カテゴリー「レイヴェイ」の15件の記事

2023/09/12

レイヴェイの闊達自在なレトロ・ポップ・ワールド 〜 新作『ビウィッチト』

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(4 min read)

 

Laufey / Bewitched

https://open.spotify.com/album/1rpCHilZQkw84A3Y9czvMO?si=tXKi6AalTbCVDx2RDSdrYw

 

愛するレイヴェイの新作『Bewitched』(2023)が9/8に出たばかりですが、それにしてもかなりのリリース・ペースですよねえ。ファースト・アルバムが昨夏で、一ヶ月後に『The Reykjavík Sessions』があり、秋にやったフル・オーケストラとの共演ライヴが今年初めに出て、九月にはもう新作ですよ。

 

ともあれ『ビウィッチト』はかなり注目されていて、フィジカルがまだなのにサブスクで大ヒット街道を爆進中。本人も大活躍しているし、二年前にデビューEPをインディでリリースしたころほとんど話題にならなかったことから考えたらもうまるで別世界の住人みたいですよ。

 

今作は全体的にかなりクラシカルなテイストの強いレトロ・ポップに仕上がっていて、曲はスタンダードの「ミスティ」を除きやはり自作。それがまったくグレイト・アメリカン・ソングブックの世界そのまんまっていうか、この手のものを書かせたらレイヴェイ以上の存在はいないだろうと確信できるほどですよ。ある種異常な才能と思えるくらい。

 

1950年代ごろの〜〜シスターズ的な世界を模した1曲目「Dreamer」は、こんなふくよかな女性ヴォーカル・コーラスをいままでレイヴェイは使ったことないだけに、新しい世界だなとやや驚きます。もちろん音楽的には完璧にレトロなおなじみのもの。コーラスは一人多重録音かも。

 

個人的に特にぐっときたのが3「Haunted」。ボサ・ノーヴァながらクラシカルなサウンドを持っていて、自身がギターで弾くヴォイシングはジョアン・ジルベルト直系だと思わせます。ビートが入ってきてからがなんとも心地よくて、これ最高だなあ。

 

全体にレトロ・ジャズ・ポップがならぶなか、なぜか6「Lovesick」だけはロック・チューン。これもいままでのレイヴェイにはなかったチャレンジです。しかしこれとてコンテンポラリーではなく、ビートルズとかビーチ・ボーイズを思わせる1960年代風味満載の一曲ですけどね。だからレトロ・ロックというべきか。

 

インタールードとしてはさまれているピアノ・ソロ・インストの9曲目も立派なできばえで、その後はシングルで先行リリースされていたものが続きます。そしてラストのタイトル曲「Bewitched」。間違いなくこれが本作の白眉といえるすばらしさ。

 

オーケストラ・サウンドによるイントロに続きそれがすっと消えレイヴェイ一人でのギター弾き語りでぽつぽつと歌いはじめる瞬間のクワイエットな美しさは、なんとも筆舌に尽くしがいものがあり。曲メロもきれいだし、みごとな一曲ですね。

 

昨年まではベッドルーム・ポップっぽいDAWアプリ駆使での作り込みサウンドが中心でしたが、人気歌手となったことでふんだんに演奏バンドやオーケストラを使えるようになって、もともと本人のあたまのなかで鳴っている音楽を自在にアナログで表現できるようになったのも、本作ではとても大きいことです。

 

(written 2023.9.12)

2023/05/29

ライト・タッチな片想い 〜 レイヴェイ

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Laufey / From the Start
https://open.spotify.com/album/1BOZNMzXTIkz8nUfGCxfpe?si=f0Vny0d_QOWqQY_GUO1s2A

 

愛するレイヴェイの新曲「From the Start」(2023)がリリースされたということで、いくらファンだからって一曲出るたびに話題にしていたらキリないじゃ〜んって感じなんですけども、こりゃまたとってもいい歌だし、周辺にも話題続出なんで、ちょっと書いておきます。

 

周辺の話題とは、まずなんたって六月にアジア〜オーストラリア・ツアーをやるってこと。そのなかには東京公演もあるんですね。たったワン・ナイトのソロ弾き語りですけど、ブルーノート東京のチケットがはやくにソールド・アウトしちゃって、ぼくなんか指をくわえてくやしがっているばかり。まぁ東京は遠いし。

 

いつのまに日本でもそんな人気歌手になったんだっけレイヴェイって。二年前最初にブログでとりあげたころは知るひとぞ知るという存在でしかなかったけど、うれしい。基本サブスク&ダウンロードのみで、おまけ的にヴァイナルを出すこともたまにあるかなというスタイルの存在がここまでになっているというのは、やっぱり時代が変わりました。

 

新曲「フロム・ザ・スタート」は、そんな来日公演6.5に向けてのおみやげっていうか、これ聴いて待っててね!って感じのシングルでもあるでしょうね、ぼくらにとっては。いままでレイヴェイにいくつもあったライト・タッチのボッサ・ポップスで、キュートで洗練された黄金律メロディ。お得意のやつ。

 

そんな古風な、つまりレトロなサウンドに乗せて切ない片想いを楽しそうにつづっていて、親友に恋をしてしまっているけれど、その親友はほかのだれかに恋をしているというストーリー。その相手っていうのが、いつもだけどレイヴェイのばあい、像を結びませんよね。

 

そもそも “you” の性別すらもはっきりしないし、恋の姿が漠然としていて、深刻で重たい感じだってちっともなし。サウンド同様に歌詞の世界観もライトっていうか、そんなところ、いかにもいまどきZ世代っぽいっていうか。

 

録音されリリースもされた昨秋のアイスランド交響楽団との共演コンサート at レイキャヴィクに続き、今年九月にはワシントンD.C.でロス・アンジェルス交響楽団と共演するという告知もありました(すでに売り切れ)。スタジオ・レコーディングによる新作も準備中と受けとめられなくもないアナウンスもあって、いいね調子いいレイヴェイ。

 

エヴァーグリーンでありながら現代的でポップな遊び心もある初夏っぽい「フロム・ザ・スタート」、東京で歌ってくれるかもしれません。ぼくは行けないんだけど。

 

(written 2023.5.26)

2023/03/05

驚くべき才能 〜 レイヴェイ『A Night at the Symphony』

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Laufey, Iceland Symphony Orchestra / A Night at the Symphony
https://open.spotify.com/album/0ONGXnqkOl98GYJy619wqn?si=fQE7UMsFQvah1xhtFh2CNg

 

予定どおり3月2日に日付が変わったらリリースされたレイヴェイ期待のニュー・アルバム『A Night at the Symphony』(2023)。昨年10月26、27日、故郷レイキャヴィクのハルパ・コンサート・ホールで開催されたアイスランド交響楽団との共演コンサートから収録したもの。

 

一曲「ヴァレンタイン」だけ先行で聴けていましたが、アルバム全体を楽しめるようになってみると、予想していたよりもずっと極上の内容で、オーケストラの演奏もたいへんに美しく、もともと線の細いレイヴェイのヴォーカルはだからかすかに心配もあったのがぜんぜんしっかりしていて、これなら文句なしです。

 

いまのところ配信しかないのでくわしいデータがいっさい不明ですが(発信してくれないか?>レイヴェイ)、だれがオーケストラ用の管弦打アレンジを書いたのか、とってもすばらしいだけに、おおいに気になるところです。ロマン派ふうのゴージャスな響きに聴こえます。

 

あるいはひょっとしてそれもレイヴェイ自身のペンだったという可能性がほんのりあるような、かすかな情報の断片を組み合わせるとそんな気がしているんです。去年秋のコンサート直前で公式Instagramに上がっていた数々の写真のなかには、自身が総譜を手にとりそんな様子を見せているものが複数ありました。

 

クラシック音楽家の祖父と母を持っていて幼少時から親しんでいたようですし、バークリー音楽大学を卒業しているし、近年もふだんから聴いているクラシック音楽のジャケット写真がソーシャル・メディアによく上がっています。オーケストラ伴奏で歌うナット・キング・コールやフランク・シナトラなどが好物みたいですし。

 

今回レイヴェイ自身がアレンジもしたのかも?という、もしかりにこの推測が当たっているとすれば、驚くべき才能じゃないでしょうか。いままでの作品はギターやピアノの弾き語りを主軸に据え、そこに若干のゲスト参加ミュージシャンズやDAWアプリで音をくわえ、陰キャなベッドルーム・ポップっぽくこじんまりと仕上げていました。

 

そんな曲の数々もフル・オーケストラの伴奏がつけばここまでゴージャスでリッチなサウンドで生き生きとふくらみ躍動するとわかり、歌のほうもそれにあわせて(いままでとはすこし違い)丸く聴きごたえのある声質で魅了するしで。最初からティン・パン・アリーのものに酷似したクラシカルなテイストのソング・ライティングをする天才ではありましたけど。

 

だからいままでは実現しなかったけれど、レイヴェイの書く曲はこうしたオーケストラ・サウンドによく合致するタイプのメロディ・ラインや和声進行を持っていたもので、ヴォーカルともども機会さえ与えられれば飛翔するだけの資質をかねてより備えていたのかもしれません。

 

なお、曲により自身のピアノ、エレキ・ギター、チェロ演奏も聴かせています。もはやそれらの楽器のレイヴェイ・スタイルにはすっかり親しんでいますので、オーケストラのメンバーによるものでないことはわかります。

 

(written 2023.3.3)

2023/02/25

レイヴェイ『A Night at the Symphony』トラックリスト

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(2 min read)

 

日本時間の2月24日早朝、起きてTwitterのタイムラインを読んでいたら突然目に入った「feeling like leaking the tracklist for Night at The Symphony」というレイヴェイのツイート。

 

アルバムは3月2日のリリースが予定されていますが、レイヴェイ自身待ちきれないといった様子がうかがえますね。それはぼくらファンのがわだってそうなんで、トラックリストを流してくれるのはやっぱりうれしかった。

 

その数分後に手書きのを写して載せてくれたのが上掲写真。公式Instagramにも載りました。これを見ていると、全14曲、予想どおりぼくらファンにはすっかりおなじみの自作ナンバーが大半を占めているとわかります。デビューEP『ティピカル・オヴ・ミー』(2021)からの曲もあり。

 

「ザ・ニアネス・オヴ・ユー」や「エヴリタイム・ウィ・セイ・グッバイ」みたいな有名スタンダードもあるし、一個だけ(ぼくは)見たことのないタイトルもふくまれていますが、シンフォニー・オーケストラとの共演でレイヴェイが歌うとなれば、だいたいどんなものか想像はつきます。

 

コンサート風景の写真を昨年たくさん見ていたころに、スタンド・マイクで歌うだけでなくピアノやギターもわきに置いてあったとわかっているので、それらを弾きながら披露した曲もあったのかもしれません。

 

さあ、アルバムのリリースはもう次の木曜日と近づいてきました。ワクワクしますね。

 

(written 2023.2.25)

2023/02/18

レイヴェイ『A Night At The Symphony』発売決定!

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Laufey / Valentine (Live at the Symphony)
https://open.spotify.com/album/7fdSE4B5ppCj5jL5iX99w3?si=aaGMXNq_Ts6GGrkA1Vb8rA

 

2023年2月14日、レイヴェイがアイスランド交響楽団とライヴ共演した曲「ヴァレンタイン」がリリースされました。これはきっと来るアルバム発売へ向けての先行公開に違いありませんよ。

 

その証拠にジャケットを見れば「A Night At The Symphony」との文字。これがアルバム題になるんでしょう。昨年10月末の二日間、故郷レイキャヴィクのハルパ・コンサート・ホールで実況録音したものがとうとう出るってことです。

 

あのコンサートについては昨秋にブログで記事にしましたが、コンサート全体をオフィシャルに録音くらいしただろうから、待っていればそのうち発売されるんじゃないか、ぜひそうしてほしいと書きました。果たしてそのとおりに。うれしい。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2022/10/post-f20f3c.html

 

…ときのうここまで書いたら、きょう2/15のレイヴェイ公式Instagram更新であっさりアルバム・リリースの情報が解禁されましたっ。『A Night At The Symphony』。3月2日。やったぁ〜!そいでこれ、一曲先行公開された「ヴァレンタイン」は公式映像もあります↓
https://www.youtube.com/watch?v=yNth3aGL5ho

 

ってことはおそらくコンサート全編を録画したはず。それも出ないかなあ(そっちはまだ情報なし)。CDも出さないレイヴェイのことだからDVDっていうよりYouTubeなど配信でってことなんですけども、そっちもなんとかお願いしたいところです。

 

さあ、一曲だけ聴けるようになった「ヴァレンタイン」でコンサート全体を予想するなんてムリなんですけど、それでもちょっとね、まあ3/2なんてすぐじゃないかとは思うけど、いまはその一曲だけ聴きながら思いを馳せています。

 

「ヴァレンタイン」はレイヴェイ自作ナンバーのなかで最もすぐれた人気の高い名曲。ぼくも大好き。ずっと恋愛に臆病だった主人公が、成就する恋に突然落ち、どうしようこれドキドキ(”I’m seconds away from a heart attack”)ってうれしい悲鳴をあげている内容。しかもメロディがきれいですよね。

 

この歌詞と比例するように、ここ一年ほどのレイヴェイの活動は思いのほか順風満帆で、本人も楽しそう。昨年八月のデビュー・アルバム発売以後、九月には絶品の『ザ・レイキャヴィク・セッションズ』リリース、そして十月にアイスランド交響楽団との共演ライヴ2 days 開催ときていますからね。

 

どこまでいくのか、大ファンのぼくとしてはワクワクしながら見守りたいと思います。まずは3月2日。

 

(written 2023.2.16)

2023/01/04

レイヴェイが好きというならベイカーも(チェット川柳)

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(3 min read)

 

Chet Baker Sings
https://open.spotify.com/album/5JJ779nrbHx0KB2lBrMMa4?si=9WXWrA-OR4yFMTlLJFH9Cw

 

『Laufey Digs Jazz』プレイリストでいちばんたくさん選ばれていたのはチェット・ベイカーで五曲。レイヴェイは自分のアルバムでも「Just Like Chet」という自作曲をやっているし、間違いなくチェット・ベイカー好きでそれが最大のインスパイア源ですよね。こないだはエイモス・リーもチェット・ベイカーへのトリビュート・アルバムを出しました。

 

この事実、ほんとうはちょっとあれだったんですよねえ、ぼくには。大学生のころ最初に聴いたときからずっとチェットはどのアルバムもなんか苦手で、特にヴォーカルがどうしても性に合わないっていうか、長年ガツンとくるブラック・ミュージック・シンガーこそフェイバリットでしたから。

 

がしかしそれでも愛するレイヴェイが好きというのなら…と、使ったお箸まで舐めたいくらいな心情があるもんで、最近趣味も変化してきたしで、ちょっと気を取りなおして、まずは『Laufey Digs Jazz』に選ばれていたチェットの五曲を抜き出してまとめ、聴きはじめました。

 

なかでも二曲選ばれている1956年の名作『チェット・ベイカー・シングズ』がひときわ心地いいように聴こえました。約40年間なんど聴いてもピンとこなかったのに、推しの力ってホントおっきいですよ。オープニングの「ザット・オールド・フィーリング」なんて、いまやたまらない快感です。

 

こういったちょっと軽めのビートが効いた調子いいナンバーこそぼく的には本アルバムで最高の好み。でもたくさんはなくて、ほかに「バット・ナット・フォー・ミー」(これもいいね)と「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」「ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング」だけ。

 

こうした曲ではヴォーカルもいいし、薄味で涼やかな軽いオープン・トランペットもちょうどいい味つけに聴こえるし、全体的になだらかでおだやか。いまいち乗り切れない内気な恋愛をさっぱり淡々とつづっている様子は、まさにレイヴェイ的。スウィング、ドライヴしているというほどではなく、まったりもしすぎていない中庸さ、それが気分ですよ。

 

だからどっちかというと暗さ、沈んだブルーな色香がただよっているバラード・ナンバーは、いまのぼくにはまださほどでもなく。といっても曲によりますが、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「ライク・サムワン・イン・ラヴ」「アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォー」あたりはもっと時間がかかりそうです。

 

(written 2022.12.23)

2023/01/01

ホンモノ/ニセモノといった二分価値観とは違う世界 〜 レイヴェイ・ディグズ・ジャズ

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(5 min read)

 

Laufey Digs Jazz
https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DWTtzPKJEaTC4?si=9132ccc459c44265

 

レイヴェイが好きなので関連もどんどん聴いているわけですが、こないだSpotifyに『Laufey Digs Jazz』というプレイリストが出現しました。レイヴェイほか現行レトロ・ジャズ・ポップス歌手たちの源流ともいえる古めの曲を集めたもの。

 

“Laufey shares her jazz favorites” と書いてあるので、Spotifyとレイヴェイがコラボしての企画かもしれません。ひょっとしてレイヴェイ自身の選曲っていう可能性が、いやたぶんそうに違いないと思わせる実感が、ふだんこの歌手のプライベートなInstagram投稿を見ているので、しっかりあります。

 

このプレイリストを流していていちばん強く感じるのは、ドライヴィな快速調が一つもなく、ふわっとソフトでおだやかで静かで室内楽な陰キャものばかりだということ。レトロ・ムードなんてのはいうにおよばず、こうした(ロックとはかすりもしないような)古めのジャズ・ソングこそ現行レトロ・ジャズ・シーンの源流になっているっていうの、もはやだれも疑わないことでしょう。

 

もうひとつとっても重要なことがわかります。それはいままでぼくら「ホンモノ」志向のジャズ聴きがケッと思ってきたような、つまりニセモノっぽいというかつまらないものと断じて遠ざけてきたような音楽が、ここではしっかり息づいているということ。

 

レトロ・ジャズ・シーンにおいてそうした「フェイク」が復権しつつあるというか、たとえば本プレイリストにも選ばれているヴァーヴ時代のビリー・ホリデイ、カクテル・ピアノ、『ゲッツ/ジルベルト』とか、おしゃれでムーディだけど骨がない、もし好きと言おうもんならわかっていないねとみなされてきたようなもの、そういうのが確固たる輝きとポジションを持つようになっています。

 

ある意味それらもホンモノと考えられるようになってきたというか、ホンモノ/ニセモノといった二分価値観とは違う世界がここにあります。つまり現行レトロ・ジャズ・シーンの主役になっているレイヴェイはじめ若手ジャズ歌手にとっては、紙で読むような玄人筋の本格古典評価なんてのは見たことないわけで。そんなの関係ないっていうか、サブスクでべたっとぜんぶならべて距離感の濃淡をつくらず聴いているみたい。

 

それでもって(周囲の、過去の評価にまどわされず)自分の耳で聴いて、心地いい、楽しい、くつろげると感じた音楽だけをみずから選びとっていて、自分でも書き歌う音楽のベースとしているわけなんですよね。ショップでレコードやCD買う際には棚にならべるための他者判断がどうしてもあらかじめ介在しますが、サブスク聴きの普及でそれが薄くなりました。

 

特にボサ・ノーヴァふうというか、つまり(従来的な見かたでは)フェイク・ボサ・ノーヴァなんですけど『ゲッツ/ジルベルト』みたいな音楽が、現行レトロ・シーンにおいてしっかり再評価されているということは、このアルバムがいいと思う人間はブラジル音楽がわかっていないとされる価値観で生きてきた人間には軽いショックですらありました。

 

ブラジル音楽、ボサ・ノーヴァと考えようとするから『ゲッツ/ジルベルト』やそれ系のちょっぴりスタイリッシュなボサ・ノーヴァ・インフルーエンストなアメリカン・ポップスなんかくだらないとなるんであって、そんな要素を軽くとりいれてみただけのムーディなジャズ・ソングとして、実はゆっくりおだやかにくつろげる良質ポップスだとわかってきます。

 

ジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンが全面参加しているもんだからそのあたりの評価であれこれ言われますけれども、レイヴェイや2020年代のレトロ・ジャズ・シーンにいる新世代歌手たちにとっては、それもまたムードがあって楽しいリラクシングな音楽なんですよ。クラシック系の一部室内楽やスウィング・ジャズなどと同列で。

 

(written 2022.12.12)

2022/12/23

クリスマス with レイヴェイ

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(3 min read)

 

Laufey / A Very Laufey Holiday
https://open.spotify.com/album/0NXOmjbsRluHO8QLpZFEBd?si=QJVktP83QWm-kIC5R_cuuA

 

毎年クリスマス・イヴにはクリスマス・ミュージックのことを書いていますが、今年は愛するレイヴェイ(アイスランド)の歌うそれで楽しみます。個人的心情ではレイヴェイ・イヤーでしたし、じっさい大きくブレイクしたし、愛好度もいちじるしく増したというわけで。

 

レイヴェイがこないだリリースしたクリスマス・ソングは「ザ・クリスマス・ウォルツ」(2022)。最初これ一曲だったのが、その後カップリング・ナンバーも追加されました。曲はフランク・シナトラのためにサミー・カーンとジュール・スタインが書いた、初演は1954年のシングルB面。その後スタンダード化しました。

 

レイヴェイの「ザ・クリスマス・ウォルツ」は、まずじわっと入ってくる瀟洒なストリングス・サウンドではじまります。弦楽は最初と最後に出てきていろどりを添えていますが、データがないのでどこのオーケストラかなんてことはわかりません。

 

ただいま(11月)欧州ツアーのまっただなかでレイヴェイがこれをリリースできたということは、あるいはひょっとして(わからないけど)故郷レイキャヴィクのアイスランド交響楽団という可能性があるかもしれません。10月末に同地で共演コンサートを行ったばかりですし、そのとき実家にしばらく滞在していたようですから。

 

レイヴェイのライヴはほぼ常にひとりでの弾き語り中心で、ときたまサポート・メンバーがつくケースがありはするものの、いずれにしても「ザ・クリスマス・ウォルツ」で聴けるような大規模弦楽と行動をともにするチャンスはほとんどありません。いつも陰キャなベッドルーム・ポップっぽいのがレイヴェイ。

 

「ザ・クリスマス・ウォルツ」だって、弦楽が聴こえていない時間はやはり弾き語りで、自室で録音したような響きを中心に構成されていますよね。終盤こどものヴォーカル・コーラスと、しめくくりにそのまま「メリー・クリスマス!」とみんなで元気に叫ぶ声が入っています。

 

カップリングの「ラヴ・トゥ・キープ・ミー・ウォーム」は2021年12月にシングル・リリースされていたものをそのまま流用。ドディーとのデュオ・ヴォーカルで、こっちもチャーミングです。やはり季節感ピッタリな冬の歌ってことで選んだのでしょう。

 

(written 2022.11.20)

2022/10/30

Laufey & Sinfó

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(4 min read)

 

※ 写真はいずれも本人の公式Instagramより

 

去る10月26、27日、故郷アイスランドのハルパ・レイキャヴィク・コンサート・ホールでアイスランド交響楽団との共演コンサートを開催し成功させたレイヴェイ(在ロス・アンジェルス)。大規模シンフォニック・オーケストラとのライヴはレイヴェイにとって初めてのことでした。

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本人のInstagramストーリーにその模様がサウンドつきであがっていたので、ぼくも楽しみました。でも部分的だったので。配信でもフィジカルでもいいからフルの作品として公式リリースしないのかな。本人も気持ちの入ったメモリアルなコンサートだったようですから、ぜひ作品化してほしいですよね。

 

でもぱっとインスタ、それも他人の投稿をシェアするかたちでストーリーにあげちゃって(当面は)それでおしまい、24時間で消えちゃう、っていうのがいかにもいまどきというかZ世代らしいですよ。さすがにオフィシャルで実況録音くらいしただろうと思うんですけども。

 

いままでレイヴェイがオーケストラと共演したものというと、もちろんライヴじゃありませんが、2021年のシングル「Let You Break My Heart Again」一曲だけ。ふだん強調しているように、このところのレトロ・ポップスは少人数でのサロン・ミュージックふうなこじんまりした陰キャな音楽という部分にも特色がありましたし。

 

ぼくのなかではそんな近年レトロ・トレンドの象徴みたいな存在であるレイヴェイは、しかしクラシック音楽の素養も色濃くあって、なにしろバークリー音楽大学卒ですし、ふだんから管弦楽などもどんどん聴いている様子がInstagramにあがっています。中国系の母と祖父はクラシックのヴァイオリニストですから。

 

それに以前も言いましたが、レイヴェイの書く曲はティン・パン・アリー系のものにそっくり。なにか天賦の才だろうと思うほどクラシカルで、そんな世界にはもともとオーケストラ伴奏が似合います。西洋近代音楽からの影響も強くあって成立した音楽なわけですし。

 

DAWアプリを駆使するベッドルーム・ポップみたいに展開されてきたいままでのレイヴェイも、その曲じたいはオーケストラ伴奏で歌うのに向いたクォリティをハナから持っていたものともいえて、2021年のデビュー時にはまだインディーだったし予算レスで、だから宅録や弾き語りをやっていただけだったのかも。

 

どっちでやってもきれいに映えるのがクラシカルな美しさを持つレイヴェイ・ソング。いままでずっと室内楽的に料理されているの(しかリリースされてこなかったわけですし)ばかり聴いてきて、それで個人的にレイヴェイにはまり、ピアノやギターでのソロ弾き語りなんか絶品だと思うほど。

 

でも大規模管弦楽との共演で、この曲やあの曲がどんな感じになるか、とっても興味があります。今年に入ったくらいから昇龍の勢いに乗っている音楽家ですし、録音されたに違いないとぼくは思うアイスランド交響楽団とのこないだの共演コンサートが一日もはやく公式作品としてリリースされますようにと願うばかり。

 

できればライヴにも行きたい。来日しないのならこっちが出かけていきたいと思うほど、レイヴェイが好き。

 

(written 2022.10.29)

2022/09/27

美しい、あまりにも美しい、レイヴェイのアンプラグド弾き語り 〜『ザ・レイキャヴィク・セッションズ』

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(4 min read)

 

Laufey / The Reykjavík Sessions
https://open.spotify.com/album/2TJvQ6w1v1rcabWhhNBDWS?si=I1LjtmJuRbKYPFbOOpCESQ

 

数日前にリリースされたばかり『ザ・レイキャヴィク・セッションズ』(2022)っていうのは、たぶん今夏レイヴェイ(米LA在住)は故郷アイスランドの首都にちょっと帰っていたんですよね。デビュー・アルバムが出た八月あたり。そのときホーム・セッションみたいにピアノやギターで自分の曲を弾き語り録音したんでしょう。

 

この22分ほどのニューEPがですね、も〜うホント、いままでのレイヴェイの全音源、といってもちょっとしかないんだけどまだ、のなかでも最高にぼく好みでアット・ホームなファミリアー&ロンリネス感で、こんなにもすてきな音楽、この世のどこにもなかった、いままでの人生で出会ったなかでNo.1じゃないのか、といまは言いたい。

 

収録の全六曲はいずれも過去に発表済みレパートリーのセルフ・カヴァー。でも既発ヴァージョンよりここでのソロ・アクースティック弾き語りのほうがはるかにいいと思えます。お得意のDAWアプリは使っておらず、生演唱ワン・テイクでの収録で、そもそもアナログ感の強い音楽家だったしはじめから。

 

個人的には、ギターもの(2、3、4)も抜群だけどクラシカルなピアノもの(1、5、6)がよりすばらしいと感じます。そしてどれもまさにこう解釈されるために生まれてきたっていう曲本来の姿をしていて、ここに「決定版レイヴェイ」みたいなものができあがっちゃったなあとの感を強くします。

 

サウンドがナマナマしく、まるで同じ部屋のなかで仲のいい親友に聴かせるようにそっとソフトにつつましくやっているような、そんな音響も最高にすばらしい。息づかいまで手にとるようにわかる極上音質なのが、そうでなくたってインティミットなレイヴェイの音楽性をいっそうきわだたせています。

 

どんな細部までもフェザーでデリケートな配慮と神経が行き届いていて、声の出しかたもそうならピアノ鍵盤やギター弦に触れる指先の動きの微細な隅々にいたるまでコントロールしているレイヴェイの、さらりとナチュラル&ナイーヴにやっているようでいながら実は高い技巧に裏打ちされたミュージシャンシップも伝わってきます。

 

それなのに緊張感が張り詰めたようではなく、故郷でくつろいでイージー&カジュアルにさらりあっさりとやってみただけっていうようなムード満点なのが、っていうか実際そうだったんだろうし、それがかえってこの音楽家の真価を表現しているよう。

 

ラフ・スケッチなのにつくりこんだようにていねいで、臆病だけど大胆だっていう、そんな相反する二重要素が同居している『ザ・レイキャヴィク・セッションズ』、アンプラグドなピアノ or ギターのライヴ弾き語りというフォーマットが、もとからいいレイヴェイの曲の美しさを極上シルクのような肌あたりにまで高めていると聴こえます。

 

いまはもうこれだけあれば生きていけるんじゃないか、なんだったら聴きながら死んでもいいっていうほど、好き。

 

(written 2022.9.25)

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