カテゴリー「中東、マグレブ」の102件の記事

2023/06/15

再構築されたアラビアン・ラヴ・ソングズ 〜 ドゥドゥ・タッサ、ジョニー・グリーンウッド

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Dudu Tassa, Jonny Greenwood / Jarak Qaribak
https://open.spotify.com/album/4VZ3ydTxuI2WRIbo3yNLzb?si=VXwQqyyVRmOLfZ-eAeR5Lg

 

イラク系イスラエル人音楽家、ドゥドゥ・タッサのことも以前一度書きましたが、最新作『Jarak Qaribak』(2023)はジョニー・グリーンウッド(レイディオヘッドなど)とのコラボ作。とっても美しいアラブ音楽で大好きです。

 

ぼくはこれをSpotifyの新着案内プレイリスト『Release Rader』で発売当日に知って聴き、いいねと思って投稿もしたんですけど、翌日には前からドゥドゥに注目されている石田昌隆さんがしっかりツイートなさっていて、さすがだと思いました。やはりアラブ音楽をやるイスラエル人ということで。

 

アルバムの収録曲はすべてカヴァー。アラブ圏に存在するクラシカルなラヴ・ソングで、それを二名のコラボと生演奏バンドと一曲ごとに異なるさまざまな中東歌手たちっていうチームによって再構築したアルバム。ビートはジョニーによるドラム・マシンが使われています。

 

どの曲もトラック冒頭に曲名、歌手名、都市名を呼ぶ声が入っていますが、曲名と歌手名はトラックリストにも書かれてあるものの、どこの歌手かということはイマイチわかりにくいかもなので、一覧にしておきました。

 

1)エジプト
2)レバノン
3)パレスチナ
4)モロッコ
5)イラク
6)ドバイ
7)シリア
8)(ドゥドゥ自身)
9)チュニジア

 

二名のリーダーシップのもと集まったチームによる再構築手腕はきわめてみごとで、クロス・ボーダーな音楽作成の理想型ともいえるもの。サウンドは1970〜80年代的でありながら(この点ではやや時代遡及的な指向もうかがえる)、本質的にコンテンポラリーな音楽のありようを示しているなと思います。

 

個人的にいちばんのお気に入りは6曲目「Ahibak」。曲のメロディがステキだし、サウンドも、ノレるダンサブルなビートのつくりかたも美しく、さらにドバイ歌手サファ・エッサフィの哀感とリリカルさを濃厚にたたえたセクシーなヴォーカルもチャーミングで、もうぞっこん。

 

(written 2023.6.13)

2023/05/21

成熟して落ち着いてきたヒバ・タワジ、それでも完璧 〜『Baad Sneen』

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Hiba Tawaji / Baad Sneen
https://open.spotify.com/album/6GIUWZvRkFJyjgLwXak8Md?si=aKbyaCDaRYqyD1g0PuHA4g

 

ヒバ・タワジ(レバノン)の新作『Baad Sneen』(2023)がほぼまったく話題になっていないのは、やっぱりCDがまだないからですよね。そもそも出るのかどうなのか。サブスクなら問題ありませんが、ヒバをサブスクで聴くファンは日本にあまりいないでしょうし。

 

がしかしヒバやウサマ・ラハバーニ(プロデューサー)のTwitterを見ていてもわかるように、現地やアラビア語圏ではみんなどんどん楽しんでいますし、なんたってもう不足なく聴けるものを無視しているのは気持ちが健康ではありません、ぼくは。アラブ音楽はCD出さない方向に進んでいるのも事実。

 

ヒバみたいな強烈で濃厚な世界はこのところややトゥー・マッチで遠ざけるようになってはいるんですが、歌手として一流の実力を持った存在であるのは間違いないし、一度は惚れた(特に2017年の『30』で)弱みもあって、『Baad Sneen』もわりとよく聴いていますから、手短に感想を記しておきます。

 

強烈と書きましたが、それでも2023年という時代を意識してか、ややあっさりめに仕上げているようなところも見受けられるのが特徴でしょうか。濃厚に激しくグイグイ迫るばかりでなく、優しく軽くそっと置きにくるようなヴォーカルに、それでも旧来的ではあるのですが、コンテンポラリーなグローバル・ポップスを意識したような雰囲気も若干あります。

 

『30』でそこそこ聴けたジャジーな洗練と跳ねる無垢で明るいムードは今回ほぼ消えて、代わってちょっぴりダウナーな落ち着きをみせるようになっているのもポイントでしょう。レバノンの現況および、結婚、出産と人生の経験をたどり(それで制作・発売が当初より遅れたのかも)獲得した人間的円熟が歌に聴きとれるように思います。

 

大向こうをうならせるような高音部でのパフォーマンスもなくなりましたし、ヴォーカル表現がスムースで自然体に近づいてきているなという印象を持ちました。ウサマのサウンド・メイクは前から完成されていて変化ありませんから、実はそこもちょっとヒバの変化に合わせてすこし淡白系にしてくれていたらもっと好みにしあがったかも。

 

といってもですね、ラスト13曲目「Ossist Hob」なんかは完璧な大団円。デビューのころとなにも変わらない世界がここにはあって、曲想といい歌いかたといい、後半部〜エンディングにおけるミエを切るようなハイ・レジスターのスキャット飛翔といい、これなら納得でしょう。

 

(written 2023.5.18)

2023/05/18

新奇をてらわない王道のトルコ古典歌謡 〜 ヤプラック・サヤール

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(2 min read)

 

Yaprak Sayar / Klasikler
https://open.spotify.com/album/6phxKyFn5APQSqw3L02rE5?si=2CsFW5WfRpSP1qXpX5FNsA

 

アラトゥルカ・レコーズの一作目『Girizgâh』(2014)で知って好きになったトルコ古典歌謡の歌手、ヤプラック・サヤール。二作目『Meydan』(15)にも参加していましたが、続くソロ・デビュー・アルバム『Caz Musikisi』(18)はなんでかのスウィング・ジャズ・アレンジで、全員がずっこけたっていう。

 

レトロ・ジャズ流行の先取りだったわけでもなし、なんだったんでしょうね。本人のTwitterアカウントによく上がるふだんの演唱風景にそんなのはもちろんなく、当時から現在までたとえばサズ一本の伴奏とかでストレートに古典を歌っていますから、あのアルバムだけなんだかちょっとねえ。気合い入りすぎ?

 

でもこないだ出たばかりの最新アルバム『Klasikler』(2023)は新奇をてらわない王道の古典路線で、これはいいと思いました。今年はじめにもう一作あったんですが、そっちはトルコ民謡集。ですから『Klasikler』はキャリア通算三作目かな。でもって最高作になったかと思います。

 

今回ヤプラックの自作とクレジットされている曲も多いので、古典仕様でオリジナルを書いたということでしょうか。なかには年代の古いものもあるのかも。そのへん実はあまりわかりませんが、聴けばムードは瞭然、アラトゥルカ・レコーズで展開されていたのとまったく同じ世界がここにはあります。

 

個人的には、こうした音楽でたとえばカーヌーンなどがイントロでめくるめく旋律を奏でていたりするのが、たとえばアルジェリアのシャアビでマンドーラがやはりイントロなどできらびやかに弾きまくっているのと同じフィーリング。たいへん気持ちいいんですよね。

 

ヤプラックの声は以前からちっとも変わらないスモーキーな色気をたたえていて、哀感というより独特の屹立する気高さのようなものがあるなと感じます。きわめて少人数からなる室内楽バンドの伴奏をしたがえ、しっとりとトルコ古典をつづるのを聴くのは、たとえば日暮後などなら、なにものにもかえがたいリラックス・タイムになります。

 

(written 2023.5.6)

2023/03/21

これぞトルコ古典歌謡っていうエレガンス 〜 エフルゼ

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(1 min read)

 

Efruze / ASSOLİST Ⅱ MEŞK-İ MÜREN
https://open.spotify.com/album/2V9wSFcqVGq3V2Ef7PNfkX?si=lpzpcDSCTQGT2hPID7Sv4A

 

トルコ古典歌謡の若手歌手、エフルゼの最新作『ASSOLİST Ⅱ MEŞK-İ MÜREN』(2022)は、タイトルで察せられるとおりゼキ・ミュレンのレパートリーを歌ったもの。オスマン〜トルコ初期時代の曲たちが中心ですね。

 

個人的に特にグッとくるのが2、4、5、6、8、9曲目あたり。華麗だけどくどさのない典雅な少人数編成の演奏に乗せて、エフルゼがさっぱりとあとくちのいいさわやかなヴォーカルを聴かせているのがとってもステキです。いかにも古典的表現といったおもむき。

 

ゼキ・ミュレンのレパートリーを歌っていても、いっときのゼキが発していたアクの強いいやらしさはなく、こねくらないストレートで素直で淡々とした歌唱をつらぬいているのが好印象なんですよね。かねてよりこうした歌手が好きできて、近年ますます薄味好みに傾いている身には、まさにピッタリ。

 

伴奏の充実も本作では特筆すべき点です。ウード、カーヌーン、クラリネット、打楽器の響きを生かしたエレガントで抜けのいいサウンドは、まさにトルコ古典歌謡にぼくが求めているもの。なかでもカーヌーンの響きがひときわすばらしく印象に残りました。

 

(written 2023.2.12)

2023/01/27

インディゴ・ブルーな冬の哀感 〜 ディレク・チュルカン

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Dilek Türkan / Akşamı Süzme Deniz
https://open.spotify.com/album/33e0NgVrgNqypp8WzNlFdv?si=znvnJxQMSGCvqzUS1jNPrw

 

スチャラカさんのツイートで知りました。
https://twitter.com/xiu_chang_po/status/1613141544546226179

 

トルコの古典歌謡歌手ディレク・チュルカンのニュースを、2018年作『An』以来聞かなくなっていましたよね。それは2020年に知ったものでしたから、もう三年近く。しかし21年に新作が出ていました。

 

それが『Akşamı Süzme Deniz』(2021)。これも充実した内容で、納得のいくアルバムです。その後も新曲はちょこちょこ出しているみたいですけど、アルバムではこれが最新でしょうか。

 

一部界隈ではそこそこ人気のディレクなのに二年前のアルバムにだれもなにも言わずで。そりゃあねえ(ショップでもないのに)盤がないと口にすらしないというヘンタイ・オヤジが多いってことは知っていますけどもね。ぼくだってスチャラカさんが話題にするまで気づきませんでしたから。

 

ともあれ『Akşamı Süzme Deniz』。やはりオスマン〜トルコ初期時代の古典曲を、従来的な少人数の楽器編成で、じっくりと哀切を込めてしかしほとんど声も張らずに淡々と歌っているのがいい。もともと宮廷音楽だったので、これもやっぱりサロン・ミュージックってことなんですね。

 

適度なラテン・リズムの活用もこの世界は古くから得意とするところ。基本(西洋音楽でいうところの)マイナー・キーの曲が多いものの、メイジャーとマイナーを行き来したり、あるいはたとえば10曲目みたいにさわやかなフィーリングをたたえた明るいメイジャー・ナンバーもあって。

 

そういうのが流れてくると、インディゴ・ブルーな冬の哀感をただよわせるアルバム全体の曇り空にさっと陽光が差したかのようで、とってもいいですね。こういう世界はレトロとかどうとかいうんじゃなくて、何百年もずっとこんな姿を変わらず維持しているんです。

 

人間のいだく気持ちが太古でも2020年代でもなんら変わりないように。

 

(written 2023.1.20)

2022/11/29

ジャスティン・アダムズ produces スアド・マシ 〜『Sequana』

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Souad Massi / Sequana
https://open.spotify.com/album/64Uwr6ZmYrBNABToF47PRN?si=6u2kSRifT5ys3NgjFy-Y0Q

 

なんでこんなジャケットなのかだけがどうしても得心いかないスアド・マシ(アルジェリア/フランス)の最新作『Sequana』(2022)ですが、中身の音楽に風変わりなところはないばかりかいままでよりいっそう充実していて、安心して聴けます、ジャケを見なければ。

 

今回はかのジャスティン・アダムズがプロデュースということで、といってもそれは日本でCDを売るオフィス・サンビーニャの情報、Spotifyでクレジットを見たらスアド自身しか全曲のプロデューサー欄に名前がありません。どうなってんの。

 

もちろんサウンドを聴けば、ティナリウェンなどを手がけてきたジャスティンらしさがそこかしこにしっかり聴きとれるので、サンビーニャ情報に間違いはないはず。アルジェリアの音楽家は初めてかもしれませんね。

 

たとえばイタリア系イギリス人ピエール・ファッチーニをゲスト・ヴォーカリストにむかえた3曲目後半での回転する反復パターンなんかはやっぱり砂漠のブルーズを想起させるもので、こうしたものが好きなぼくにはうれしいところ。こういうのはいままでのスアドの音楽になかったものでしょう。

 

でもほかはほとんど従来の哀感強めなスアドの音楽が表現されていて、ジャスティンはこの音楽家の持ち味をそのまま活かすようにプロデュースしたんだなとわかります。ややフォーキーなシンガー・ソングライター然としたものもいままでどおりあって、今回哀感はいままでの民族ルーツ的、エクサイル的なものというより、コロナ時代ならではの不安や孤独へと向かっている模様。

 

シャアビ(アルジェリア大衆音楽)らしいものとか、アクースティック楽器を基本としながらも、なかにはハード・ロックばりにエレキ・ギターが強めの音で鳴るものも一個だけあったりして、なかなか多彩です。個人的には終盤の10曲目(ボサ・ノーヴァふう+ナイ)、11曲目(アクギ弾き語り)にグッとくるものがあります。

 

(written 2022.11.28)

2022/06/11

カビール・シャアビなシャンソン 〜 イディール

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(3 min read)

 

Idir / Ici et Ailleurs
https://open.spotify.com/album/5pFD8nwMcsalVTJp3fZQcd?si=EdigYfQyREuXCEPGxVebtQ

 

エル・スールのホーム・ページで見つけたイディールの最新作『Ici et Ailleurs』(2017)。2020年に新型コロナウィルス感染症で亡くなっていますので、結局これが遺作ということになっちゃいました。

 

見かけたジャケットがシブくていいな〜と感じて、さがして聴いてみたんですが、いいですよね、これ、かなりいい。イディールはアルジェリア出身カビール系の歌手で、長年フランスで活動しましたが、この遺作にはそんなキャリアが如実に反映されています。

 

歌われているのはシャンソンなどフランスの曲で、一曲ごとさまざまに豪華なフランス人歌手たちをゲストに迎えデュオで歌っています。なかにはシャルル・アズナヴールやアンリ・サルヴァドールといった大物もいたりして。

 

イディールも基本フランス語のままで歌っていますが、特筆すべきはやはりアレンジと伴奏サウンド。完璧なるカビール・シャアビのマナーでやっているんですよね。それこそがぼくにとってのこのアルバムの魅力。もう1曲目の出だしから鳴るマンドールのきらびやかな響きはどう聴いてもアラブ・アンダルース。

 

こういった作法でシャンソンなどフランス語の歌を料理したものというと、2014年にHKの『脱走兵たち』がありました。あれがたいへん好きでくりかえし聴いていたぼくの嗜好からしたら、同一傾向といえるイディールのこれもヘヴィロテ確実なんですね。

 

そもそもこの手のものってフランス発信で世界に出てきたに違いなく、いはゆるパリ発ワールド・ミュージックの一つとして(ライなどふくめ)アルジェリアのアラブ・アンダルースなシャアビが拡散されてきたわけです。じゃなかったらぼくに情報が届くわけないですから。

 

それらを担った全員がアルジェリアから来てフランスに住むようになった歌手たちで、フランスに住むがゆえシャンソンなどに触れる機会も多く、だったらじゃあそれを自分たちのやりかたでやってみようじゃないか、となるのは自然な成り行きだったでしょう。

 

だからHKもイディールもそんな在仏マグレブ移民文化の申し子なわけで、フランスの歌をフランス語のままで、しかしアラブ・アンダルースなシャアビ・マナーにリアレンジして自分たち流にやるっていうところに、移民なりの抵抗とアイデンティティの確認行為があるわけです。

 

イディールの本作は、しかもひときわ哀感やわびしさ、孤独感が強くにじむ音楽になっていて、特にフランス語ではなくカビール語に翻案して歌っている数曲なんか、北アフリカからの移民生活とはかくも厳しくつらいものなのかと、まるで二度と戻れない失われたルーツを絶望とともに想うといった味がします。

 

(written 2022.4.30)

2022/06/10

気軽に聴けるリラックス・ムードなアラブ古典器楽奏 〜 ジアード・ラハバーニ

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Ziad Rahbani / Bil Afrah
https://open.spotify.com/album/2srLQVOY35dvehNh8hSvbB?si=e_dWqhCnQP6GvyZkKwtZ5w

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-06-08

 

レバノン人歌手フェイルーズの子にしてピアノ奏者、コンポーザー、プロデューサーのジアード・ラハバーニが、まだ若かったころにリリースしたインスト・アルバム『Bil Afrah』(1977)。くつろげてとてもいいですよね。

 

アラブ古典器楽奏なんですけど、こういうとなんだか崇高で敷居が高くてちょっとね…、と敬遠しがちな向きもおありじゃないかと思います。しかしジアードの本作にそんな懸念は無用。庶民的なカフェ・ミュージックといった趣きで、とっつきやすいんです。約37分とサイズも手頃。

 

このアルバムの背景となっている社会的な問題については上でリンクしたbunboniさんの記事にすべて書かれてあるので、ぜひご一読くださいね。ちょっと聴いてみるだけのぶんにはその手のことは気にならず、まったく聴きやすく親しみやすいジャム・セッションで、ぼくもそういったところが気に入っています。

 

ジアード自身の曲や有名他作などとりまぜて、それをテーマにバンドが自由闊達に即興演奏をくりひろげる様子が、アルバムにはしっかり収められています。さらに親しみやすさと臨場感を演出しているのが、スタジオ現場での演奏中にやりとりされる人声です。

 

笑い声をあげたりはやしたてたりしゃべりかけたりハミングしたりなど、ナマナマしいともいえますが、ここでは演奏時のリラックス・ムードをうまく伝えることに成功していて、楽器演奏の格好のスパイスになっています。ジアード以下レコーディング・メンバーは緊張せずノビノビと楽しんでいて、まさしく自宅サロンでやっているような普段着姿のアラブ古典器楽奏といった趣き。

 

端正でかしこまった典雅なものが多いアラブ古典音楽世界においても、実は演奏者たちもこういったくつろげる日常を送っていたんだろう、スタジオでのレコーディング時は厳正なムードになるにしても、ふだんの自宅の部屋のなかではこんなリラクシング・ミュージックを奏でて家族や友人と談笑し楽しんでいたはずだ、といった想像をたくましくするのに十分なジアードの本作なのでした。

 

(written 2022.4.17)

2022/04/23

亡命者としてのアラブ・アンダルース・ジャズ 〜 アヌアール・カドゥール・シェリフ

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(3 min read)

 

Anouar Kaddour Chérif / Djawla
https://open.spotify.com/album/1ClG7ZPAWMZTUdLTwCG04T?si=zxyp7NDcTeyLi24v4YyHzQ

 

マンドール奏者のアヌアール・カドゥール・シェリフはアルジェリアでバンド・リーダーとして活躍してきた存在ですが、2019年に24歳でスイスへと亡命。その後三年目にしてリリースしたのが今回の新作『Djawla』(2022)です。インターナショナル・デビューとなりました。

 

いままでになかった、一種のアラブ・アンダルース・ジャズとでも呼べそうな内容になっていて、なかなかおもしろいと思います。アヌアールのマンドール以外はスイス人ミュージシャンでしょうか、バス・クラリネット、コントラバス、ドラムスという編成での演奏。

 

アラビック・ジャズというか、アラブ・アンダルース伝統に沿った曲づくりとマンドール演奏なのがわかりますが、それをコンテンポラリー・ジャズの語法でやっているというのはちょっとビックリですよね。聴いたことない音楽です。

 

たとえば5曲目「Sirocco」なんかでも、アヌアールのマンドール演奏はシャアビふうにアルジェリア音楽ルーツに則しながら、三人のバンド・アンサンブルは躍動的な現代ジャズそのもの。即興的演奏力も卓越しています。

 

どの曲もヨーロッパにおける亡命アルジェリア人という哀感と、日々の生活の厳しさから来るものであろう灰汁のようなフィーリングが強くにじみでていて、しかしそれが音楽にさほどのエッジをもたらさないのはやはりヨーロッパ人三名によるジャズ・マナーゆえかもしれません。

 

アップ・ビートの効いた8曲目「Vigule」はアラブ要素抜きの純正ジャズとして聴いてもすばらしい演奏で、アヌアールふくむバンドの四人でエモーショナルにもえあがり、ジャジーな意味ではアルバム中いちばん聴きごたえがあります。

 

続くラスト9曲目「Amiret Erriyam」では冒頭なぜか親指ピアノが聴こえますが、おそらくドラマーが演奏しているんでしょう。アヌアールはシャアビ・マナーな歌も披露しますが、そのあいだも伴奏はジャジー。ヴォーカルはほかにも使われている曲があります。

 

亡命者としての生活実感や心象風景がかなり鮮明に刻まれているようですが、ジャズ・バンドでそれを表現したいと思ったのはなぜだったんでしょうか。

 

(written 2022.4.21)

2022/04/02

マグレブ・ミクスチャー・バンド新世代 〜 ジマウィ・アフリカ

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Djmawi Africa / Amchi
https://open.spotify.com/album/7J6ff35PaiuIv3TFSkv0HQ?si=KRfW7rTrQey-h16EuLN_Ug

 

bunboniさんのブログで知りました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-12-10

 

ジマウィ・アフリカは2004年結成、アルジェリアのマグレブ系ミクスチャー・バンド。グナーワとロックをミックスさせるだけでなく、シャアビやレゲエもあったりして、そういうところ、往時のグナーワ・ディフュジオンを連想させますね(いまどうしてんの?アマジーグ?)

 

最新作『Amchi』(2021)でぼくが最も感じ入ったのはラスト11曲目。まずゲンブリ独奏が出て、いきなり強烈にグナーワを香らせますが、すぐにドラム・セットが入りホーン・セクションも鳴りはじめるっていう。そうなってからはバルカン音楽を色濃く連想させる内容になって、グナーワとバルカンを往復するように進みます。

 

しかしそれがいったん落ち着いた曲後半にはふたたびゲンブリ・パートがあって、ヴォーカルのコール&レスポンスでグナーワっぽくなるんですね。その直前にはなぜかフィドルもからんでいるし、最後にファズの効いたエレキ・ギターがぎゅ〜んとロックっぽく鳴って、再度のバルカン&グナーワ・ミックスでフェイド・アウトするという具合。

 

なんだかワケわかりませんよね。こうした多彩な音楽性のミクスチャーこそがこのバンドの持ち味で、なんだかんだいってマグレブ伝統音楽にしっかり根ざしていたオルケストル・ナシオナル・ドゥ・バルベス(ONB)やグナーワ・ディフュジオンら1990年代バンドと比較すれば、新世代らしさがよくわかります。

 

アルバムのなかには6/8拍子でフィドルが演奏し、アイルランド伝統音楽のジグとしか思えない曲もあったりしますが(5)、北アフリカ音楽とケルト音楽の類縁性は仮説として前からこのブログで唱えているところ。

 

古代ローマ拡大とキリスト教普及以前のヨーロッパにケルト民族はひろく住んでいたし、そのうえ欧州大陸南岸とアフリカ大陸北岸はたった地中海をはさむだけの近距離なんですから、文化交流は人類史と同じくらい古くから活発だったと考えるのが自然でしょう。

 

また、ハレドっぽいライの濃厚なこぶしまわしを聴かせるヴォーカリストが活躍する曲もあって、多種の楽器を駆使してさまざまなヴォーカルを聴かせる演奏能力の高さもこのバンドの魅力ですね。

 

(written 2022.3.31)

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