カテゴリー「レイヴェイ」の7件の記事

2022/10/30

Laufey & Sinfó

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(4 min read)

 

※ 写真はいずれも本人の公式Instagramより

 

去る10月26、27日、故郷アイスランドのハルパ・レイキャヴィク・コンサート・ホールでアイスランド交響楽団との共演コンサートを開催し成功させたレイヴェイ(在ロス・アンジェルス)。大規模シンフォニック・オーケストラとのライヴはレイヴェイにとって初めてのことでした。

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本人のInstagramストーリーにその模様がサウンドつきであがっていたので、ぼくも楽しみました。でも部分的だったので。配信でもフィジカルでもいいからフルの作品として公式リリースしないのかな。本人も気持ちの入ったメモリアルなコンサートだったようですから、ぜひ作品化してほしいですよね。

 

でもぱっとインスタ、それも他人の投稿をシェアするかたちでストーリーにあげちゃって(当面は)それでおしまい、24時間で消えちゃう、っていうのがいかにもいまどきというかZ世代らしいですよ。さすがにオフィシャルで実況録音くらいしただろうと思うんですけども。

 

いままでレイヴェイがオーケストラと共演したものというと、もちろんライヴじゃありませんが、2021年のシングル「Let You Break My Heart Again」一曲だけ。ふだん強調しているように、このところのレトロ・ポップスは少人数でのサロン・ミュージックふうなこじんまりした陰キャな音楽という部分にも特色がありましたし。

 

ぼくのなかではそんな近年レトロ・トレンドの象徴みたいな存在であるレイヴェイは、しかしクラシック音楽の素養も色濃くあって、なにしろバークリー音楽大学卒ですし、ふだんから管弦楽などもどんどん聴いている様子がInstagramにあがっています。中国系の母と祖父はクラシックのヴァイオリニストですから。

 

それに以前も言いましたが、レイヴェイの書く曲はティン・パン・アリー系のものにそっくり。なにか天賦の才だろうと思うほどクラシカルで、そんな世界にはもともとオーケストラ伴奏が似合います。西洋近代音楽からの影響も強くあって成立した音楽なわけですし。

 

DAWアプリを駆使するベッドルーム・ポップみたいに展開されてきたいままでのレイヴェイも、その曲じたいはオーケストラ伴奏で歌うのに向いたクォリティをハナから持っていたものともいえて、2021年のデビュー時にはまだインディーだったし予算レスで、だから宅録や弾き語りをやっていただけだったのかも。

 

どっちでやってもきれいに映えるのがクラシカルな美しさを持つレイヴェイ・ソング。いままでずっと室内楽的に料理されているの(しかリリースされてこなかったわけですし)ばかり聴いてきて、それで個人的にレイヴェイにはまり、ピアノやギターでのソロ弾き語りなんか絶品だと思うほど。

 

でも大規模管弦楽との共演で、この曲やあの曲がどんな感じになるか、とっても興味があります。今年に入ったくらいから昇龍の勢いに乗っている音楽家ですし、録音されたに違いないとぼくは思うアイスランド交響楽団とのこないだの共演コンサートが一日もはやく公式作品としてリリースされますようにと願うばかり。

 

できればライヴにも行きたい。来日しないのならこっちが出かけていきたいと思うほど、レイヴェイが好き。

 

(written 2022.10.29)

2022/09/27

美しい、あまりにも美しい、レイヴェイのアンプラグド弾き語り 〜『ザ・レイキャヴィク・セッションズ』

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(4 min read)

 

Laufey / The Reykjavík Sessions
https://open.spotify.com/album/2TJvQ6w1v1rcabWhhNBDWS?si=I1LjtmJuRbKYPFbOOpCESQ

 

数日前にリリースされたばかり『ザ・レイキャヴィク・セッションズ』(2022)っていうのは、たぶん今夏レイヴェイ(米LA在住)は故郷アイスランドの首都にちょっと帰っていたんですよね。デビュー・アルバムが出た八月あたり。そのときホーム・セッションみたいにピアノやギターで自分の曲を弾き語り録音したんでしょう。

 

この22分ほどのニューEPがですね、も〜うホント、いままでのレイヴェイの全音源、といってもちょっとしかないんだけどまだ、のなかでも最高にぼく好みでアット・ホームなファミリアー&ロンリネス感で、こんなにもすてきな音楽、この世のどこにもなかった、いままでの人生で出会ったなかでNo.1じゃないのか、といまは言いたい。

 

収録の全六曲はいずれも過去に発表済みレパートリーのセルフ・カヴァー。でも既発ヴァージョンよりここでのソロ・アクースティック弾き語りのほうがはるかにいいと思えます。お得意のDAWアプリは使っておらず、生演唱ワン・テイクでの収録で、そもそもアナログ感の強い音楽家だったしはじめから。

 

個人的には、ギターもの(2、3、4)も抜群だけどクラシカルなピアノもの(1、5、6)がよりすばらしいと感じます。そしてどれもまさにこう解釈されるために生まれてきたっていう曲本来の姿をしていて、ここに「決定版レイヴェイ」みたいなものができあがっちゃったなあとの感を強くします。

 

サウンドがナマナマしく、まるで同じ部屋のなかで仲のいい親友に聴かせるようにそっとソフトにつつましくやっているような、そんな音響も最高にすばらしい。息づかいまで手にとるようにわかる極上音質なのが、そうでなくたってインティミットなレイヴェイの音楽性をいっそうきわだたせています。

 

どんな細部までもフェザーでデリケートな配慮と神経が行き届いていて、声の出しかたもそうならピアノ鍵盤やギター弦に触れる指先の動きの微細な隅々にいたるまでコントロールしているレイヴェイの、さらりとナチュラル&ナイーヴにやっているようでいながら実は高い技巧に裏打ちされたミュージシャンシップも伝わってきます。

 

それなのに緊張感が張り詰めたようではなく、故郷でくつろいでイージー&カジュアルにさらりあっさりとやってみただけっていうようなムード満点なのが、っていうか実際そうだったんだろうし、それがかえってこの音楽家の真価を表現しているよう。

 

ラフ・スケッチなのにつくりこんだようにていねいで、臆病だけど大胆だっていう、そんな相反する二重要素が同居している『ザ・レイキャヴィク・セッションズ』、アンプラグドなピアノ or ギターのライヴ弾き語りというフォーマットが、もとからいいレイヴェイの曲の美しさを極上シルクのような肌あたりにまで高めていると聴こえます。

 

いまはもうこれだけあれば生きていけるんじゃないか、なんだったら聴きながら死んでもいいっていうほど、好き。

 

(written 2022.9.25)

2022/09/06

仄暗くひそやかに 〜 レイヴェイ

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(3 min read)

 

Laufey / Everything I Know About Love
https://open.spotify.com/album/3t4SFDwWJlt7A3RQS2YT1c?si=L5KGDeNdRtWOal3PCWhOqQ

 

お気に入りシンガー・ソングライター、レイヴェイ(アイスランド出身在USA)。以前のアナウンスどおり最初のフル・アルバム『エヴリシング・アイ・ノウ・アバウト・ラヴ』(2022)が出ています。先行EPの段階で言いたいことは書いたのでもうなにもないかと思いましたが、聴いていたらやっぱちょっと手短にメモしておきたくなりました。

 

7曲目でフランク・レッサーの「アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォー」をカヴァーしていますが、それ以外はすべて自作か共作。グレイト・アメリカン・ソングブック系のクラシカルでドリーミーなポップ・ソングを書くレイヴェイの能力は天才的で、そういったところにもぼくはすっかり惚れちゃっています。

 

あちこち見ていると本人には欲みたいなものがないように思え、ただひたすら自分の好きな世界を自分好みにつづっているだけだっていう、そんな個人的でプライベイトな日常感覚をたたえているのも特色。(まるで十人並みみたいに一瞬思えてしまう)身近でインティミットなフィーリングでつらぬかれていますよね。

 

ちょっと前まで(いまでも?)ティン・パン・アリーなスタンダード、っぽい曲は大編成オーケストラを伴奏につけることも多かったと思うんですが、そうした野外とか大ホールを思わせるムードから、こじんまりしたサロン・ミュージックへと趣向をチェンジしているのもレイヴェイ的っていうか、これは現代の若手の多くに共通しているトレンドですけど。

 

低音域を中心に落ち着いて仄暗くややハスキーに歌うレイヴェイのヴォーカル・スタイルだって、ちょっぴりチェット・ベイカーを思わせる退廃感もあって、あ、8曲目のタイトルが「ジャスト・ライク・チェット」ですが、そういえばInstagramではチェット・ベイカー(その他)の作品にときおり言及しているのでした。

 

あきらかにあのへんがレイヴェイの音楽的インスピレイション源に違いありません。本作では広がりと密室性を同時に香らせている音響もすばらしく、この歌手を聴いているとまるでぼくのためだけに歌ってくれているんじゃないかというひそやかな夢見心地に落ちて、気持ちいいんですよね。

 

(written 2022.8.31)

2022/08/17

レトロこそコンテンポラリーだ 〜 いつも曇り空レイヴェイのニューEP

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Laufey / Falling Behind
https://open.spotify.com/album/47ikRYlLNytQQxCBXzCQrQ?si=6p_qj6vkQiu46Ew6DxSnfA

 

お気に入りシンガー・ソングライター(ギター、チェロ、ピアノなど)のレイヴェイ(アイスランド出身、在アメリカ)、なにかあたらしいEPが出ていますね。『フォーリング・ビハインド』(2022)。たった五曲17分ではありますが、楽しいので、ちょこっとメモしておきます。

 

調べてみたところ、これはどうもレイヴェイ初のフル・アルバム『Everything I Know About Love』が今月26日にリリースされる、その先行露払い的な意味合いのものみたいです。CDとかフィジカル・リリースもあるんですかね?日本でも出る?ぼくはグローバルなサブスクで聴くけれども。

 

レイヴェイ(Laufeyでこう読む)については、以前最初のミニ・アルバム、というかEPなんですけど『ティピカル・オヴ・ミー』(2021)が出たときに聴いて、骨抜きにされちゃって、記事にもしました。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/05/post-42cbf3.html

 

これはデジタル・リリースだけでフィジカルがなく、配信だってインディというか個人でのもので、だから一部好事家のあいだでしか話題にならなかったような記憶があります。でもゆっくりちょっとづつファンが増えつつあるぞというのがぼくの手ごたえとしても確実にあります。

 

個人的にはジャズというより「レトロ・ポップス」の枠でレイヴェイのことは扱っていて、実際ブログではそのカテゴリーに分類してありますが、まさにこれこそレイヴェイの資質をぴったり言い当てたものに違いないと確信しておりますね。2020年代の新人なのに、やっているのは1950〜60年代スタイルのアメリカン・ジャジー・ポップスなんですから。

 

「あのころの音楽」に対する憧憬みたいなフィーリングがいはゆるZ世代(レイヴェイは23歳)にはあって、物心ついたときにはスマートフォンでのどこでもネット常時接続があたりまえだったから、そういうものがなにもなかった、みんながつながっていなかったあの時代への眼差しにマジな切実さがこもるんだろうな、自分たちの時代では不可能な、失われたなにかを求めて、ということだろうとぼくはみています。

 

そういった感覚がいまは現代的なんですから、「レトロこそコンテンポラリー」なんだという言いかただってできると思いますね。オールド・ファッションドこそ最先鋭トレンドだっていうか。

 

レイヴェイのばあいインドアもインドア、室内楽的というもおろか、完璧陰キャなベッドルーム・ポップ的密室性もあって、パソコンで使う音楽制作アプリが充実するようになったからこそですが、インティミットな仄暗さが音楽にただよっているのも個人的にはグッド・ポイント。

 

声じたいが低音域寄りで暗さがあってこもったようなクォリティですから(書くメロディ・ラインもそう)、それでもって今回のEP『フォーリング・ビハインド』も、うまくいかない内気で怯弱で引っ込み思案な引きこもりの恋愛模様を描いているのはいままでどおり。レイヴェイのサウンドスケープはいつも曇り空っていうか、底抜けの青空なんてないですよね。

 

それでも今回はボサ・ノーヴァ調のものが二曲あって、特に1曲目のタイトル・ナンバーには、歌詞はやっぱりあれだけど、メロディやリズムにはやや陽光がさしたようなフィーリングもあります。本人が「サマー・アンセム」と言っているとおり、真夏にあって、それでも自分ひとりだけイマイチ乗り切れない切ないフィーリングをうまくつづっていますよね。

 

さて、8月26日にはこれらをふくむフル・アルバムが出るということなんですが、それでこの音楽家の知名度と人気がおおきく上がるでしょうか。CD出るかな?紙の雑誌など音楽ジャーナリズムはいまだフィジカル・リリースがないと取材しないし記事にすらしないっていうような時代錯誤なので(だからもうあきれて買わなくなった)すが、そんな層にも届くようになればレイヴェイの真価と魅力がもっと伝わると思うんですけどね〜。

 

(written 2022.8.16)

2022/03/08

耳残りする声とメロディ・ライン 〜 ザ・レイヴェイ・コレクション

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(2 min read)

 

Laufey / the laufey collection
https://open.spotify.com/playlist/1kDH8b5ySZElFUTiErRk1A?si=914f375fe904418d

 

いとしきレイヴェイが、いままでにリリースした全曲を本人みずから一個のプレイリストにまとめてくれました。それが上でリンクした『ザ・レイヴェイ・コレクション』。収録されている曲は2020〜22年発表で、この中国系アイスランド人歌手(アメリカ在住)はデビューして二年しか経っていません。

 

レイヴェイはフィジカルをまったくリリースしないという新時代の若手音楽家で、どんな曲も配信とInstagramに載せるだけなんですけど、いまのぼくにはそれでなんの不自由もありません。出会うべくして出会ったという感じでしょうか。

 

とにかくこのプレイリストで現時点では「ぜんぶ」なんで、レイヴェイってだれ?どんな曲を書きどんな声で歌うの?どんな音楽?ってことは、これを聴けば全貌がわかります。

 

多くの曲でサーッていうテープ・ヒスっぽいのとかプチプチっていうアナログ・レコードを再生する針音みたいなのが入っていますよね。もちろんレトロなムードをよそおってわざわざ入れているわけです。

 

そういった、たぶん1950年代あたりの音楽文化への眼差しがレイヴェイの音楽には間違いなくあって、そのころのジャズやジャズ・ヴォーカルもの、ジャジーなポップ・ソングへの憧憬みたいなものにそれとなくふんわり付きあいながら自分の音楽をつくっているんだなと、聴いていて思います。

 

曲のなかには聴き終えてもいつまでも耳のなかに残り、ふとしたときに、朝起きたときとか夢のなかですら、脳内で再生されているっていうような、そんな印象的でチャーミングなメロディ・ラインを持っているものがあって、ソングライターとして魔力的。

 

さらにこのちょっぴり仄暗い、低くたなびくようなふたつとないアルト・ヴォイスがなんともいえない切なさをかもしだしていて、こういった種類の音楽へのレトロな視線をムーディにかきたててくれています。

 

(written 2022.3.6)

2021/08/18

ハート・メルティングなレイヴェイの新曲にぞっこん

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(3 min read)

 

Laufey / Let You Break My Heart Again

https://open.spotify.com/album/2yKcJB2QkNyogIyDY96pu4?si=rKR7BlKfShqkuwUYqBHmRQ&dl_branch=1

 

以前五月にとりあげたレイヴェイ。レイキャビク出身の中国系アイスランド人で、現在は米ボストンのバークリー音楽大学に在籍中のジャズ系シンガー・ソングライターです。ほんとうにすばらしい声なんですよねえ。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/05/post-42cbf3.html

 

そんなレイヴェイの新曲が8月13日に出ました。「レット・ユー・ブレイク・マイ・ハート・アゲン」。やはり自作曲ながら、今作はフィルハーモニア・オーケストラとの共演になっていて、瀟洒に攻めるレイヴェイに、もはや心がとろけてしまいそう。

 

YouTubeでもこの曲はオフィシャルに聴けるんで、そちらのほうがいいというかたがたにはぜひそちらでお聴きいただきたいと思います。そっちには各種クレジット関係もしっかり記載されているのでいいかも。
https://www.youtube.com/watch?v=NLphEFOyoqM

 

とにかくですね、このレイヴェイの書いた曲とヴォーカルと、それからたおやかな管弦楽のサウンドが、もうこりゃたまらん!ほど美しいじゃないですか。こんなにもきれいな曲、それも2021年の新曲としては、ほかにないんじゃないですか。すくなくともぼくが出会ったなかでは今年No.1に美しい曲です。

 

しかし曲題でもわかりますし歌詞をしっかり聴けば、これはロスト・ラヴの歌なんですよね。つらく苦しく哀しい内容の歌で、それをこんなにもやわらかくしなやかなメロディでつづることのできるレイヴェイのソングライティング能力には感嘆の声しか出ませんね。

 

ギターやチェロも弾きながら歌うヴォーカルも、この歌手ならではの独自の仄暗さというか落ち着きがあって、歌の内容やメロディの美しさをきわだたせています。+イアイン・ファリントンがアレンジしたフィルハーモニア・オーケストラのおだやかで美しい響きも、まるでちょっとガーシュウィンの作品を想わせるできばえで、みごと。

 

レイヴェイは、まるでちょうど100年くらい前ごろのティン・パン・アリーの歌の世界を2021年によみがえらせてくれているかのようですよ。ああいった大作曲家たちの書いたラヴ・ソングの数々と比べても遜色ない、現代においては比類なきシンガー・ソングライターだと言えます。

 

(written 2021.8.17)

2021/05/26

レイヴェイに夢中

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(5 min read)

 

Laufey / Typical of Me

https://open.spotify.com/album/1ZSqGiN0icYQ9AjMRCAiRo?si=6CkkSLCQRySDwxW3DZTj2w

 

惚れちゃったぁ。

 

レイキャビク出身、中国系アイスランド人で、現在は米ボストンを拠点にしているレイヴェイ(Laufey)。本人のTwitterプロフィールに名前の発音が書いてあるのに従ってレイヴェイと書きました。ボストンにいるのはバークリー音楽大学に在籍中だからですね。
https://twitter.com/laufeylin

 

幼いころからクラシックや古いジャズに親しみながら育ったらしく、やがてそうした伝統的な音楽性と新世代ならではの感覚をうまく融合させた独自の世界を育みたいと願うようになり、それでバークリー音楽大学へ進んでいるようですよ。

 

そんなレイヴェイが四月末にリリースしたデビューEP『ティピカル・オヴ・ミー』(2021)は、COVID-19感染流行によるロックダウンのさなか、自室での簡素な環境でコツコツ宅録されたものらしく、たしかにベッドルーム・ポップっぽいアンニュイさというか退廃感もただよっているかもしれません。

 

がしかし、このアルバムで聴けるレイヴェイの音楽は、基本、ラウンジ・ミュージック的なヴィンテージ・ジャズ・ポップスですね。それも落ち着いたやや低めのトーンで、淡くささやくようでありながら、しっかりと、スウィートに、そしてやや仄暗く歌うしっとり系の歌手で、まるで往年のエラ・フィッツジェラルドのよう。

 

『ティピカル・オヴ・ミー』収録の七曲は、スタンダードの4曲目「アイ・ウィッシュ・ユー・ラヴ」を除き、すべてレイヴェイのオリジナル。自身のヴォーカルに、演奏もギター、ピアノ、チェロをこなす彼女自身の多重録音によるもので、あとはビートなど足しているのはDAWアプリを使っているんでしょう。

 

ヴォーカルにはジャジーなだけでなくソウルフルな味もあって、かすかにR&Bテイストなサウンド・メイクが聴かれるのは、いかにもいまどきのシンガー・ソングライターらしいところ。1曲目「ストリート・バイ・ストリート」でアナログ・レコードを再生するプチ音を挿入しているのは、自身のレトロな音楽志向でしょう。

 

その「ストリート・バイ・ストリート」一曲を聴くだけでぼくは完璧にレイヴェイにはまってしまったわけですが、出だし、ギターをぽろんと鳴らしながらしゃべるように歌っているかと思いきや、フィンガー・スナップ音の反復と自身の多重録音ヴォーカル・コーラスやピアノが入りリズミカルになって、デジタル・ビートが効きはじめたら、もう夢中。

 

低くたなびくような声質や歌いかた、しっかりした発声やノビ、ハリがあるちゃんとしたシンガーなんだとわかるのもポイント高し。いろんな歌手がやっているスタンダードの4曲目「アイ・ウィッシュ・ユー・ラヴ」はちょっぴりボサ・ノーヴァ・スタイルで。しかもそのビートをチェロのピチカートで演奏しているっていう。

 

あ、そうそう、3曲目「ライク・ザ・ムーヴィーズ」でだけホーン・アンサンブルやトランペット・オブリガートなど聴こえますが、バークリーの友人たちが参加しているんでしょうか。ほかはどれもレイヴェイの宅録ひとり多重録音だと思います。

 

自作曲は、どれもヴィンテージなジャジー・ポップス路線の、ちょっとキュートでセンティメンタル、ポップでスウィートなフィーリング。アレンジも実にシンプルで、どの曲も音数かなり少なめ、余分な要素はいっさいなしだけど、決して簡素とかテキトーということはなく、細部までかなり凝ってていねいにつくり込まれているのが、聴くとよくわかります。

 

曲もチャーミングだし、伴奏をつけるどの楽器も実にうまいし、それになんたってこのヴォーカル・トーンですね、惚れちゃったのは。不思議な吸引力を持ったデリケートなアダルト・ヴォイスで、聴いていてくつろげる魅力を持った、新世代にはまれな落ち着いた声質の歌手じゃないでしょうか。

 

たったの21分間。こんなに気持ちいいんだから、早く45分くらいのフル・アルバムでたっぷり聴いてみたいな。ビッグ・バンドやオーケストラを伴っても映えそうな資質の持ち主ですね。

 

そんなにも魅力的なレイヴェイの『ティピカル・オヴ・ミー』、レコードやCDといったフィジカルはありません。ダウンロードかストリーミングでどうぞ。YouTubeにも全曲あります。

 

(written 2021.5.25)

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