カテゴリー「レトロ・ポップス」の63件の記事

2023/09/21

1920年代そのままに 〜 サラ・キング

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(2 min read)

 

Sarah King / Tulip or Turnip

https://open.spotify.com/album/7hMNhRWeD2XjjMlwL9okYj?si=2csWJKf8RtO84uT0yCo93g

 

ニュー・ヨークはブルックリンの歌手なんだということ以外なにもわからないサラ・キング。名前をアルファベットで検索すると、ギターかかえてテンガロン・ハットかぶったカントリー歌手が出てきますが、別人だよなあ。ぼくがこないだ偶然出逢ったほうはレトロ・ジャズ歌手だもん。そっちは情報ほぼ皆無で。

 

でもファースト・アルバムらしき『Tulip or Turnip』(2021)はマジいいよ。なにも知らないけど惚れちゃった。ちょっぴりビリー・ホリデイちょっぴりブロッサム・ディアリーみたいなキュートなヴォーカルがいいし、なんたって20sディキシー/30sスウィング時代の知られていない隠れた宝石を、当時のスタイルそのままチャーミングに演奏するバンドも好み。

 

バンドはピアノ・トリオにクラリネットだけっていうシンプルな編成。このカルテットもサラも、おおむかしのジャズが心から大好きなんでしょう、ひたすら追求して2023年に再現しているっていう。レトロが流行りだからちょっとやってみたっていうだけだとここまでできないですよね。

 

とりあげられている曲はデューク・エリントンやティン・パン・アリーのソングライターたちなどが書いた、しかも忘れられてしまった小品ばかり。無知なぼくはなんと本作ぜんぶの曲を知りませんでした。クレジット見るまではオリジナルなんじゃないかと勘違いし、たいしたイミテイションぶりだと、そこに感心していたくらいですから。

 

と思っちゃうくらい、知らない曲+きわまったレトロ・スタイルの徹底ぶりで、古いジャズやジャズ系ポップスがお好きな向きには格好にかわいくキュートでチャーミングな一作。8曲目なんか必然性がないのにガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」をクラリネットがイントロで引用しているほどで、要するにあの曲が発表されたあの時代(1924年)のムードがそのままここに活きています。

 

(written 2023.5.14)

2023/08/06

パーセノープの歌う「ドント・ノウ・ワイ」(ノラ・ジョーンズ)がいい

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parthenope / Don’t Know Why

https://open.spotify.com/album/6Z5D4WKSkDUSxBX3xtSOgL?si=qoIXj2fqTGiU5agtiABhxw

 

この歌手名、なんと読むんでしょうparthenope。パーセノープかな、わからないけどきょうはそれでいきます、イングランドはスウィリントン出身で、ラウドLDNのメンバー。

 

そのパーセノープが歌う「ドント・ノウ・ワイ」(ノラ・ジョーンズ)がさわやか軽やかでとってもいい。これ一曲でもう惚れちゃいました。といってもかの『ブルー・ノート・リ:イマジンド II』(2022)に収録されていたものなんです。

 

だからアルバムで聴いたことあったはずなのに、なんだかこのごろSpotfyでこれ一曲のシングルとして出てきて目にとまる機会が増え、なんでしょうね、シングルのヴァイナルがリリースでもされたのかな、とにかく既知のものだけどあらためて聴きなおしたら新鮮でした。

 

ノラのオリジナルとそんな違わないストレート・カヴァーですけどね。そうそう、ノラといえばこないだレイヴェイがはじめて対面したようで、レイヴェイはその写真に “God” のことばを添えてInstagramに投稿していました。なにかのジャズ・フェスみたいな機会で同じステージを分けることがあったみたい。

 

このレイヴェイの感動の様子でもわかるように、ノラは現行レトロ・ジャズ・シーン若手のアイドルなんですね。イングランドのパーセノープがこの波のなかの一人かわかりませんけど、ブルー・ノート・クラシックであることもふくめ、デビュー期のノラを歌うことの意味はよく知っていたはずです。

 

そして(カヴァーでもオリジナルでも)軽くふわっとさわやかなジャズ・ポップスに仕上げるっていうのがレトロ・ムーヴメントの特徴。最新鋭UKジャズ〜R&Bのコンピである『ブルー・ノート・リ:イマジンド』シリーズのなかにもこういうのがあるってことで、いまや決して無視できない流れになったといえるでしょう。レトロと新世代ジャズは表裏一体です。

 

(written 2023.7.9)

2023/07/26

切なく甘くノスタルジックなレトロ・ポップでつづるラヴ・ソング 〜 サラ・カン

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Sarah Kang / Hopeless Romantic, Pt.1

https://open.spotify.com/album/2SbZ3ohaiBoFvCofVE18h0?si=CH0lHkFmSaiAxKbZWePp4g

 

以前一度書いたわりあい好きなレトロ・ジャズ歌手、サラ・カン(韓国プサン生まれLA育ち現在の拠点はNYC)の新作『Hopeless Romantic, Pt.1』(2023)が出ましたが、これアルバムの前半というか一部で、続きのPt.2がそのうち出て完結するってことでしょうか。本人が “first half” とかってインスタで言っていたような。

 

とりあえずいまはPt.1だけ聴ける状態なのでそれを書いておきます。もう待てないんだもんね。それくらいチャーミングだし、これはこれでちゃんとバランスのとれた完結品のような趣をしています。

 

1930〜50年代ごろのUSアメリカにたくさんあったキュートでジャジーなポップスへの眼差しがはっきりしていて、そういう世界への憧憬をはっきり示す歌手やソングライターはその後も現在までときどき出現してきましたよね。近年のレトロ・ブームはそれが大きな潮流として顕出しムーヴメントになっているというわけです。

 

最大の共通項は「非ロック」「前ロック」ってことで、サラ・カンの音楽もまた同じ。今回はラスト5「It’s You I Like」だけがフレッド・ロジャーズのカヴァーで、それ以外は自作。サラは歌えるだけでなく、曲を書きアレンジ/プロデュースし楽器もやれる音楽家なんで、やはりそのようにつくりあげていると思います。

 

ところでそのフレッド・ロジャーズの「イッツ・ユー・アイ・ライク」をサラがカヴァーしているのがクラシカルで、最高にすんばらしいんじゃないかとぼくは思います。同じくニュー・ヨーク在住の日本人ピアニスト、泉川貴広が伴奏をつとめているデュオなんですけど、なんともかわいらしくチャーミングで、大好き。あなたのなにからなにまでぜんぶ好きっていう歌詞も好き。

 

これがラストに置かれていることには明確なプロデュース意図を感じますし、バランスがとれている、構成が練られているとわかるものですよ。それくらいこのEPのクローザーとしてはこの上なくピッタリ。デジタルなリズム伴奏がついている4曲目までからのあざやかな流れになっています。

 

ピアノやアクースティック・ギターとDAWビート中心のシンプルなサウンドを軸に、控えめのトロンボーンやハーモニカ、チェロなどを効果的に配した1〜4までは、あくまで切ないフィールの自作の歌を聴かせよう、それをきわだたせようという音づくりになっています。やや甘めのサラの声は、こうしたノスタルジアをつづるのに最適ですね。

 

(written 2023.7.23)

2023/07/09

レトロ・ジャズ・ポップスの先駆けだったと今ではわかるジャネット・エヴラ

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Janet Evra / Hello Indie Bossa
https://open.spotify.com/album/4ZGZHM0fPwIqIRfU2Ozxcx?si=0P354SneSTycICSL0y8A5w

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-06-05

 

bunboniさんとぼく以外話題にするひとがほぼいないジャズ歌手、ジャネット・エヴラ(UK→US)ですが、個人的には2018年のデビュー作『Ash Her to Dance』1曲目「Paris」冒頭の三語 “I still wonder” で惚れちゃった明瞭な発声とヴォーカル・スタイルの持ち主で大好き。

 

それなのに二作目『New Friends Old Favorites』(2021)はイマイチで、それでも記事にはしましたが惚れた弱みみたいなもんで、なんかちょっとモヤモヤの残る作品でした。ジャネットの持ち味はこれじゃない感があったというか。

 

ですから三作目『Hello Indie Bossa』1曲目「Tenderly」がうれしかった。もう一聴で快哉を叫びましたよ。これだよこれこの路線こそがジャネットの本領発揮だすばらしいきれい楽しいって、惚れなおしちゃいました。いやあ、ホント。ジャネット・エブラ、いいねえ。

 

それに「テンダリー」ではヴァイブラフォンがいい。さわやかだし、ボッサ・テイストなジャズ・ポップにちょうどいい色彩を添えていて、ぼくがヴァイブ好きなだけっていう理由もありますが、ここまで曲にピタっと来ているクールな使いかたもなかなかないですよ。

 

それで、ちょっとあれなことを以下書きますが、ジャネットのデビュー作に出会ったのが2019年でしたから、あのころまだレイヴェイはこの世界にいませんでしたし、そもそもレトロ・ムーヴメントがまだそんな顕在化していなかったと思います。

 

そんな時期にジャネットに出会い、こ〜りゃいいね!と思って好きになっちゃったわけですけど、一作目と同様にすばらしいこの三作目の、2023年における立ち位置を考えてみるに、こりゃもう完璧にレトロ・ジャズ・ポップスの代表作そのものです。

 

ふりかえってみれば2018年の一作目はそのみごとな先駆けだったように、いまでは思えます。レイヴェイもこの手のボッサ・ポップスは得意としているし、同じようなことをやっている若手歌手は実に多いです。

 

波風が立つところの微塵もない、ひたすらおだやなでピースフルな癒しになる薄味な音楽 〜 それがコンテンポラリーなレトロ・ジャズ・ポップスの特色なんですが、ジャネット・エヴラもそのなかに位置づけたときに(ぼく的には)理解と輝きが増すように思います。2018年デビューなんで、当時まだその波は立っていませんでしたけどね。

 

(written 2023.6.12)

2023/06/22

ひとときのフィクション 〜 サマーラ・ジョイ『リンガー・アワイル』デラックス

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(3 min read)

 

Samara Joy / Linger Awhile (Deluxe Edition)
https://open.spotify.com/album/1kQH5ZtEqzJ5GxyTtfHKE3?si=QYn17jgkTzaa9GHyCTmxLQ

 

レトロ・ジャズ歌手、サマーラ・ジョイの『リンガー・アワイル』(2022)については去年リリースされたときにさっそく書きましたが、ジャケットの色を変えたデラックス・エディション(23)がこないだ五月に出ましたね。追加されたのは7曲8トラック。どれも新録で、別途EPとかで安価にリリースすればいいのに、豪華版にして本編をCD派にもう一回買わせるなんて、ちょっとヴァーヴさんそのへんどうなん?

 

これはあれでしょう、『リンガー・アワイル』はずいぶん評価も人気も高くて、なんたって歌手として&アルバムとしてのダブルでグラミー賞をもらったぐらいだし、いまだに話題が引も切らないので、それに乗っかって二匹も三匹もどじょうを釣っときたいってことでしょ。

 

ぼくとしてはサブスク・ユーザーなので、べつに追加出費がかさむわけでなく(Spotifyなら月額¥980で聴き放題)、個人的にもお気に入りの音楽が拡大され長尺になれば、このラグジュアリー・ムードをよりいっそうたっぷり味わえるってわけで、『リンガー・アワイル』デラックス・エディション、楽しんでおります。

 

新録と書きましたが、本編収録曲の、アレンジだけ変えたような再演が半分あります。はじめてやっている曲というのは追加部分の前半四曲だけ。それだって音楽性として新機軸なんかまったくなく、どこまでも『リンガー・アワイル』の高級ホテル・ラウンジふうな雰囲気をそのまま維持しています。

 

いつまでもこんなムードにひたっていたい、この楽しいラグジュアリーな時間が永遠に続けばいいのに、っていう、なんというかある種の現実逃避願望みたいなものを実現するひとときのフィクションとしてこそサマーラみたいな音楽は価値を持っているのであって、社会に対するレベルであるとかどうとかそんな世界とは完全に無縁。

 

ぼくだってそうだけど、現実の日常や人生はかなり厳しくつらいもの。それをすこしでも改善しようという社会変革としての音楽も必要でしょうが、日本の演歌や歌謡曲もそうであるようにしんどい現実からいっときだけ逃げるというか忘れるための、要するに憂さ晴らしみたいに機能する音楽もまた世には必要なんです。

 

じっさい必要としている人間が多いからこそサマーラ・ジョイと『リンガー・アワイル』がこれだけ大人気なのに違いないわけですからね。そんな時間がデラックス版でいっそう長くなれば、ウレシタノシ気分も持続するってわけで。

 

(written 2023.6.15)

2023/06/08

ボッサ・ポップスとはなにか?それは=アストラッド・ジルベルトのことだった

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(2 min read)

 

Astrud Gilberto’s 6 Essential Songs
https://open.spotify.com/playlist/1lKMaD7ycxGABMkYdwxDWe?si=4f87e0d4d13e45d0

 

主に英語で歌うときのフィーメイル・ボッサ・ポップスのイコン・ヴォイスだったアストラッド・ジルベルトが亡くなりました。「イパネマの娘」(1964)があんな世界的大ヒットにならなかったら、その後のワールド・ポップスはかなり様子の違うものとなっていたはずです。

 

アストラッドがいなかったら、21世紀のいまをときめくレイヴェイだって、ジャネット・エヴラだって、あるいは(伊藤ゴロー時代の)原田知世だって、存在していなかったんです。そもそもボッサ・ポップスという世界を産んだのがアストラッドですから。

 

それくらいアストラッドが世界のポップス・シーンに果たした功績は大きかった。現在はレトロ・ブームで、1950〜60年代的USアメリカン・ポップスを、それも若手や新人がどんどんやるようになっていますから、アストラッドの位置や重要性にふたたび脚光があたるようになっていたかもっていうところへの訃報だったんだと思います。

 

じっさいレイヴェイなんかはソーシャルではっきり追悼の投稿をしていましたし、いまボッサ・テイストなジャジー・レトロ・ポップスをやっている歌手たちは、だれもがみんなアストラッドに背中向けられないというのは間違いありません。アストラッドがボッサ・ポップスを定義したんですから。

 

ヴィブラートなしコブシなしでナイーヴかつストレートに発声し、ややフラット気味に低域から高域まで均質に歌え、デリケートで、キンと立つこともない(無表情とも思えるほど)おだやかなアストッドのヴォーカルは、まさしく2010年代以後的なサロンふう軽いグローバル・ポップスの潮流そのもの。先駆けなんていうのもおこがましい、いまぼくらがふだん聴いているのは=アストラッドなのです。

 

(written 2023..6.8)

2023/05/08

あまりにも典型的なレトロ・ポップ 〜 エマリーン

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Emmaline / Songs from Sweetwater
https://open.spotify.com/album/6A9UjWvIFWBPGoz2VIBAdp?si=w03IuERBSG-lv9TnGGW-cw

 

70sシティ・ポップ路線がこの歌手はいいじゃんと言っても、個人的な趣味の話。近年のエマリーン本人はレトロ・ジャズ路線にすっかり舵を切ったということで、出たばかりの最新EP『Songs from Sweetwater』(2023)もやはりそんな感じ。映画かなにかのサウンドトラックですかね。

 

こ〜れがもう!レトロもレトロ、ここまでのものって、いくらこうしたコンテンポラリー・ミュージックが好きなぼくでも出会ったことがないかも?と思うくらい徹底されているんですね。ちょっぴり気恥ずかしくなってくるほどの典型ぶり。

 

ここまでやったら一種のカリカチュアじゃないのかという気がしてくるくらいですが、やっているのは「ザ・マン・アイ・ラヴ」「イット・ハド・トゥ・ビー・ユー」「アフター・ユーヴ・ゴーン」「ブルー・スカイズ」「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」「スウィート・ジョージア・ブラウン」。

 

すべてティン・パン・アリーで産まれたスタンダード・ナンバーで、大事なことはこれらいずれも1930年代末のスウィング時代までしか歌われなかった曲であるというところ。モダン・ジャズが勃興してからは意図して懐古をやるか旧来世代のミュージシャン以外やりませんでした。

 

ここが2020年代レトロ・ジャズ・ポップのキモで、古いジャズを遡及的に指向しているといってもハード・バップとかそのへんはそんな対象になっていません。なっている歌手もいるんですが(エマ・スミスなど)、多くがもっと古いディキシー、スウィング時代に範を求めています。

 

つまりモダン・ジャズ以降だと古いだなんだといっても21世紀にも連続的に継承されているもので、いまだ息絶えてなんかいないという実感があるでしょう。ここ10年ほどのレトロ・ジャズ指向は、もはや連続していない、失われて消えてしまい断絶している時代への一種のあこがれ、っていうことがモチーフになっているんですから。

 

エマリーンのデビュー期はきのう書きましたようにどっちかというとスティーリー・ダンみたいなシティ・ポップ路線でした。それも古いのではありますが、さらに進んで、おそらくは流行だからっていうんでレトロ・ジャズな方向性を、生得的直感でというより学習してとりいれたんだろうと思うんですね。

 

音楽一家で育ち、幼少時分から古い音楽と楽器に接していたみたいなんですが(「スウィート・ジョージア・ブラウン」で聴けるジャズ・ヴァイオリンはエマリーン自身によるもの)、学習してのレトロ・ポップ路線であることが、ここまでの典型ぶり発揮となって表れているのかもしれないなとぼくは考えています。

 

(written 2023.5.3)

2023/05/01

どうってことないけど、くつろげる(1)〜 ヘイリー・ブリネル

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(3 min read)

 

Hailey Brinnel / Beautiful Tomorrow
https://open.spotify.com/album/0M3Rq3rexDsLnrDv0y2DsK?si=5P8sXSt4R8i4-LuGF_HPyA

 

好みのレトロ・ジャズ歌手、ヘイリー・ブリネルの新作『Beautiful Tomorrow』(2023)が出ました。ジャケットは安易にぱぱっとやっつけた感じの低予算路線であれですが、そのへんやっぱりインディっていうか知る人ぞ知る存在でしかないんですよね。中身は楽しいので、ぼくには。

 

「ティー・フォー・トゥー」「ア・カテージ・フォー・セール」「キャンディ」といった定番スタンダードにまじって自作もあり。そして今回はドナルド・フェイゲンの「ウォーク・ビトゥウィーン・レインドロップズ」(『ザ・ナイトフライ』82)もカヴァーされています。

 

フェイゲンのあれは最初からレトロなジャズ・ムードを強く意識したナンバーでしたので、それを今回ヘイリーが選んだというのは聴いてみる前から納得できるものがありました。8ビート・シャッフルを4/4拍子にアダプトし、はたしてピッタリなムードで、曲よし演奏よしの文句なし。

 

これに象徴されていますように、いはゆる「古き良きアメリカ」みたいなものを音楽で再現せんとする指向がこうしたレトロ・ジャズ・ポップスにはあって、古き良きアメリカってなんやねん?!といぶかしがる向きもいらっしゃるでしょうが、ぼくなんかはたんに聴いたら楽しい、好みの音楽であるというだけの話です。

 

今回もなじみのオールド・スタイルなジャズ・バンドをバックにつけて、そして前作とちょっと異なっているのはやや大きめ編成の管楽器アンサンブルも曲によっては参加しているということでしょう。ディキシーランド路線からややスウィング系へと進んだような感じ。

 

2曲目「I Might Be Evil」(自作)だけはちょっぴりモダンっていうか、ブルージーでファンキーな香りすらただようシャッフル・ナンバーで、なんだかハード・バップみもあります。これ一曲を例外に、あとはさっぱり淡々とレトロ・ムードを追求。

 

ラストのスタンダード「キャンディ」だけは以前のビートルズ・カヴァー「アイル・フォロー・ザ・サン」同様にコントラバス一台の伴奏。こういうのを聴くと、ヴォーカリストとしてちょっとした実力を持っているんだなとわかります。

 

個人的にはこうした音楽がくつろぎのリラックス・タイムにぴったりなんですね。

 

(written 2023.3.26)

2023/04/18

都会の香りがする音楽が好き

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(4 min read)

 

My City Pop
https://open.spotify.com/playlist/0A8m5yDIFx6qGbJdzWH1fA?si=1e64a6c5fc0542a7

 

ここ10年内のリリースに限定して思い浮かぶまま九作、画像をタイルしてみましたが、このあたりが(いまの)ぼくの好きな音楽ってこと。古いものならたとえばリー・ワイリー『ナイト・イン・マンハッタン』(1955)あたりがまさにぐっとくるシティ・ポップで、そういったものがほんとうに好きになったんですよ。

 

生活や人生のにおいのしない、リアリズムでない、おしゃれで洗練されたスタイリッシュでジャジーでピースフルな都会派ポップス。実生活でも農村のあぜ道より摩天楼のアスファルトを歩いているほうがずっと快適で、これは生来の気質なのか、それとも(がんらい大都会の音楽である)ジャズに惚れて以後そう育ったのか。

 

そしてここ10年以上、約20年近くかな、どんな音楽ジャンルでも都会的でおだやかジャジーなものが台頭しているっていうかちょっとしたブームになっているのも間違いないことで、それはレトロ志向とも関係ありますし、日本のシティ・ポップが世界でムーヴメントになっているようなたぐいのことだって通底しています。

 

多ジャンルをクロスするようにジャズ要素が芯をつらぬくようになっていて、こうしたことはジャズって実体ではなくて音楽演奏の方法論でしかないというこの音楽の本領をいかんなく発揮しているっていうこと。ジャズ的なものがここまでコンテンポラリーによみがえってくるとは、20世紀の終わりごろ思っていませんでした。うれしい。

 

以前は、Niftyのパソコン通信をはじめた1990年代後半から21世紀はじめごろでも、ジャズ・ファンは蔑視されていて、「(ジャズ好きなんか)あっちいけよ」「一度もジャズ・ファンだったことがない」「ジャズなんてケッと思っていた」とか言われたり、言外の態度に出ていたりなどの日々をすごしてきました。

 

ノラ・ジョーンズの出現が2002年ですが、あのころはノラを従来的なジャズ・ヴォーカルの枠内でとらえようとする言説ばかりでしたし、ネガティヴなことばを向けるロック・ファンすらいたくらい。現行シーンの大本流である新世代ジャズとレトロ・ポップスの二つともの源流がノラの汲んだ水にあったことが理解されるようになるのに、さらに10年の時間を要したとはいえ。

 

あのへんのおだやかジャジーなポップスは、たとえばもともと1970年代からレトロ・ジャズ志向も強かったドナルド・フェイゲンあたりの復活にもはっきり関係していて、演奏家の技量向上と機材の発達もあいまって、ロックでもジャズでもポップスでもないようなライヴ・ミュージックの樹立に大きく寄与しているわけです。

 

ブラジリアン・ミュージックなテイストもそこには加味されていて、ブラジル国内から新世代ジャズに共振するような音楽家がどんどん出てくるようになっているばかりか、USアメリカのミュージシャンたちだって(これは60年代からそうだったけど)ブラジル要素を、それもナチュラル&スポンティニアスに、参照したりすることが増えています。

 

台湾や香港や中国内地の新世代ポップ音楽家たちもそんな流れのなかにあって、音を聴きさえすれば「あぁ、これは同一基軸だ、全世界的な潮流なんだね」とどなたでも感じとることができるシーンが、もはやだれも疑えない確固たるものとして確立されていると感じられるのが、いまのぼくの個人的音楽ライフが楽しい最大の要因です。

 

(written 2023.3.27)

2023/02/11

ヒップ・ホップ以降の世代によるロック以前へのアプローチ 〜 my favorite retro pops

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(2 min read)

 

Swingin’ Nostalgia ~ my favorite retro pops
https://open.spotify.com/playlist/7aVZqK3TbzdRtAOE777ke4?si=b87cc0ffecc845fd

 

萩原健太さんのブログからパクリました。
https://kenta45rpm.com/2023/01/19/nothing-but-pop-file-vol45-swingin-poppin-and-groovin/

 

21世紀とは思えぬスウィンギーでノスタルジックなジャズ・サウンド世界にぼくも埋没しています。レイヴェイとかレイチュル&ヴィルリーとかサマーラ・ジョイとかそのほか近年いっぱい出てきていますから、あきらかに大きな潮流になってきていますよね。

 

カンタンにいえばロック〜ヒップ・ホップ以降の世代がロックンロール以前の音楽世界にアプローチしてみせたようなものってこと。個人的にはそこらへんのジャズ黄金時代こそ最大好物なので、この流れはうれしいかぎりなんです。

 

それなもんで、こないだ健太さんも同様のプレイリストを公開してくださっていたのが個人的にはとっても楽しかったから、そのままパクりつつ自分なりに追加変更してセレクションを作成しておきました、ぼくはもちろんSpotifyで。

 

1)Rachael & Vilray / Is a Good Man Real?
2)Laufey / Valentine (The Reykjavík Sessions)
3)Emma Smith / I’ve Got My Love to Keep Me Warm
4)Samara Joy / Guess Who I Saw Today
5)Lara Louise / Alone Together
6)Billy Field / Bad Habits
7)Hurricane Smith / Cherry
8)Dan Hicks & His Hot Licks feat. Rickie Lee Jones / Driftin’
9)Martin Mull / They Never Met
10)Maria Muldaur / Sweetheart
11)Bob Dylan / Moonlight
12)Asleep at the Wheel / Pipe Dreams
13)The Sir Douglas Band / Someday
14)Father John Misty / Chloë
15)Harry Nilsson / (Thursday) Here’s Why I Did Not Go to Work Today

 

ぼくならではっていう独自性は1〜5曲目までに出ていると思います。6曲目以後は健太リストをそのまま借用しただけ。そこには1970年代ものもたくさんふくまれていますけど、ロック全盛期における古いジャズ時代への憧憬ってことで、こうした指向はむかしからあったとわかります。

 

それが2023年のいま、副流というよりある意味メインストリームになってきているわけで、どうしてここまで?っていうのが、傾倒しているぼくですら不思議に感じるほど。<レトロ&オーガニック>は、いまや2020年代最大のキーワードになりましたね。

 

(written 2023.1.24)

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