カテゴリー「中東、マグレブ」の98件の記事

2023/01/27

インディゴ・ブルーな冬の哀感 〜 ディレク・チュルカン

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(2 min read)

 

Dilek Türkan / Akşamı Süzme Deniz
https://open.spotify.com/album/33e0NgVrgNqypp8WzNlFdv?si=znvnJxQMSGCvqzUS1jNPrw

 

スチャラカさんのツイートで知りました。
https://twitter.com/xiu_chang_po/status/1613141544546226179

 

トルコの古典歌謡歌手ディレク・チュルカンのニュースを、2018年作『An』以来聞かなくなっていましたよね。それは2020年に知ったものでしたから、もう三年近く。しかし21年に新作が出ていました。

 

それが『Akşamı Süzme Deniz』(2021)。これも充実した内容で、納得のいくアルバムです。その後も新曲はちょこちょこ出しているみたいですけど、アルバムではこれが最新でしょうか。

 

一部界隈ではそこそこ人気のディレクなのに二年前のアルバムにだれもなにも言わずで。そりゃあねえ(ショップでもないのに)盤がないと口にすらしないというヘンタイ・オヤジが多いってことは知っていますけどもね。ぼくだってスチャラカさんが話題にするまで気づきませんでしたから。

 

ともあれ『Akşamı Süzme Deniz』。やはりオスマン〜トルコ初期時代の古典曲を、従来的な少人数の楽器編成で、じっくりと哀切を込めてしかしほとんど声も張らずに淡々と歌っているのがいい。もともと宮廷音楽だったので、これもやっぱりサロン・ミュージックってことなんですね。

 

適度なラテン・リズムの活用もこの世界は古くから得意とするところ。基本(西洋音楽でいうところの)マイナー・キーの曲が多いものの、メイジャーとマイナーを行き来したり、あるいはたとえば10曲目みたいにさわやかなフィーリングをたたえた明るいメイジャー・ナンバーもあって。

 

そういうのが流れてくると、インディゴ・ブルーな冬の哀感をただよわせるアルバム全体の曇り空にさっと陽光が差したかのようで、とってもいいですね。こういう世界はレトロとかどうとかいうんじゃなくて、何百年もずっとこんな姿を変わらず維持しているんです。

 

人間のいだく気持ちが太古でも2020年代でもなんら変わりないように。

 

(written 2023.1.20)

2022/11/29

ジャスティン・アダムズ produces スアド・マシ 〜『Sequana』

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(2 min read)

 

Souad Massi / Sequana
https://open.spotify.com/album/64Uwr6ZmYrBNABToF47PRN?si=6u2kSRifT5ys3NgjFy-Y0Q

 

なんでこんなジャケットなのかだけがどうしても得心いかないスアド・マシ(アルジェリア/フランス)の最新作『Sequana』(2022)ですが、中身の音楽に風変わりなところはないばかりかいままでよりいっそう充実していて、安心して聴けます、ジャケを見なければ。

 

今回はかのジャスティン・アダムズがプロデュースということで、といってもそれは日本でCDを売るオフィス・サンビーニャの情報、Spotifyでクレジットを見たらスアド自身しか全曲のプロデューサー欄に名前がありません。どうなってんの。

 

もちろんサウンドを聴けば、ティナリウェンなどを手がけてきたジャスティンらしさがそこかしこにしっかり聴きとれるので、サンビーニャ情報に間違いはないはず。アルジェリアの音楽家は初めてかもしれませんね。

 

たとえばイタリア系イギリス人ピエール・ファッチーニをゲスト・ヴォーカリストにむかえた3曲目後半での回転する反復パターンなんかはやっぱり砂漠のブルーズを想起させるもので、こうしたものが好きなぼくにはうれしいところ。こういうのはいままでのスアドの音楽になかったものでしょう。

 

でもほかはほとんど従来の哀感強めなスアドの音楽が表現されていて、ジャスティンはこの音楽家の持ち味をそのまま活かすようにプロデュースしたんだなとわかります。ややフォーキーなシンガー・ソングライター然としたものもいままでどおりあって、今回哀感はいままでの民族ルーツ的、エクサイル的なものというより、コロナ時代ならではの不安や孤独へと向かっている模様。

 

シャアビ(アルジェリア大衆音楽)らしいものとか、アクースティック楽器を基本としながらも、なかにはハード・ロックばりにエレキ・ギターが強めの音で鳴るものも一個だけあったりして、なかなか多彩です。個人的には終盤の10曲目(ボサ・ノーヴァふう+ナイ)、11曲目(アクギ弾き語り)にグッとくるものがあります。

 

(written 2022.11.28)

2022/06/11

カビール・シャアビなシャンソン 〜 イディール

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Idir / Ici et Ailleurs
https://open.spotify.com/album/5pFD8nwMcsalVTJp3fZQcd?si=EdigYfQyREuXCEPGxVebtQ

 

エル・スールのホーム・ページで見つけたイディールの最新作『Ici et Ailleurs』(2017)。2020年に新型コロナウィルス感染症で亡くなっていますので、結局これが遺作ということになっちゃいました。

 

見かけたジャケットがシブくていいな〜と感じて、さがして聴いてみたんですが、いいですよね、これ、かなりいい。イディールはアルジェリア出身カビール系の歌手で、長年フランスで活動しましたが、この遺作にはそんなキャリアが如実に反映されています。

 

歌われているのはシャンソンなどフランスの曲で、一曲ごとさまざまに豪華なフランス人歌手たちをゲストに迎えデュオで歌っています。なかにはシャルル・アズナヴールやアンリ・サルヴァドールといった大物もいたりして。

 

イディールも基本フランス語のままで歌っていますが、特筆すべきはやはりアレンジと伴奏サウンド。完璧なるカビール・シャアビのマナーでやっているんですよね。それこそがぼくにとってのこのアルバムの魅力。もう1曲目の出だしから鳴るマンドールのきらびやかな響きはどう聴いてもアラブ・アンダルース。

 

こういった作法でシャンソンなどフランス語の歌を料理したものというと、2014年にHKの『脱走兵たち』がありました。あれがたいへん好きでくりかえし聴いていたぼくの嗜好からしたら、同一傾向といえるイディールのこれもヘヴィロテ確実なんですね。

 

そもそもこの手のものってフランス発信で世界に出てきたに違いなく、いはゆるパリ発ワールド・ミュージックの一つとして(ライなどふくめ)アルジェリアのアラブ・アンダルースなシャアビが拡散されてきたわけです。じゃなかったらぼくに情報が届くわけないですから。

 

それらを担った全員がアルジェリアから来てフランスに住むようになった歌手たちで、フランスに住むがゆえシャンソンなどに触れる機会も多く、だったらじゃあそれを自分たちのやりかたでやってみようじゃないか、となるのは自然な成り行きだったでしょう。

 

だからHKもイディールもそんな在仏マグレブ移民文化の申し子なわけで、フランスの歌をフランス語のままで、しかしアラブ・アンダルースなシャアビ・マナーにリアレンジして自分たち流にやるっていうところに、移民なりの抵抗とアイデンティティの確認行為があるわけです。

 

イディールの本作は、しかもひときわ哀感やわびしさ、孤独感が強くにじむ音楽になっていて、特にフランス語ではなくカビール語に翻案して歌っている数曲なんか、北アフリカからの移民生活とはかくも厳しくつらいものなのかと、まるで二度と戻れない失われたルーツを絶望とともに想うといった味がします。

 

(written 2022.4.30)

2022/06/10

気軽に聴けるリラックス・ムードなアラブ古典器楽奏 〜 ジアード・ラハバーニ

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(3 min read)

 

Ziad Rahbani / Bil Afrah
https://open.spotify.com/album/2srLQVOY35dvehNh8hSvbB?si=e_dWqhCnQP6GvyZkKwtZ5w

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-06-08

 

レバノン人歌手フェイルーズの子にしてピアノ奏者、コンポーザー、プロデューサーのジアード・ラハバーニが、まだ若かったころにリリースしたインスト・アルバム『Bil Afrah』(1977)。くつろげてとてもいいですよね。

 

アラブ古典器楽奏なんですけど、こういうとなんだか崇高で敷居が高くてちょっとね…、と敬遠しがちな向きもおありじゃないかと思います。しかしジアードの本作にそんな懸念は無用。庶民的なカフェ・ミュージックといった趣きで、とっつきやすいんです。約37分とサイズも手頃。

 

このアルバムの背景となっている社会的な問題については上でリンクしたbunboniさんの記事にすべて書かれてあるので、ぜひご一読くださいね。ちょっと聴いてみるだけのぶんにはその手のことは気にならず、まったく聴きやすく親しみやすいジャム・セッションで、ぼくもそういったところが気に入っています。

 

ジアード自身の曲や有名他作などとりまぜて、それをテーマにバンドが自由闊達に即興演奏をくりひろげる様子が、アルバムにはしっかり収められています。さらに親しみやすさと臨場感を演出しているのが、スタジオ現場での演奏中にやりとりされる人声です。

 

笑い声をあげたりはやしたてたりしゃべりかけたりハミングしたりなど、ナマナマしいともいえますが、ここでは演奏時のリラックス・ムードをうまく伝えることに成功していて、楽器演奏の格好のスパイスになっています。ジアード以下レコーディング・メンバーは緊張せずノビノビと楽しんでいて、まさしく自宅サロンでやっているような普段着姿のアラブ古典器楽奏といった趣き。

 

端正でかしこまった典雅なものが多いアラブ古典音楽世界においても、実は演奏者たちもこういったくつろげる日常を送っていたんだろう、スタジオでのレコーディング時は厳正なムードになるにしても、ふだんの自宅の部屋のなかではこんなリラクシング・ミュージックを奏でて家族や友人と談笑し楽しんでいたはずだ、といった想像をたくましくするのに十分なジアードの本作なのでした。

 

(written 2022.4.17)

2022/04/23

亡命者としてのアラブ・アンダルース・ジャズ 〜 アヌアール・カドゥール・シェリフ

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(3 min read)

 

Anouar Kaddour Chérif / Djawla
https://open.spotify.com/album/1ClG7ZPAWMZTUdLTwCG04T?si=zxyp7NDcTeyLi24v4YyHzQ

 

マンドール奏者のアヌアール・カドゥール・シェリフはアルジェリアでバンド・リーダーとして活躍してきた存在ですが、2019年に24歳でスイスへと亡命。その後三年目にしてリリースしたのが今回の新作『Djawla』(2022)です。インターナショナル・デビューとなりました。

 

いままでになかった、一種のアラブ・アンダルース・ジャズとでも呼べそうな内容になっていて、なかなかおもしろいと思います。アヌアールのマンドール以外はスイス人ミュージシャンでしょうか、バス・クラリネット、コントラバス、ドラムスという編成での演奏。

 

アラビック・ジャズというか、アラブ・アンダルース伝統に沿った曲づくりとマンドール演奏なのがわかりますが、それをコンテンポラリー・ジャズの語法でやっているというのはちょっとビックリですよね。聴いたことない音楽です。

 

たとえば5曲目「Sirocco」なんかでも、アヌアールのマンドール演奏はシャアビふうにアルジェリア音楽ルーツに則しながら、三人のバンド・アンサンブルは躍動的な現代ジャズそのもの。即興的演奏力も卓越しています。

 

どの曲もヨーロッパにおける亡命アルジェリア人という哀感と、日々の生活の厳しさから来るものであろう灰汁のようなフィーリングが強くにじみでていて、しかしそれが音楽にさほどのエッジをもたらさないのはやはりヨーロッパ人三名によるジャズ・マナーゆえかもしれません。

 

アップ・ビートの効いた8曲目「Vigule」はアラブ要素抜きの純正ジャズとして聴いてもすばらしい演奏で、アヌアールふくむバンドの四人でエモーショナルにもえあがり、ジャジーな意味ではアルバム中いちばん聴きごたえがあります。

 

続くラスト9曲目「Amiret Erriyam」では冒頭なぜか親指ピアノが聴こえますが、おそらくドラマーが演奏しているんでしょう。アヌアールはシャアビ・マナーな歌も披露しますが、そのあいだも伴奏はジャジー。ヴォーカルはほかにも使われている曲があります。

 

亡命者としての生活実感や心象風景がかなり鮮明に刻まれているようですが、ジャズ・バンドでそれを表現したいと思ったのはなぜだったんでしょうか。

 

(written 2022.4.21)

2022/04/02

マグレブ・ミクスチャー・バンド新世代 〜 ジマウィ・アフリカ

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Djmawi Africa / Amchi
https://open.spotify.com/album/7J6ff35PaiuIv3TFSkv0HQ?si=KRfW7rTrQey-h16EuLN_Ug

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-12-10

 

ジマウィ・アフリカは2004年結成、アルジェリアのマグレブ系ミクスチャー・バンド。グナーワとロックをミックスさせるだけでなく、シャアビやレゲエもあったりして、そういうところ、往時のグナーワ・ディフュジオンを連想させますね(いまどうしてんの?アマジーグ?)

 

最新作『Amchi』(2021)でぼくが最も感じ入ったのはラスト11曲目。まずゲンブリ独奏が出て、いきなり強烈にグナーワを香らせますが、すぐにドラム・セットが入りホーン・セクションも鳴りはじめるっていう。そうなってからはバルカン音楽を色濃く連想させる内容になって、グナーワとバルカンを往復するように進みます。

 

しかしそれがいったん落ち着いた曲後半にはふたたびゲンブリ・パートがあって、ヴォーカルのコール&レスポンスでグナーワっぽくなるんですね。その直前にはなぜかフィドルもからんでいるし、最後にファズの効いたエレキ・ギターがぎゅ〜んとロックっぽく鳴って、再度のバルカン&グナーワ・ミックスでフェイド・アウトするという具合。

 

なんだかワケわかりませんよね。こうした多彩な音楽性のミクスチャーこそがこのバンドの持ち味で、なんだかんだいってマグレブ伝統音楽にしっかり根ざしていたオルケストル・ナシオナル・ドゥ・バルベス(ONB)やグナーワ・ディフュジオンら1990年代バンドと比較すれば、新世代らしさがよくわかります。

 

アルバムのなかには6/8拍子でフィドルが演奏し、アイルランド伝統音楽のジグとしか思えない曲もあったりしますが(5)、北アフリカ音楽とケルト音楽の類縁性は仮説として前からこのブログで唱えているところ。

 

古代ローマ拡大とキリスト教普及以前のヨーロッパにケルト民族はひろく住んでいたし、そのうえ欧州大陸南岸とアフリカ大陸北岸はたった地中海をはさむだけの近距離なんですから、文化交流は人類史と同じくらい古くから活発だったと考えるのが自然でしょう。

 

また、ハレドっぽいライの濃厚なこぶしまわしを聴かせるヴォーカリストが活躍する曲もあって、多種の楽器を駆使してさまざまなヴォーカルを聴かせる演奏能力の高さもこのバンドの魅力ですね。

 

(written 2022.3.31)

2022/03/07

バルキースとハリージの昨今

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Balqees / Arahenkom
https://open.spotify.com/album/2LRigfiJlCjeTOLyWzlJge?si=EVHHWnYaQRq-dsvCvHAJEA

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-06-15

 

このブログBlack Beautyを2015年9月3日にはじめたとき最初にとりあげたのはハリージ歌手のディアナ・ハダッドで、翌年元日の記事もやはりハリージ歌手モナ・アマルシャを書き、うん、ちょうどそのころ、ぼくのなかでハリージ・ブームがあったんです。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/post-c19d.html
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2016/01/post-742f.html

 

個人的にというより世間で2010年代前半〜なかごろはハリージ・ブーム真っ盛りでした。アルバムが続々リリースされていたのに、しかしここ数年はパタリとニュースを聞かなくなりましたよねえ。大好きな音楽だったんですが、もうハリージは消えちゃったんでしょうか。

 

いやいや、音楽というよりダンスの名称であるハリージ、もちろんアラブ湾岸地域ではそんな簡単に終わってしまうはずがなく。ずっと前からあった民俗ダンス・ビートで、ポップ・アルバム化されリリースが相次いでブームになっていたのは一時期のことだったかもしれませんが、それが立ち消えになっても現地ではあいかわらずハリージにあわせて踊っているのでしょう。

 

とはいえ、ハリージで踊る習慣が日常的ではない日本人のぼくは、ただリリースされる音楽アルバムを聴いて、そのヨレてツッかかるような異様にギクシャクした変態ビートにひたすら快感をおぼえているのみ。すっかり作品が出なくなった昨今はちょっとさびしいなあと、過去のハリージ・アルバムを聴きかえしブログ開設当時の思い出にふけっています。

 

そんななか、2021年6月のbunboniさんの記事でひさびさに「ハリージ」の文字を目にして、ちょっと小躍りしちゃったんですよね。バルキースというイエメン系UAE(アラブ首長国連邦)人歌手で、その2017年作『Arahenkom』もみごとなハリージ・アルバムです。17年というとハリージ・ブームが下火になりはじめていたころでしょうか。

 

バルキース本人でしょう、どうしてボクシング・グラブをはめているのか意味不明なジャケット写真はおいといて(意味不ジャケがたまにあるアラブ歌謡界)、中身の音楽は充実しています。ビートの効いたハリージ・ナンバーが中心ですが、ちょっと注目すべきはバラード系の充実です。

 

ハリージ・ナンバーでもサウンドが洗練されていて、ありがちな土着的泥くささは消えています。それが音楽の魅力を増すことにつながっていますよね。バラード系なら1曲目「Aboya Waheshni Geddan」、7「Hakeer Alshouq」、10「Yakfi」、12「Ajouk」。どれも歌える実力を持つバルキースのヴォーカルをきわだたせるメリハリの効いたアレンジで、みごとです。

 

特にバラードでありかつハリージ的でもあるっていうラスト12曲目は聴きもの。アルバム全体の音楽傾向を象徴する内容で、ハリージにしてやりすぎず、バラードにしてただのしっとり系でもないっていう、そのちょうどいい中間的な折衷具合はプロダクションの勝利でしょう。バルキースの歌も聴かせます。

 

もちろん2、3、4、5、6、10、12曲目あたりのダンサブルなハリージ・ナンバーも楽しくていいですね。もとがアラブ湾岸地域の大衆ダンスであるハリージですが、そのブームが去った背景には、激しい泥くささよりもジャジーに洗練されたスムースでおだやかな音楽が世界的に主流になってきたからということがあるかもしれません。

 

2017年リリースのバルキース本作を全体的に見渡すと、うっすらとかすかにではありますがそんなジャジー・ポップな世界的潮流が流れ込んでいるかのように聴こえる展開もあったりして、これなもんだからイビツなハリージが人気を長く維持できるわけなかったんだなあと納得できたりします。

 

ハリージ、たまに聴くと楽しいんですけどね。

 

(written 2021.12.18)

2021/10/28

トルコ風味の消えたジャジー・ポップスがいい 〜 カルスの新作EP

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(2 min read)

 

Karsu / Beste Zangers 2021

https://open.spotify.com/album/0qFVCrJsNtyBpCmriQ3QlN?si=lCGO-mTUQreBjay7ikFQew&dl_branch=1

 

きのう書いたトルコ系オランダ人歌手のカルス。ああ言っていたら、こないだ今年の新作が出たようです。四曲約15分というEPで、『Beste Zangers 2021』(2021)というタイトル。

 

今回は、きのう書いた2019年の前作『Karsu』と違い、トルコ風味はゼロ。全面的にジャジー・ポップスに専念した内容で、これですよ、これ、カルスはこういうもののほうが本来の持ち味を発揮できる歌手です。はたしてぼくの願いが通じたわけじゃありませんが、これは歓迎ですね。

 

出自がトルコ系で、しかも応援してくれているファンがトルコには大勢いるそうなので、そちら方向に配慮するというのは理解できるんですけども、自分の資質・持ち味を慎重に吟味検討して、こういったジャジー・ポップスを全面展開したEPを発表したのはいいことじゃないですか。

 

1曲目は軽いアクースティック・ギター・サウンドに導かれ、ふわりと歌いだすその導入部で、すでにいい雰囲気を出しています。演奏は生バンドでしょうね(っていうか、このEP、そもそもライヴ・アルバムか?)、オーガニックなサウンドで、それもカルスの持ち味にピッタリ。

 

2曲目は、なんだかちょっぴりガーシュウィンの「サマータイム」を思わせる曲で、しかもオペラっていうより、1920〜30年代あたりのレトロなジャズ・ソングふうっていう、なかなかムードのある一曲です。もりあがる箇所での声の張りかたにはややおおげさなところもありますが、従来的なジャズ・シンガー・スタイルでしょうね。

 

ちょっとヨーロッパ大陸っぽい感じの3曲目に続き、4曲目は軽いレゲエ調。前作にもレゲエ、ありましたね。カルスはレゲエ好きなのかもしれません。ここでは英語で歌っていて、バンドの演奏はレゲエ・ビートを使いながらもジャジーで、やはりカルスにはこういうのが似合います。

 

(written 2021.10.1)

2021/10/27

ちょっぴりトルコ風味なジャジー・ポップス 〜 カルス

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Karsu / Karsu

https://open.spotify.com/album/4tKiQFQ4j6fzMdoriugGvv?si=wptcaoNGQKyEIOVZqy6oJQ&dl_branch=1

 

両親ともにトルコ出身、アムステルダム生まれ&在住のトルコ系オランダ人というカルス(・ドメンズ)は、ジャズ・ポップのシンガー・ソングライター兼ピアニスト。2019年の『Karsu』でぼくは出会いましたが、そこまでにすでに三作のアルバムをリリースし、オランダ国内だけでなくトルコでも話題になっているみたいです。

 

アルバム『Karsu』では、1曲目が完璧なるジャズ・ナンバー。カルスは英語で歌っています。そういうのはほかにも数曲ありますが、1曲目がいちばんストレートにジャジーですね。と思ったら、これはほんのプレリュードに過ぎず、たったニ分程度で終わってしまい。

 

2曲目がなぜかのレゲエ。そりゃもう鮮明なレゲエで、どこもジャジーでなくターキッシュな要素もゼロという。中南米のリズムを使った曲がアルバム中ほかにもありますね。このようなことは、ジャズだとかオランダ、トルコといったことにかぎった話ではなく、ラテン・リズムは全世界に拡散していますので、特筆することでもないかと。

 

3曲目以後も、英語で歌うジャジーな曲とトルコ語のポップス(かすかにサナートふう)が交互に出てくるといった様子。カルスがピアノの腕前を発揮するといった場面はほとんどなし。ほぼヴォーカルに専念していると言えます。

 

そのヴォーカルにはかなりジャジーな味があって、さらにそこはかとなくトルコのサナート風味も、かすかにですけど、ただよっているのが出自を思わせるこの歌手の独自の持ち味ですね。ときおり強く激しく声を張り上げたりする場面もありますが、多くはスモーキーに仄暗くたたずんでいるといったムードで。

 

情報によれば、なんでもこのカルスの2019年最新作は、両親の出身地で自身のルーツにして、歌手としての自分を応援してくれているトルコのファンのために、そこに向けて、制作・発売されたものなんだそうで、それにしてはトルコ音楽風味が薄いかもなと思いますが、トルコ語でたくさん歌っているのはそういうわけだったんですね。

 

そんなせいなのか、あるいはまだ才能開花途上にあるからということなのか、やや中途半端な印象を受けないでもないこのアルバム『Karsu』。個人的にはトルコをそんなに意識せずに、ジャジー・ポップスに専念してみたらどれくらいの音楽が仕上がるかちょっと興味が湧く、おもしろい歌手です。

 

(written 2021.6.24)

2021/09/27

歴史に洗われた洗練 〜 アラトゥルカ・レコーズの新作

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(3 min read)

 

Alaturka Records / Seyir

https://open.spotify.com/album/0xfjkDwLeOo1waTCY9UhUR?si=ReE0URLTSB2mY1lROFqBHw&dl_branch=1

 

カラン配給、オスマン古典歌謡を21世紀に復興しているレーベル、アラトゥルカ・レコーズ(トルコ)の三作目にあたる新作『Seyir』(2021)は、今年六月にデジタル・リリースされたもの。そのときさっそく聴いてツイートしましたが、どこからも反応は皆無。

 

そこから約三ヶ月が経ってCDがエル・スールに入荷したということで、いまごろようやくちょっとブログにメモしておこうという気になりました。

 

今回は、歌い手のヴァラエティに富んでいた前二作と大きく異なり、単独の歌手一人をフィーチャーした内容。それがアイリン・センギュン・タシュチュ(Aylin Șengün Taşçi)。トルコ古典声楽界ではややベテラン寄りの中堅どころでしょうかね。

 

オスマン古典歌謡、大のお気に入りなんですが、21世紀に、現代演奏とはいえ古典をそのまま復興させただけの音楽のどこがそんなにいいのか?いまの時代に訴求力があるのか?みたいなことは、まったく考えたこともありません。ただ、聴けば気持ちいい、それだけです。

 

今回もアラトゥルカ・レコーズを主宰するウール・ウシュクが音楽監督を務めウードとチェロを弾いています。そのほかネイ、カーヌーン、ケマンチェ、レバブ、ヴァイオリン、チェロ、クラリネット、ダルブッカ、デフなど、オーソドックスな編成である模様。

 

それでもって、アイリン・センギュン・タシュチュのヴォーカルをフィーチャーし、20世紀初頭ごろのオスマン古典歌謡(トルコ共和国の成立は1924年)のSP音源を模範として再興しているわけです。3、10、13曲目には男声ヴォーカルも参加。

 

古典そのままといっても、しかし聴いているとなんだか新鮮な気持ちになってくることもたしかで、たぶんこういった音楽は時代の流れに関係なく、いつでも変わらぬ味わいを持ち魅力を放っている、決して古くも(新しくも)ならない、っていうことかもしれません。流行ポップ音楽じゃありませんからね。

 

しかもいまごろの晩夏〜初秋ごろにピッタリ似合う雰囲気を持っていて、日が暮れてからの夜、この音楽が鈴虫の鳴き声と混じったりなんかすると、も〜う最高なんですよ。優雅であり深みもありながら、みずみずしさを失わないアイリンの歌声も、この季節にまったくふさわしいものです。

 

オスマン古典歌謡はなんでも500年の歴史があるそうで、そんな長い時代の経過に洗われて洗練を重ねてきたコクのある味わいは、21世紀になっても不変であるということでしょうね。アラトゥルカ・レコーズがあるおかげで、現代の好音質でそれを聴くことができて、幸せのひとことです。

 

(written 2021.9.26)

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