽がわかっていないとかいままでさんざん言われてきて、ぼくもちょっとそう思っていましたけど、いまとなってはすべて手のひら返したい気分。

 

『ゲッツ/ジルベルト』はきれいで良質な音楽ですよ。「ホンモノ」のボサ・ノーヴァ、ブラジル音楽じゃないかもしれませんけど、これはムーディでちょっとおしゃれな雰囲気のいいジャズ・ポップスですから。そこにボサ・ノーヴァ・インフルーエンストな要素が混ぜ込まれているだけの。

 

(written 2022.12.14)

2022/12/31

世間でいうレトロ・ポップスとぼくの好きなレトロ・ポップスは違う

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Retro Pop
https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DXcTieYAg7jq1?si=4098e2c3ce954e96

 

上の写真はSpotify公式のレトロ・ポップ・プレイリスト。聴いてみてわかるのは、こうした近ごろ流行りの世間でいうレトロ・ポップスと、ぼくが好きでブログでどんどん書いているレトロ・ポップスにはズレがあるということ。

 

世間でいうレトロ・ポップスとは要するにレトロR&Bのことなんですよね。特に1980年代ものかな、そのへんのR&Bを意識した音楽で、世紀の変わり目ごろからのネオ・ソウル隆盛が70年代ニュー・ソウルの復権運動だった(デジタル打ち込み主流音楽への反動もあり)のに比べ、そこからさらに時代が進んだところへのあこがれの眼差しということです。

 

それでも上の画像どおりジャケットのふちの紙がこすれてかすれたようなデザインに配信だけどわざわざなっているのでもわかるように、たしかに過去への、アナログ時代への、それも中古レコード盤で聴くような世界への回帰というか、いまふうのリバース(rebirth)現象なんです、レトロR&Bも。

 

そのあたり当時のR&BにもレトロR&Bにもそんなには強い愛好気分のないぼくが心底大好きでどんどん記事にしている「レトロ・ポップス」は、ちょっと別なもの。ぼくのいうレトロ・ポップスとは、つまりレトロ・ジャズのことです。1920〜50年代前半的な、ディキシーランド・ジャズ、スウィング・ジャズ時代への遡及を聴かせる現代ポップ歌手たちこそが好み。

 

具体名をあげればレイヴェイ、ダヴィーナ&ザ・ヴァガボンズ、サマーラ・ジョイ、ルーマー(の主な素材は70年代ものだけど)、サマンサ・シドリー、エマ・スミス、メグ(民謡クルセイダーズ)、キャット・エドモンスン、ヘイリー・タック、ノナーリア(インドネシア)など。

 

共通しているのはロックンロール・ビッグ・バンがあったその前の時代へのレトロ現象だってこと。だからロックともR&Bとも縁がなく、爛熟黄金時代だったジャズやそれ系ポップスの曲や演唱スタイルをひたすらなぞって21世紀に再現しているわけです。そういったいまどきの音楽こそ好きなんです。

 

そうしたレトロ・ジャズ・ポップスとはどういった音楽で、21世紀に誕生し隆盛になっている理由や背景とか、個人的にどこがどんなふうに好きかなど、いままでも散々書いてきたことなので、過去記事をぜひお読みください。このへんとか↓

 

「ジャジーなレトロ・ポップスが、いまドープ ver.1.0」
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/12/post-b45f60.html

 

あるいはこれ↓

「ジャズにおけるレトロ・トレンドとはなにか」
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2022/09/post-7d3478.html

 

きょう一番上でご紹介したSpotifyの「Retro Pop」プレイリストはレトロR&Bのセレクションなんですけど、それでも一曲レイヴェイが選ばれたりもしていますし、そのほかにもぼくの趣味にあうレトロ・ジャジーなものがちょこちょこふくまれています。

 

そのあたりきっちり区別しすぎず、過去へのあこがれと遡及を聴かせるコンテンポラリー・ポップスをおおざっぱにくくって「レトロ」と呼んでいるのがこのごろの傾向なのかもしれないですね。いずれにしても若者に特有の気分で、日本でだってZ世代に昭和レトロが流行しているのは同一基軸の現象なんですね。

 

(written 2022.12.17)

2022/12/29

リズム&ブルーズ/ポップ・クラシックスへのレトロなオマージュ 〜 レイク・ストリート・ダイヴ

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Lake Street Dive / The Fun Machine: The Sequel
https://open.spotify.com/album/5O41WrYns4BBDOtvVx1JFM?si=c1BLik8mTtq_kt451aTtgg

 

あるときふと流れてきた「ソー・ファー・アウェイ」(キャロル・キング)に惹きつけられ、知っている既存ヴァージョンのどれでもないし…、と思って見てみたらレイク・ストリート・ダイヴとの名前。はじめて出会いました。

 

調べてみたらボストン出身で、そこそこキャリアを積んだ名のあるバンドみたいです。その「ソー・ファー・アウェイ」はアルバム『The Fun Machine: The Sequel』(2022)に収録。ジャケット・デザインでも暗示されているとおり往年の有名ポップ・ソングのカヴァー集で、選曲も音楽性もちょっぴりレトロ。

 

全六曲、オリジナル歌手を記載しておきます↓

1 ポインター・シスターズ
2 ディオンヌ・ワーウィック
3 シャニア・トゥウェイン
4 キャロル・キング
5 ボニー・レイト
6 クランベリーズ

 

レイク・ストリート・ダイヴはフロントで歌うレイチェル・プライスのソウルフルでちょっぴり気だるそうなレイジーなヴォーカルがなんともチャーミングで、といっても男声がリード・ヴォーカルをとっている曲もあります。サウンドはメンバーの生演奏で構成されていますね。

 

個人的に特に強く印象に残ったのは、ですから4「ソー・ファー・アウェイ」(パラパラと点描するエレキ・ギターもいい)と、1「オートマティック」、それから3「ユア・スティル・ザ・ワン」(男声ヴォーカル)あたり。三つ目の曲知らないなと思って調べてみたら、ポップ・カントリーの歌みたいですよ。

 

シンプルでなんでもないようなバンドの演奏も、しっかりした技術に裏打ちされているうまいもの。レイチェルのコクのある声と歌いこなしにはそこはかとなくセクシーさもただよっているし、コーラス・ワークだってチャーミングで、曲次第ですけど今作は古典的リズム&ブルーズ/ポップへのレトロなオマージュということで。

 

(written 2022.12.25)

2022/12/24

エマ・スミスのレトロ・ジャジーなクリスマスもいいね

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Emma Smith / Snowbound
https://open.spotify.com/album/0ExyRBD1gjGW2OUeKYecrJ?si=TXWDrro1QvqyxF22ROEwSw

 

以前一度書いたロンドンのレトロ・ジャジーなポップ歌手、エマ・スミス。最新EP『スノウバウンド』(2022)はクリスマス・ソング集です。リリースがちょっと遅かったっていうか、今年のぶんはもうレイヴェイので書いちゃったけど、エマのこれも楽しい内容なのでスルーできず。軽く触れておきます。

 

全五曲、いずれもよく知られたスタンダードな古典的クリスマス・ソングで、日本でも親しまれてきたものが多いです。エマの本作でのレンディションは基本オーソドックスなメインストリーム・ジャズのスタイルに沿ったものですが、ところどころハッとさせるおもしろさがあり。

 

オルガン・トリオ+テナー・サックスという典型的モダン・ジャズ・コンボを伴奏につけていて、オープニングのおなじみ「赤鼻のトナカイ」はなんとファンク・チューンに変貌していますからね。かなりタイトでカッコいい。エマってこういうのもできる歌手なんだと知りました。

 

2曲目以降はジャジー&かなりブルージーに。サックスとハモンド・オルガンのムーディなサウンドが目立っている内容で、エマも雰囲気たっぷり。ナイト・ムードなバラード二曲、スキャットをまじえながら4/4ビートでスウィングするストレート・ジャズ、三拍子12小節3コードのブルーズ。

 

(written 2022.12.21)

2022/12/11

これまたレトロ・ジャズ・シンガーの新星 〜 ヘイリー・ブリネル

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Top Tracks for Hailey Brinnel
https://open.spotify.com/playlist/5pxcmYsW6Xn1SmQsx1WmMo?si=1f59c442a4cb4290

 

ビートルズの「アイル・フォロー・ザ・サン」をコントラバス一本で歌っているのに偶然出会い、それがチャーミングなので好きになり、検索してどんどん聴くようになったヘイリー・ブリネル。米フィラデルフィアを中心に活動している音楽家みたいです。

 

Spotifyで聴けるものをすべて聴いてみたら、ヘイリーは1920年代ディキシーランド・ジャズのスタイルを(いまどき)フルに実現していて、自身はトロンボーンとヴォーカル。アルバムはまだ一つしかないんですが、シングル単位でサブスクにそこそこあります。

 

公式ホームページがあって、それの「Music」の項で見えた『Top Tracks for Hailey Brinnel』というSpotifyプレイリストがとってもいいんですが、でもそのHP専用ということか自分でさがしても見つけられなかったので、同じになるようにサービス内で作成しなおしたのがいちばん上のリンク。

 

ぜひこれで聴いてみてほしいんですが、いかにヘイリーがレトロ・スタイルの持ち主かってことを。それを2020年代に再現しているからストレートに100年さかのぼった感じですよね。

 

レパートリーも、ビートルズは例外的に新しいほうで、ほかはティン・パン・アリー系のスタンダードや似たような知られざる古い曲ばかり。バック・バンドの演奏だって完璧オールド・スタイルで、ヘイリーの指向を汲んでいるんでしょうね。

 

トロンボーンのほうが本分なのか歌の音程はややあいまい気味だったりするケースも散見されますが、「I’m Forever Blowing Bubbles」(これは唯一のアルバム題にもなっている)後半での展開とか、なんたって「Show Me the Way to Go Home」のオールド・スタイルなすばらしさとか、いずれもダヴィーナ&ザ・ヴァガボンズが出てきた約10年前を連想させる古風なサウンド。

 

ダヴィーナはいま考えたら登場がちょっと早かったというか、こんなにもレトロ・ジャズが時代の潮流になってくる前にシーンに出現したもんだから、あのころは一部好事家のあいだでしか話題になりませんでしたよね。

 

そこいくとヘイリー・ブリネルは時代の流れに乗ってノスタルジーをふりまきながら現れたので、もちろんまだほとんど知られていないという存在ではありますが、このまま順調に活動を続けてほしいと思っています。今後を見守りたい存在。

 

レトロレトロといったって、ポップ・ヴォーカル、歌ものの世界はむかしからそんな大きく変わっているわけじゃなく、ジャジーな生演奏でやるかぎりはずっとこんなスタイルがエヴァーグリーンで来たんだとみることもできますし、いまでも生きる不変の楽しさをヘイリーだって表現しているだけかもしれませんしね。

 

(written 2022.12.6)

2022/11/26

歴史は一方向的に進むとかぎらない

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チャールズ・ダーウィン(とジークムント・フロイト)が20世紀以後の思考に与えた影響って絶大なんですけど、ぼくが生きてきた文学研究や批評などの世界ではポスト・モダニズム(1980〜90年代)あたりでそれら一回読みなおしがなされたものなんですね。

 

科学工業技術ならたしかにこっち向きだけに進化するでしょうけど、音楽をふくむ文化の世界では必ずしもそうではなく、わりとちょくちょく逆流し復古的な動きが出て、それが時代の最新流行みたいになることもあるじゃないですか。

 

ちょっと前のものは古くさくダサいけど、かなり前ならいったん忘れられているせいか奇異で新鮮に感じられるとか。テクノロジーなら刷新されるだけですけど。

 

衣服トレンドの世界でもそういったことは頻繁に起きます。文化現象とは本質的に進化論になじまない世界なんだというのがぼくの考えで、ぼくだけじゃなく文化の歴史全般を冷静にふりかえってみれば、進化ばかりじゃなかった、復古運動はよくあったとわかるし、そもそも「進化」ってなに?!という根源的問いが発生するのはみんな同じであるはず。

 

2010年代以後の日本Z世代における昭和レトロ・ムーヴメントもそうですし、音楽でも昭和歌謡やアナログ・レコードが見なおされる動きは顕著ですよね。そして、なによりこうした流れが顕著だなとぼくが感じるのは、世界のポップス界におけるアクースティック&レトロ志向の大流行です。

 

最新の「コンテンポラリー」・ポップスの世界では、もはやコンピューター打ち込みやシンセサイザーを駆使したデジタル・サウンドは古くさく、おもしろくないもの。アクースティック楽器の生演奏を中心に使っておだやかでジャジーななめらかミュージックをつくりだそうという動きこそ最新トレンドになっていますよね。

 

むろんこれにあてはまらないデジタルなコンテンポラリー・ミュージックもたっくさんあるんですけど、アクースティック志向が「古い」とか「コンテンポラリーじゃない」と言うひとがもしあれば、そのひとのあたまのなかは打ち込み全盛だった1990年代あたりの発想で埋められているのかもしれません。

 

そうすると音楽におけるコンテンポラリーとはなんなのか?わからなくなるというわけで、じっさい古い vs 新しいとか、アップデートでこれが過去のものになるとか、そうした一種の進化論発想では理解できないのが音楽(やその他芸能文化)の世界、歴史だったんじゃないでしょうか。

 

いま、ここ10年くらいかな、1930〜50年代のスウィング・ジャズ時代に範をとったようなちょっとおしゃれ&おだやかでレトロなオーガニック・ポッポスが一大トレンドになっていて、大学生時代からその手の(ぼくが聴いていたのは録音も30年代のヴィンテージものだったけど)音楽が大好きだった身としては、いまそれが復古的にブームになっているのはうれしいかぎりなんですね。

 

いうまでもなく復古的というのはぼく世代の見かたであって、現代の若手歌手音楽家にとっては、いままでリアルタイムでは接してこなかった未知の領域に出会って、おしゃれだおもしろいと感じ惹かれて、自分でもやってみているということなんですから、そうした世代にとっては「新しい世界」の音楽なんです。

 

なもんで、レトロ/コンテンポラリーを二項対立的にとらえる発想は実をいうとよくわかんなくて、いまの時代に現在進行形でファッションになっているものが contemporary ということばの意味なんだから、それならアクースティック&レトロなオーガニック・ポップスこそがいまコンテンポラリーじゃんって言いたくなります。

 

(written 2022.11.5)

2022/10/26

SP針音ノイズはもうレトロ・ポップスでしか聴けない

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(3 min read)

 

ということに実はなってきていて、そんなもんノイズなんかなければないほうがいいじゃないかーっと言われるかもしれないんですけど、あんがいそうでもなかったんですよ〜。ぼくはあのパリパリっていうのが好きでした。SP盤そのものはちょっとしか聴いたことがないけれど、主にリイシューLPで愛していました。

 

あれが消えてなくなったのはすべてコンピューターによるノイズ除去システムが発達したおかげというかせいというか。おかげで1920〜30年代の古い録音だって、近年のリイシューものサウンドはツルツル。

 

サブスクはもちろんCDだって近年のリイシュー盤ではもう聴けなくて、CD時代でも最初のころはまだかなり残っていたような記憶があるんですけど、ですからどんどん聴けたのはLPレコード時代でした。

 

古いSP音源にはマスター・テープなんてありませんから、それをリイシューするのはすべて盤起こし、デジタルなノイズ・リダクション・システムもまだ登場していませんので、レコードをかけてそのまま再録していたわけですよ。そんなLPでたくさんあのノイズが聴けて当時は幸せでした。

 

あのパリパリっていうのはちょっとどこか音楽的でもあって。演唱と一体化していたっていうか、もちろんレコーディング・スタジオでミュージシャンが出すサウンドはクリーンなものだったし、ライヴ現場でもそうですけど、つまりレコード産業こそ20世紀以後は音楽の主役になったあかしみたいなもんでした、あのノイズは。

 

ノイズをコンピューターで除去する処理をやると音楽が痩せるとか、そんなことは考えたことないんですけど個人的には、でもあきらかにフィーリングというかムードは変わっちゃいますよね。音楽で最も大切なのがフィーリングだと思っていますからね、ぼくは。

 

むろんいくら嘆いてみてもあの当時のあのぱりぱり針音サウンドというかつまりフィーリングですけど、それが蘇ってくるわけでもないんで詮ないことです。過去に発売されてぼくも聴いていた当時のレコードをどこかで入手すればまた聴けるのでしょうか。失われた世界。

 

でもごくたまに(きょうびどうしてだか)ノイズ除去されていないSP原盤の音楽がサブスクなんかにも載ることがあります。初期の美空ひばりなどですけど、アメリカ産1930年代スウィング・ジャズなんかでもときどきめぐりあえたりして、そんなときはうれしくて楽しい。

 

最新の現代録音なのにあのノイズをわざと入れているレトロ・ポップスがどのへんの世界を志向しているのか、あきらかですよね。その点ではSP針音ノイズは一度失われ、いまやレトロにやや回帰傾向にあると考えてもいいのでしょうか。いつまで現行レトロ・ブームが続くかわかりませんけど、すくなくともその音はもう今後消されることなどありませんから。

 

(written 2022.10.12)

2022/09/21

ジャズにおけるレトロ・トレンドとはなにか

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(6 min read)

 

ジャズの世界では、新時代のニュー・スタイルが勃興しみんなの話題になったときなぜか同時に古典回顧のノスタルジアも流行するっていう不思議なシンクロ現象がむかしからあります。1940年代のビ・バップ隆盛のときはニュー・オーリンズ・リバイバルがあったし、80年代のフュージョン全盛期にはウィントン・マルサリスら復古派が一大勢力になっていました。

 

2010年代以後現在までだって、ヒップ・ホップ通過後の新世代感覚を身につけた多ジャンル接合的なニュー・エイジ生演奏ジャズが大きな流れとなっているそのわきで、1930〜50年代ふうのプリ・ロック的黄金時代ジャズへのレトロ愛を全面的に打ち出した若手だって確固たるムーヴメントになっています。

 

現在のレトロ・トレンドの中心になっているのはスウィング・ジャズのスタイルで、それも当時主流だったようなビッグ・バンド編成じゃなく室内楽的な少人数編成でやることが多いです。どうしてスウィング・スタイルかっていうと、実はビ・バップってロックンロールと親戚なんですね。そもそも歌ものが映えないしリリカルでもないしっていう。

 

そう、ですから現行レトロ・ジャズ・ブームの中心はあくまで情緒的な歌ものですよ。器楽演奏ジャズでのレトロ志向ってぼくはあまり知りません。ヴォーカルでの復古志向ということで、その伴奏をやる器楽奏者もあわせるようにスタンダードでメインストリームなスタイルをとるようになっているというだけのことです。

 

古いもの、それも自身はリアリティがないはずの70〜80年くらい前のものにあこがれ、追い求め、そんなノスタルジア(っていうのも本来はおかしいんだけど、経験ないんだから、ヴァーチャル・ノスタルジアってことか)をほんとうにリアルな音にして歌ってみたりするっていう、近年のこうしたレトロ・ブームの背景には、ひょっとしたらデジタル・ネイティヴ世代ならではってことがあるのかもなという気がします。

 

以前も書いたしきのうサマーラ・ジョイのときにも触れたんですけど、日本のZ世代に昭和レトロへのあこがれがあるように、ああいったネット常時接続もスマートフォンもなかった、みんながつながっておらず、たがいに適度な距離をおいていた、そういう時代をナマ体験ではいまの若手は知らないわけです。

 

ぼくなんかの世代だと、あんなにも不便で生きづらかった時代にレトロなあこがれを持つなんて、ドウカシテル!って思っちゃうんですけど、なんでもあってすぐそこに手に入り簡単に近づいていけるっていう、そういう世界で生きてきた世代にとっては、かえってほどよい中庸さみたいなのがあって、ちょうどいいフィーリング、羨望の眼差しなのかもしれません。

 

ジャズでいえば、1950年代なかばのロックンロール・ビッグ・バンでアメリカン・ポピュラー・ミュージックの世界で主役が交代したっていうのはなんだかんだいって間違いないし、その後も2022年にいたるまで一度もトップに返り咲いたことなんてないわけです。21世紀になってジャズがもりかえしてきているたって、しょせん主流音楽ではありえませんし。

 

あれ以来ずっと斜陽の黄昏ニッチ音楽、それがジャズ。そうなる前、時代のメイン・スポットライトを浴びていた、爛熟していたジャズ黄金時代へのあこがれとか、ある種の仮想ノスタルジアを持つことがあっても不思議じゃないのかもしれません、若手でも。ぼくだって同時代感覚はありませんが、50年代以前には。

 

音楽はサブスクで聴くというのが中心になっているというのもレトロ・トレンドを後押ししているはず。時代が遠くなるにつれて距離感の濃淡みたいなものができていたのがサブスク普及で消えてなくなって、新しい音楽にも古い音楽にも同じ皿にべたっとフラットに並べて同一に接することができるようになっているでしょ。

 

このことが実はとっても大きいんだと思いますね。レトロ・ジャズ・ブームの中心にいる歌手たちはみんなInstagramをやっているんですが(歌詞のなかに “Instagram” と出てきたりもする)フィードやストーリーをながめていると、だれしもがSpotifyやApple Musicであこがれのナット・キング・コールやチェット・ベイカーや(ヴァーヴ時代の)ビリー・ホリデイなどを聴いているとよくわかります。

 

だから、ネットとスマートフォンがなかった<あの時代>への憧憬といったって、それを味わうためにはそれらデジタル技術を使ってアクセスし投稿もしているわけなんですね。そうした体験をベースにして、みずからも同じような音楽を産み出すようになったっていう。だからやっぱりこれもまた2010年代以後じゃないと存在しえなかったコンテンポラリネスではあるんです。

 

(written 2022.9.19)

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